#020 お披露目式

「へぇ、今、監視カメラってそんなに安くなったのかぁ」

「でも、壊れたりして動かなくなっちゃったら大変じゃない?」

「これは後付けで鍵はそのまま使えますし、もし何かあったらいつでも駆け付けますよ」


 若宮家に押しかける中高年。あれからリフォームは9割終わったのだが、このタイミングでご近所にお披露目式が開かれる事となった。


「コーヒーの人~、新しいのが入りましたよ~」

「いや~、ご無沙汰じゃったのぉ」

「これ、差入れ。みんなで食べて~」


 井戸端会議に花を咲かせている人たちもいるが、それも賑やかしとして人を集めるのに貢献している。今回のお披露目会は、村社会のシキタリではなく、モデルルームの見学会のようなもの。


 リフォームに合わせてスマート家電や防犯アイテムを導入したのだが、若葉工務店や町内会の申し出もあり、その実演や販促がおこなわれ、かわりにリフォーム料金をけっこう値引きして貰えた。


「司くん、これは、どうやって見るのかね?」

「これはここのボタンで。でも、テレビでも確認できるので、難しそうならテレビや、こっちの専用モニターに映しっぱなしにするのもいいですよ」

「はぇ~。いろいろあるんじゃねぇ」

「商店とか工場なんかをやっているなら映しっぱなしが簡単確実ですけど、テレビ電話も使えますし、これを機会にこっちを覚えるのもいいかもしれませんね」


 まぁ、何だかんだ手伝わされているので、実質トントンくらいになっているのだが、そこは気にしないでおく。


「これ、ワタシのスマホでも、見れるのかい?」

「あぁ、大丈夫ですよ。設定さえしてしまえば、外からでも見られます」

「出かける時、ナイちゃん(ナイルオオトカゲ)が心配で、これがあればいつでも見れるんですよねぇ??」

「そうですね、カメラの範囲に入ってくれれば。普通の監視カメラと違って、声もかけられますよ」


 お年寄りは最新のデジタル製品に弱いイメージがあるものの、ボケ防止や暇つぶしでスマホ(やゲームアプリ)を使い倒している人も多い。毛嫌いしている人も『興味はあるけど覚えられないと諦めている』人や、誘ってくれる友達を待っているパターンもあり、それが今回の大盛況につながった。


「いや~、助かったわ。ちょっと、休憩にしましょ」

「え、あぁ、いただきます」


 お茶を出してくれたのは町内会(自治会)の番場さん。初めて知ったのだが、防犯パトロールなどの活動には市から補助金が出ており、地域貢献をしながら(儲かるほどではないが)謝礼も貰えるので率先して取り組んでいる人はそれなりにいるそうだ。


「回覧板を回すだけじゃ、どうしてもね~。呼びかけておいてなんだけど、監視カメラ(の設置や設定)なんてよく分からないし、あとから勝手口をオートロックに出来るなんて、知りもしなかったわ~」

「まぁ、最近できたものですし、じっさいそこまで普及していないですからね」


 センサーライトやダミーの防犯カメラくらいなら『よくわからないけどホームセンターで買て付けた』って人はいるものの、やはりハードルは高いし、興味はあってもどこに頼んでいいか分からない部分もある。使ってみると確かに便利なのだが、パソコンと同じで、身近に詳しい人が居るかどうかで決まってしまう。


「それで、今度ウチでやっているパソコン教室の授業にも組み込みたいと思っているんだけど…………相談に、のって貰ってもいいかしら??」

「そうですね。これだけ人が集められるなら、ちゃんと教える場を整えるのもいいかもですね」


 番場さんは、主婦業の傍ら自営で子供やお年寄り向けの各種講習会をひらいている。年賀状作成やスマホの使い方教室などの初歩的な事しか教えていないが、スマート家電や防犯対策を教える場としては最適だ。


「若葉(工務店)さんには(話を)通してあるけど、設置や販売はお任せして……。……」


 地域貢献というか、協力するのはやぶさかではないのだが、間に入ってくれている人が業者なのは非常に助かる。最悪なのは『個人間のお願い』として時間や報酬がおざなりになるパターンだ。


 今回は番場さんや若葉工務店が窓口になってくれているので、一次対応はそちらに丸投げできるし、今後何かあった場合、おたがい事業者として正式に報酬を請求できる。ようするに、コンサル業が成立するわけだ。


(あと関係ないが、税理士なども紹介してもらう予定だ。納税や経費の管理はある程度自分でやっているが、独立したことで見落としや、単純に作業量も増えたので、頼める人を探していた)


「それならいっそ! 司さんが講師をするのはどうですか!? ストリーマー教室、みたいな!!」

「アハハ、そこまでは本業もあるしね」


 とつぜん飛びついてきたワカメちゃん。制服姿なので、学校帰りに直接来たようだ。と、言う事は……。


「わ”~か~め~」

「ちょ、まって、痛いから、完全にはいって…………グピ……」

「あははは、モテモテね」

「いや、まぁ、若い子にモテるんですよね、この"職業"」


 ぶっちゃけ俺も、中高学時代に配信活動をサポートできる人が身内に居たら、飛びついていたと思う。ゲーム実況やパフォーマンスは、まだ自分で何とかできそうにも思えるが、編集作業や環境構築にかんしては専門知識や軍資金が必要なのもあってハードルが高い。


「人気の職業だからね。親としては、あまり……」

「実際、オススメはしませんよ。生活保障とか、プライベートも有って無いようなものですし」

「じつはウチの娘も、紹介しろ紹介しろって、煩いのよね……」

「まぁアレですね。この娘は絶対に会社には馴染めないし、結婚も出来ないって思ったら…………そういう個性的な子には、向いているかもです」

「ぷっ、ニートにしておくよりは、いいのかもね」




 そんなこんなで若宮家のスマート化と、ハナレのリフォームはようやく完成した。

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