#036 旧友

「……昔はよく、ウチにも遊びに来ていたのよ?」

「それは…………まぁ(進学してから)わざわざ会う事もなくなっちゃったしね」


 夕食、メイヤちゃんについて聞いてみた。どうやら彼女は中学時代までカオルとよくつるんでいたようだが、高校進学で分かれて以来ほとんどそれっきり状態らしい。まぁたしかに、お互い淡泊なところがあるので理由付けがないと会わなさそうだ。


「まだ陸上、やっているの?」

「あぁ~、どうだろ? アイツ、大会とかそういうの興味ない感じだし、続けてはいるだろうけど、もう、そこまで優先していないんじゃないかな?」


 カオルの口調が、若干荒いというか、ちょっと男っぽく感じる。今のカオルは妙に丁寧口調になってしまったが、中学やメイヤちゃんが絡むと過渡期の状態に戻るようだ。


「また遊びに来てもらいなさい。私も顔、見たいわ」

「えぇ……。ん~~」


 渋い表情のカオル。仲は良いのだろうが、ノリは男同士の友達。変に気を使わなくてもいい関係として、これがベストな距離感なんだろう。


「いちおうパソコンを教えてくれって言われているし、もしかしたら(パソコン)教室で、何度か会うかも」

「ぐぬぬぬ……」

「あはは、いっそカオルも、教室に通ってみる?」

「いや、わざわざ通わなくても……。あぁでも、資格目的なら」


 同じ屋根の下で暮らしている相手に、わざわざお金を払って外で教えてもらうのは変な話だが、各種検定試験の合格を目指すなら教室に通うのも良いかもしれない。(教材などもあり、俺も閲覧できるが、それを持ち出して勝手に見せるのはダメだろうし)


「ん~、そこまでは。それに、そういうの(資格)って役に立つの??」

「いちおう事務職、ようはOLだな。あとはとりあえず履歴書の空欄を埋めるのに便利だ」

「あぁ、それは、ちょっといいかも……」


 この手の資格は、けっこう趣味で集めている人も多い。しかしながら現場では、正直それほど役に立たない。もちろん役立つところもあるのだろうが、大抵は特殊な専用ソフトで、あくまで『基礎を理解しているか?』って意味合いになる。


「ちなみにスポーツ系の学校って、基本的に進路はスポーツ以外になる。大会で成績を残せるのは、本当に一握りだからな」

「あぁ……。それは、ね」


 世知辛い話だが、青春を捧げてうち込んだものを会社で役立てるのはほぼ不可能だ。(無いわけでもないが、そうとう選択肢は狭い)とはいえ、無意味かと聞かれればそうでもない。同ランクの大学出でも、平々凡々と普通科を卒業した人とスポーツに打ち込んだ人では、印象や、それこそ体力や精神力ガッツが全然違う。


「じっさい、礼儀とか根性が段違いだからな。会社(無関係な職種)でも人気があったぞ」


 けっきょく(専門分野に進まない限り)大学で学ぶことなんて社会では役に立たない。勤勉さや精神面を重視するなら、下手に普通科から人材を選ぶより(多少偏差値をおとしても)愚直な脳筋タイプを選んだ方が案外使えたりする。つか、能力はさておき、体育会系タイプは男女を問わず可愛がられやすい。


「いくなら、お金くらい出してあげるわよ。大学ならレポートとかあるし、免許も、学生の時にとっておいた方がいいんだから」

「それは、うん」

「つかさ、お姉ちゃん、そもそもパソコンもってないじゃん」

「あぁ、高いのは難しいけど、安いのなら……」


 ケイの指摘通り、そもそもパソコンを持っていないとはじまらない。若宮家はケイ以外IT弱者で、パソコン所有者はゼロな状態だ。


「今、安いパソコンって結構ありますよ。それこそスマホよりも安いですし」

「え? そうなの??」

「もちろん、ちゃんとしたものは高いですけど、安い低スペックPCでもレポート作成くらいなら余裕ですし、あえてそういうのを買って、それは学校専用。ちゃんとしたパソコンが欲しくなったら自分で買わせる、みたいなのもありかと」


 10~20万した時期もあったが、今は性能の底が大幅に引き上がって4万円前後のノートパソコンでも結構動いてくれる。じっさい俺も1台持っていて、出先でのちょっとした作業や、あとは監視・検証作業などに活用している。(さすがにクリエイティブ用途では使えない)


「それなら、早いうちに買っておくのも、いいかもね」

「うぅ、苦手だけど…………やっぱり覚えなきゃだよね」


 そもそもパソコンの所有自体を嫌がっている素振りのカオル。俺が中学のころは、欲しくて欲しくてたまらなかったのだが…………やはり、こういう考えの人もそれなりに多い。そもそもパソコンって、詳しくないと『何ができないのか』すら分からないものなのだ。


「ぐふふ、パソコンがあれば、お兄ちゃんに教えてもらう口実が作れるのに」

「(ガタッ!)」

「せっかくだしメイヤちゃんと、これを機にやりとりすれば??」

「うぅ、それも、いいかもね」




 まるで男同士の旧友(悪友)について話しているかのようなやり取りに、ちょっとホッコリしつつも…………とりあえず2人でパソコンを始めるような雰囲気になった。

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