#013 リホーム計画

「時間だ、時間! いっしょに見よう!!」

「まぁ、いいけど」

「そ、そうですね」


 休日の朝食後、今日はまたホームセンターに行く予定なのだが…………その前にジュンやカオルと一緒に特撮を見る事になった。


「ひさしぶりだな。今は原点回帰で虫がモチーフなのか?」

「…………」

「そ、そうみたいですね」


 テレビに釘付けになるジュン。休日の朝は各種特撮ヒーローモノが連続して放送される。魔法少女モノは見ていないあたり何ともジュンらしいのだが、まぁ俺としてもこっちの方がまだ理解できるので助かる。


「ベルト、メチャクチャ喋るな。CGも豪華になったし」

「「…………」」


 スルーされてしまった。ジュンだけでなく、カオルもけっこう集中しているようだ。


 昔、若宮家に来たときは放送終了後の時間帯だったが…………そういえば当時のカオルもハマっていたっけ。このシリーズ、途切れている時期もあるそうだが、今は玩具展開が成功して大人のファンも多い人気シリーズになった。


「いっけ~~、ぶっ殺せ!!」

「そこだ! やれーー!!」

「!??」


 興奮して、口調が同化する2人。成長して女性らしくなったカオルだが、やはりベース部分は同じらしい。


「くそ~~、また逃げられた」

「ハハッ、惜しかったな」

「そ、そうですね」

「でも、新しいベルト、良かったな!」

「そうなのか? 前のを知らんのだが」

「それならカオルね……」

「わぁわぁ!! ジュン! ちょっと来なさい!!」


 番組も終わり、興奮したジュンをカオルが拉致していく。あの様子だと、まだこのシリーズを見ているのだろう。特撮ヒーローはいちおう子供向け番組だが、大人向けシリーズも存在しており、映画には旧作主人公も登場するので世代をこえて楽しめる。


「えへへ~、アイス、貰っちゃった」

「そうか、よかったな」


 正義のヒーローが、あっさり買収されているのですがそれは。


「お茶、飲みますか?」

「あぁ、ありがとう」


 満面の笑みでアイスを頬張るジュンを見ながら、渋い緑茶を啜る。一人暮らしをしていたころは眠気覚ましというか、半分中毒でコーヒーばかりになっていた。しかし俺も日本人、やはり緑茶は落ち着く。


「もしかして、変身ベルト、持っているのか?」

「ブゥー!! ゴホォ、ゲホォ、は、鼻に……」

「その、すまん。大丈夫か」


 お茶が気管に流れ込み、今、カオルの生命を脅かしている。なんとなく口から漏れてしまったのだが、本当に申し訳ないことをした。


「カオル姉ちゃん、凄いんだぞ!」

「ちょ、ジュン!!」

「別に、いいんじゃないか? 少なくともアクセサリーや鞄よりは理解できるし。なぁ?」

「なぁ~~」

「もう、2人とも……」


 人それぞれだと思うが少なくとも俺は、女性にネイルなどの話をフラれても理解できない。それどころか『邪魔で不衛生じゃないのか?』って気持ちが先行してしまう。その点まだ、ジュンの特撮は理解できるのでたすかる。


 まぁ…………今の魔法少女は、大きなお兄さんにも大人気のようだが。


「まだお店が開くのには早いか。そういえば、ケイはどうしてるんだ?」

「たぶん、まだ寝てるかと」

「ハハッ、まぁ寝かせてやってくれ」


 ケイは最近、俺の斡旋もあって頑張っている。もちろん仕事なので『好きなものを自由に描く』ってのはできないし、制作者も非公開にしているのでケイ自身が注目される事は無い。しかしそれはそれとして『自分が描いたものをVが使っている』っていうのは嬉しいもの。


 絵師としては自分で考えたオリジナル作品が評価された方が嬉しいのだろうが…………普段あまり目にしない裏方の、実情や喜びを知る機会を与えられたのは、俺としても嬉しく感じている。


「ん~~、ちょっと、お昼寝」

「ちょっと、ジュン! どこに!!!?」


 俺の服に潜り込むジュン。どうも最近、カンガルースタイルがお気に入りらしい。


「もうすこし、大きめの服を買った方がイイかな?」

「そういう問題じゃ!!」

「なんならカオルも入るか?」

「え!? いいのでシュか? じゃなくて! あぁ、もぅ~~!!」


 悶えるカオル。もちろん物理的に不可能なのだが、いくらか羨ましいと思う気持ちもあるのかもしれない。まぁ大半は、早々に俺に懐いているジュンへの困惑なのだろうが。





「その、お金はあるんですよね?」

「このくらいはな。それに、無しでいけるものでもないしな」


 ジュンを残してカオルとホームセンターに来た。ひとまず生活に必要なものは揃っているのだが、夏に向け、どうしても買わなければならないものがある。


「買うとしたら、(ハナレは広いので)こっちの高いヤツで、出来れば断熱も見直さないと」

「やっぱりそうだよな」


 車も欲しいところだが、ひとまずはエアコン。都会に比べたらまだ涼しいものの、さすがに現代日本の夏をエアコンなしで挑むのは自殺行為だ。


「電気工事もいりますし、その…………結構、本体価格も」


 量販店ではなくホームセンターを選んだのは、ゆっくり見て回れるのもあるが、それとは別に『購入するお店が決まっている』という問題がある。これは田舎というか若宮家の問題なのだが、付き合いがある個人店があり、すこし高いのだが大物家電はいつもそこで買っているのだ。


 もちろん、俺がその付き合いに従う義務はないので、それこそ『ネットで最安品を探して、工事だけやってもらう』って手も使える。しかしそこまでするほどお金に困っていないし、エアコンはガスの扱いや工事の問題もあるので信頼できるところに依頼したい。そういう意味では、知り合いに頼めるのはむしろ幸運かもしれない。


「いっそ、そこで断熱工事も頼めないかな?」

「さぁ、そこまでは……。たぶん無理だと思うんですけど、どうなんでしょう?」


 『断熱工事をするのと、その分を電気代に当てるの、どちらが得なんだ?』って問題はあるが、それとは別に防音処理もしたいので壁のリホームは考えていた。


 若宮家周辺の人口密度は低めで、実のところ出ていく音はそれほど気をつかう必要は無い。しかしながら虫の音や、裏道をぶっとばす深夜の暴走車両など、田舎でもあんがい騒音問題は絶えない。


「というか、贔屓の大工だか工務店もあるよな?」

「あぁ、たぶんあると思うんですけど、どうなんでしょ?」


 リホームだと十年くらい音沙汰無しでも不思議は無いし、カオルが知るはずもないか。


「床も直さなくちゃだし…………いっそ、全部取っ払って、アメリカの映画とかに出てくるガレージハウスっぽいのにしちまうか?」

「車の横に置いたソファーで寝起きするヤツですか? それはダメです」

「ですよね~」


 個人的にはワイルドで全然アリなのだが、健康的で文化的な生活は軽視するべきではない。というか俺も特別体が丈夫ってわけでもないので…………数日続けたら、あっさり体を壊しましたってオチがつく気しかしない。


「まだ(本格的に暑くなるまで)時間はありますけど、後戻りできないことですし、プランはちゃんと考えておかないと」

「そうだな。節約も必要だし…………自分でやれるところは自分でやることも、考えなくちゃな」


 視線の先には資材エリア。ホームセンターなので当然、木材や専門工具も売られている。やる気はないが、それこそ全部自分でやって、それを動画にする手だってあるわけだ。


「せっかく、工具もそろってますしね」

「え? あるの??」

「たぶん。たまにお父さんが(畑の)小屋とかなおしてるし」


 倉庫に農機具などが揃っているのは知っていたが、DIY系の工具まであるのは知らなかった。


「そういえば洗濯干場の雨よけも、手作りっぽかったな」

「お父さんが作ったやつですね」

「なるほど。考えてみれば、けっこうあったな」


 叔父さんが趣味としてDIYをやっているところを見た事は無い。たぶん、農家の仕事の延長なのだろう。しかし、道具が揃っているのはありがたい。専門的な工事は、もちろん業者に頼むつもりだが、簡単なメンテナンスくらいは自分で出来るにこしたことはない。


「その…………私でよければ、その、手伝えますけど……」

「イイのか? 勉強や友達付きあ……」

「大丈夫です!!」


 わりと食い気味のカオル。もしかして興味があって絡むチャンスを狙っていたのか?


「まぁ、1人じゃできないだろうし、考えてみるか」

「はい! そうしましょう」




 こうしてハナレのリホームは、出来るところは自分たちでやることになった。

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俺はこの田舎で人生をやり直す。 行記(yuki) @ashe2083

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