#019 スマホの初期設定

「おぉ、これが、スマホ……」

「SIMなしだけどな」


 初スマホに感動する中学生。例のメーカー製ではないので友人の反応はイマイチかもしれないが、ソコソコの機種を選んだので、ゲーム以外は問題なく動いてくれるはずだ。


「契約すれば使えるんだよね?」

「いちおう、な。小型タブレットみたいな状態だけど、本人認証とかは普通につかえるから」


 さっそく設定していく。ケイはすでにタブレット(アカウント)を持っているので、そこまで作業は多くない。


「稼いだら…………いや、でもなぁ……」

「そこは早苗さんと相談って事で」

「うん」


 格安回線もあるが、それでも年単位で考えれば(中学生には特に)バカにできない額であり、にもかかわらず電話はほとんど使わない。そのあたり友達の有無などで激しく変わってくるかもしれないが…………まぁ、まだ中学生なのでそこまで気にする必要はない、はず。


「通話もアプリで事足りるだろうけど、外では使えなくなるのと…………あぁ、そうだ」

「??」

「電子決済。外で買い物するときは、いちおう使えるはずだけど…………かなり制限をうけるはずだから。支払いもそうだけど、クーポンとかも」

「あぁ~、まぁ……」


 すっかり忘れていたが、アプリはオフライン状態だとかなりの機能制限をうける。主要な電子マネーはオフライン状態でも(決済機能は)使えるものの、アプリの追加機能や、大半の会員カード(アプリ)は起動すらしてくれなくなる。


 ともあれ、そういったサービスの利用経験がないケイの反応は鈍い。俺的には(仕事以外だと)そっちがメインで、今、財布の中に会員カードは1枚も入っていない。すべてアプリにして、対応していない会員カードはそのつど捨てている。


「ひとまず必要なアプリを入れて、あとは何か買ってみるか」

「そうだ! "ストーム"! あとお絵描きアプリとかも!!」


 ストームとは、海外のゲーム配信サービスだが、ゲームのみならずVRや配信関連のクリエイターソフトも取り扱っている。スマホの有料アプリもそうだが、これらの購入手段はクレカが基本となっており、未成年が買おうとすると何かとつまずく。


 ストームに限らず、今回のスマホ購入はそのあたりの環境を整える意味もあり、(ゲームや配信はしなくとも)サポートをする立場として、ひと通りは体験して、どんな要望も理解し、対応できるようにしておかなければならない。





「ひとまず、こんなところか? 分かっていると思うが、できるだけ関係のないアプリは入れるなよ」

「わかってるって」


 主要なアプリも入れ終わり、気づけば夜もふけてきた。パソコンの設定もそうだが、慣れていてもやり始めると、大抵一日がかりになってしまう。


「あとは……」

「ねぇねぇ、その……」

「ん? あぁ、アドレス登録しておくか」


 ケイは俺のアドレスを知らない。いちおう、タブレットがあるので登録しようと思えばできたのだが、タブレットは作業に使うのと、やはり同じ屋根の下で暮らしているので会って手取り足取り教えた方が圧倒的に早い。


「えへへ、見て見て、お兄ちゃんのアドレス、1つ目だよ」

「あ、あぁ……」


 SNSは設定を引き継いでいるが、スマホ本体のアドレス登録や新しく入れたアプリには、俺のアドレスが最初にして唯一の連絡相手になっている。基本的には仕事用スマホになるので、これから消すに消せない取引相手に占領されていくのだろうが…………まぁ、この状態は、悪い気はしない。


「ねぇ、連絡とか、ダメな時間ってある?」

「いきなり通話してこなければ、いつでも。都合が悪い時はスルーするし」

「そ、そうだよね」

「「…………」」


 なんだか妙な雰囲気になってきた。ケイとは、仕事の事もあって話す機会はあるものの、基本的には陰キャというか人見知りするタイプ。用事(口実)が無い時はまったく話さない。


「「…………」」

「おわったか??」

「あ、あぁ、だいたいな」


 ぬるりとジュンが生えてきた。仕事の雰囲気を察知すると姿を消すものの、ケイと逆で、用事がない時はベッタリだ。まぁ今回は、眠くなったのもあるのだろうが。


「ちょ、なんで間に」

「もう、終わったんだろ??」

「そ、それは!」


 あえて俺とケイの間に割って入るジュン。関係ない話だが、俺はジュンを犬系だと思っている。好奇心旺盛でスキンシップも大好き。普段は暴走しがちだが、躾たところは守ってくれる。


「そろそろ、お眠か?」

「ん~~~」


 とりあえず背中をさすってやる。質問の答えはかえってこないものの、ひとまず気持ちよさそうだ。


「まったく、お兄ちゃんはジュンに甘すぎだよね」

「そうか? べつに、差別しているつもりは無いが。ホラっ」

「う、うぅ……」


 ケイの背中もさすってやる。さすがに恥ずかしそうだが、嫌がる様子はない。


「ん~…………」

「寝たか?」

「まったく、ジュンは強いよね。お姉ちゃんにも、分けてあげればいいのに」

「??」

「それじゃあ、私は部屋に戻るね。今日は、ありがと」

「あぁ、どういたしまして」




 どこか名残惜しそうなケイを見送り、スマホの初期設定会はお開きとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る