#021 リフォーム完了

「ひとまず、こんなところか」

「置いただけですけど、なんだか事務所って感じですね」

「事務所というか、スタジオ? ラジオとかの収録もできそう」


 カオルとケイに手伝ってもらい、ハナレに荷物を運び入れた。これから配線や設定地獄が待っているのだが、そこは一人でコツコツすすめていく予定だ。


「じっさいそのつもりで発注したからね。ありがとう、助かったよ」

「いえ、手伝えることがあったら! 何でも言ってください。その、機械の事とか、よく分からないけど……」

「あんまりカオル姉のこと、信用しない方がいいよ。なにせこう見えて、パワー系だから」

「ちょっ! ケイ!!」


 もとは手前の土間を作業場にして、奥の座敷を寝室や荷物置き場にしていたが…………リフォームでフルフラットにして、奥を事務所に、壁で仕切って手前を水道完備の居住スペースにした。ちょっとした書き物は居住スペースのベッドで足をのばしながらってのもいいが、事務所スペースは仕事専用として気持ちを切り替えて使うつもりだ。


「あはは、とりあえず、ケーキでも食べようか」

「あっ、お茶淹れますね」

「せっかくだし、冷蔵庫も置けばよかったんじゃ?」

「ん~、欲しい気持ちもあるけど、冷蔵庫の音ってけっこう響くんだよな」


 お礼も兼ねて買っておいたケーキを振る舞う。水道や電気ケトルはあるので、お茶やカップ麺くらいなら作れるが、基本的に料理やそれ以上の家電は入れない予定だ。気にしすぎな気もするが、事務所内も、ファンの音があるのでパソコン本体は居住スペース側に逃がしてある。


「まぁ、ちょっと歩けば台所ですしね」

「いっそ、母屋と繋げちゃう? 新屋みたいに!」


 若宮家の母屋は、台所や風呂に現在は物置になっているが他界した祖父祖母の部屋がある本屋と、私室がある増築エリア(新屋)に分かれている。増築なので廊下で繋がっており、あまり意識することはないが、トイレも二か所あり、リフォームや建て替える場合は、片方に住みながら片側ずつ工事できる構造になっている。


 俺がいるハナレは、その名のとおり繋がっていないが、新屋のノリで繋げたり、完全に繋げないにしてもウッドデッキや屋根をつけて『屋外だけど室内のように使えて、法律的にも問題無い』みたいなのが流行りなのだろう。


「よく知らないが、今はそういうの難しいんじゃないか? 固定資産税とか、建築基準法とか」

「あぁ…………なんか、煩そうだよね。勝手に建てるの」

「原状回復の問題もあるしな」

「「…………」」


 気まずい雰囲気になってしまった。そう、俺はあくまで居候。ハナレの土間を張り替えたのも、いざとなれば農作業用としてそのまま使えるから。


 現在、農家としての活動は大幅縮小状態にある。祖父祖母が存命だったら、あるいは叔父さんの仕事や男児の有無でもかわったのだろうが、叔父さんの定年後はある程度の規模で再開する可能性も考えられる。そのあたり『気にしなくていいよ』と言われているが、土地や高価な農機具もそれなりにあるので、(すでに貸し出しなどもおこなっているが)活用しないのは勿体ない。


「まぁ、今のところ行く当ても無いし、とりあえず"無期限"でよろしく頼むよ」

「はい! いつまでも!!」

「まぁ~、お母さん(早苗さん)はそのあたり、考えていると思うけどね」

「??」

「あぁ、そうだ。早苗さんに言ってあるけど……」

「「????」」

「たまに、ハナレうちに人が泊まるかも」

「はい!?」

「配信の知り合いが訪ねて来ることもあるかなって」

「あ、あぁ、驚きました。そっちですか」


 基本はリモートだが、ここまで整えたのだから活用したい。勤めていたデザイン事務所も、(スタジオではないが)機材の貸し出しや、会議室を簡単な撮影に活用・レンタルしていた。


「配信は基本夜中だから、来てもらった場合、帰りの電車はないからな」


 大手事務所ならタクシーを呼ぶのだろうが、中堅以下にそこまでの余裕はない。それになにより、深夜使えるスタジオの予約は苦労する。その点ここは本格的な機材こそ無いものの、周囲になにもないので下手なスタジオよりも気兼ねなく使える。それこそ『尻で風船割り』みたいな企画をやっても苦情が来ることはない。


「あぁ、電車はなくなっちゃいますね」

「安心していていいの?」

「はい??」

「配信の知り合いって、みんな女性だよ」

「はいぃぃぃ!!!???」


 防音室を貫通するレベルの奇声がこだまする。防音室といっても完全に音を遮断するわけではないので、周囲の環境もバカにできない。それこそ、スタジオを借りて収録しているのに、煩すぎて収録が中断させられる場合もあるのだ。


「全員ではないがな。それに、言っては何だが皆いい歳で、お泊りとか、今さら気にしていない(年齢だ)から」

「それ、いや、でもでも……」




 そう、ストリーマーの実年齢は…………まぁ、その、深く考えてはいけない。

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