#038 負担対策

「ん”~~~……。お兄ちゃん、目薬ある?」

「あぁ、えっと…………はい」


 夜、今日もケイと配信用の素材づくりに励む。


「ありがと」

「すこし、休憩するか」

「あぁ…………うん。ちょっと休もうかな」


 こういう時にインスタントコーヒーは便利だが、夜、中学生のケイに振る舞うわけにもいかず、そうなるとホットミルクなどのノンカフェインな飲料が望ましいのだが、そのあたりは冷蔵庫がないと管理が厳しい。トイレもそうだが、やはりいつか改善したいところだ。


「ちょっと、無理がたたっているのかもな」

「あぁ…………そうかも。視力とか、維持している自信、ないかも」


 軽く笑い飛ばしているが、俺はその原因と言える存在。遺伝などの影響もあるだろうが、維持できるならそれにこしたことはない。


「首や腰、あとは偏頭痛とかはないか?」

「あぁ~、どうだろう、言われてみれば、背中とか最近辛いかも」


 そのあたりは職業病。俺も一通りはヤッて、いろいろ試した経験がある。


「違和感を感じたらちゃんと休めよ。マッサージ、してやろうか?」

「あぁ、うん、お願い」


 ケイを横にして、首から背中にかけてさすってやる。若さもあってかガチガチ感はないので、力は出来るだけかけず、血行促進を意識しておこなう。


「どうかな? このくらいの加減で」

「あぁ、うん。気持ちいいかも……」

「長時間の作業で神経に負担がかかっているから、姿勢や、あとは薬も、うまく活用すると良いかもな」


 デスクワークだと腰まわりをイメージする人も多いが、パソコン作業だと首回りの方が問題になりやすい。単純に首を曲げて負担がかかるパターンもあるが、作業のし過ぎなどからくる目や脳の警告がそのあたりに出る事もある。


「あっ、そこっ、きもちいいかも……」

「このあたりか」

「うん、すごく、いい……」


 血行が良くなり、ケイの体や声に熱がこもる。これがアニメなら、盗み聞きしているヤツが勘違いしそうな状況だ。


「ほかに、気になるところはないか?」

「ん~~、しいて言えば、目の奥?」

「それは…………目を閉じて休むのが1番だな」

「はぁ~~ぃ。とう!」


 俺の太ももに顔をうずめるケイ。ちなみにホットアイマスクなどもあるが、充血などの症状の時は逆効果になるので使わない方がいい。そのあたりは症状に合わせて選ばないといけない、怖い部分になる。


「この仕事をするなら、あるていどは諦めなきゃだけど、あまり無理はするなよ」


 最近だと、長期休載していた人気漫画家が、実は重度の腰痛で(サボっていた訳ではなく)執筆作業そのものが出来ない状態にあったと話題になった。


「はぁ~ぃ。お兄ちゃんは、大丈夫なの??」

「俺は、今のところ大丈夫だな。とはいえ定期的に不調は感じるし、そのたびに色々試しているけど」


 大切なのはその都度調べて、正しく対処する事。どうしても手探りな部分はでてしまうが、民間療法の中には効果がない、むしろ逆効果だってものも多いので、そこを回避するだけでも全然違う。


「たとえば~?」

「そうだな。漢方薬を飲んでいた時期もあるな。葛根湯とか。初期段階の、ぼんやり広範囲に不調な時は結構いいぞ」


 漢方薬は基本的に、弱く広範囲に効いてくれるので、栄養ドリンクや健康食品のように毎日服用できるのが強みだ。


「なんで止めちゃったの?」

「あぁ、独特の風味がな。あとは続けると高くつくし」

「あぁ~、たしかに、苦手かも」

「今は安い頭痛薬(効果が穏やかなもの)を買って、気になる時だけ飲む感じだな。けっきょく、しっかり食べてしっかり寝ていれば、大抵なんとかなるから」


 栄養ドリンクは会社員時代にお世話になったが、あれは効き目を実感できるのは最初だけ。徐々に効果が薄れていって、それにともなって高価で強力なものが手放せなくなっていく。エナドリやコーヒーもそうだが、この手のドリンクは無理がしたい時用。常用は避けたい代物だ。


「そういえばお兄ちゃん、一度寝ると何しても起きないよね」

「あぁ、そうらしいな。自分ではこれが普通だから(そうではない人の感覚は)よくわからないが」


 そのあたり不眠症(寝つきが悪い程度も含む)の人は辛いところ。適度に休めばいいといっても、そもそも寝付けないのでは対策に組み込めない。そういう人は寝る前の作業は避けて、早起きしてこなす。あるいは食事や運動するタイミングを調整して、夜、体が睡眠に適した状態になる事を最優先に行動するとよかったりする。


「寝ている時にイタズラしても、バレないから……」

「おっと、早起きには自信があるし、調子に乗っていると不利なのはソッチだぞ」

「ぐっ! ん~、でもまぁ、そのときは責任とってもらうから、いいけどね~」


 ダメだ、この手の話題は男の俺が絶望的に不利。同じ土俵にあがった時点で負け確くらいに思った方がいい。


「あぁ、あと、良い姿勢でも長時間作業していればソレも負担になるから。たまにはベッドで足をのばして作業するのもいいぞ」

「あっ、逃げた。……そういえば、お兄ちゃん、けっこうベッドでも作業しているよね」

「お絵描き作業だと難しいかもだが、ほかの作業で寝ながら出来る事もあるだろうし、"良い姿勢"に囚われないことだな」


 探すとベッドやソファ用の膝上テーブルはけっこう売っている。こういったものは角度調整機能が付いていて、テーブルに角度をつけたい作業にも使えて案外便利だ。極論、寝たまま脳波制御でパソコンを操作出来たらいいのだが、もちろんそれは出来ないものの、それに近い体勢で出来る作業があるのなら積極的に活用すると、稼働時間を減らさず負担を軽減できる。


「えへへ、それじゃあ~、お兄ちゃんの膝の上で作業するのはどうかな?」

「それ、俺が作業できなくないか?」

「え~、じゃあじゃあ……。……」




 そんなこんなで、ケイに負担軽減術を伝授しつつ、ほどほどに作業を進めた。

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