#004 慌ただしい家族

「ひとまず繋がったな」

「おぉ、すごい! メチャクチャ早くなってる!!」


 スマホで回線速度を確認し、感動するケイ。大した事はやっていないが、やはり感謝されるのは嬉しい。


「…………」

「「…………」」


 あと、夕食の準備で席を外した早苗さんに代わり…………カオルの監視がついた。


「姉ちゃんも、スマホ、登録すれば?」

「その……」

「これ、IDとパスワード。登録すれば早くて安定するはずだから」


 モデムが古いせいか、あるいはプランの問題か、前のアパートより速度は若干遅いものの、大容量データをやり取りする予定も無いので、ひとまずネット契約はこのままでいけるはずだ。


「えっと、そうじゃなくて…………いや、ありがとう、ございます」

「ございますって」


 緊張しているのか、ケイ以上に接し方が掴めない様子のカオル。本音を言えば、クソガキのノリで来てくれた方が助かるのだが…………成長し、心身ともに女性になった今となってはそれも難しいのだろう。


「呼び捨てでも、タメ口でも、呼びやすいのでいいから。昔みたいにってのは難しいかもしれないけど、俺としては別に年上風をふかせるつもりはないし」


 今でこそ社会人(無職)と学生の関係になってしまったが、8年前はガキ同士であり、兄妹に近い感覚だった。いや、兄妹とかもあまり意識していない『月に数回訪れる嵐の日』くらいの認識でしかなかった。


「それじゃあ、その……」

「たっ、だいま~~!!!!」


 若宮家に響き渡る元気な声。気がつけば陽は沈んでおり、嵐を呼ぶと噂される……。


「もしかしなくても、あれがカオル2号か?」

「ちょ!? 私はあんな……」

「そうそう。猫かぶって無い方の姉ちゃんだよ」

「「ハハハハハ」」

「だから私はあそこまで!」





「誰だコイツ、ヘンシツシャか? オラオラオラ!!」

「変質者じゃないし、いきなり殴りかかるな。痛くないけど」


 広いとは言え、全力疾走するには狭すぎる廊下を駆け抜けてきたのは…………日焼けした肌に短い髪、まだ販売していたのかと思える(短パンではなく)半ズボンにタンクトップ。記憶の中のカオルそのままであり、すこし目頭が熱くなる。


「こらっ! ツカサ、さんに暴力を振るわないの!!」

「どうしたんだ? コイツ、カオルネエの偽物か??」

「そうだよ」

「そうじゃない!!」

「「アハハハ」」

「もぉ~~!」


 カオルの猫かぶりは半分冗談なのだろう。もちろん俺を前に意識している部分はあるのだろうが、残り半分は本当に年相応に成長している、と思う。思いたい。たぶん。


「みんな、ごはんよ~」

「「はぁ~ぃ」」


 タイミングを見計らっていたのか、早苗さんの声が響く。


 話はそれるが俺が知る昔の若宮家は、食事や風呂はけっこうバラバラだった。2世帯の大所帯だったのが大きな理由だと思うが、今は……。


「あら珍しい、ケイが来るなんて」

「なんかお腹すいちゃった」


 今でも割と自由らしい。そういえば母さんも規則正しい生活は苦手だし、俺もそう。これはどうやら母方の血脈のようだ。


「母ちゃん、不審者をつかまえたぞ!」

「そう? ツッ君は不審者じゃないし、捕まえられているのはジュンの方みたいだけど??」

「コイツ、軽いですね」


 気を抜くと何処に飛んでいくか分からないので、とりあえず背負っておく。カオルもそうだったが…………煙と何とかは理論で、ひとまず高いところにいると落ち着く特性は引きついでいるようだ。


「あはは、さすがツッ君。カオル(2号)の扱いはなれているわね」

「????」

「もう、お母さん!!」


 しかし…………ジュンの性別はどっちなんだ? いちおう俺の記憶では女だったはずなのだが、正直自信が無い。見た目は完全に男の子クソガキであり、年齢的にもそのあたりの特徴は出ていない。


 若宮 純わかみや じゅんは若宮家の三女(仮)で、姉2人とはかなり歳が離れている。最後にあったのもまだ抱きかかえられていた頃で、初対面とかわりない状況だ。


「さあ、ツッ君座って。今日はお祝いだから。ほら、ジュンももう降りなさい!」

「……ここでいい」


 そういって俺の膝の上に陣取るジュン。父親と言うほど老けた覚えはないが、もしかしたら帰りの遅い叔父さんの代わりになっているのかもしれない。


「ちょっとジュン! アナタの席は、そこじゃないでしょ!!」

「うわ、姉ちゃんの顔、メッチャ鬼になってる」

「なってない!!」

「「アハハハ」」


 8年の歳月で1度は崩れた関係だが、どうやら心配は取り越し苦労。思ったよりも早く、若宮家に馴染めそうだ。




 そんなこんなで俺は、若宮家に温かく迎えられていた。

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