#015 労働
「あ、あぶな~ぃ」
「ぎゃ~~~」
頭を押さえて爆笑するジュン。若宮家の母屋はところどころ低く、頭を打ちそうになるところがある。そんなところに肩車で挑んだら……。
「つぎつぎ!!」
「はいはい。頼むから、落ちるなよ」
「おぉー!!」
そういえば俺も、子供のころは視線が高くなっただけで興奮した。さすがに家中のハリに突っ込みたいとは思わなかった(はず)だが…………まぁ、楽しんでいるようだし、俺にとってはそんなジュンの姿を見るのが楽しい。
「相変わらず、うるさいな……」
「あぁ、起きたか、おはよう」
「はよ~~」
「う、うん」
まだ眠そうだが、ケイが起きてきた。ケイは夜型で、休日の午前中に見かけるのはレアパターンだ。
「何か食べるか? 今、みんな出かけちゃったけど」
早苗さんはパート、カオルは少し前まで一緒にテレビを見ていたが、友達と約束があるとかで出かけてしまった。
意外と言ってはなんだが、ジュンは友達と遊ばない。学校には沢山友達がいるそうだが『特定の誰かと約束して……』ってのはしない、その場のノリと勢いで生きているようだ。
「あぁ…………コーヒーとか、飲んでみようかな」
「うえ~、コーヒー、きら~ぃ」
「「だろうな」」
煩くしていたのもあるだろうが…………ケイは中学生ながら仕事を始めた。この分なら確定申告も必要になるだろう。いや、必要ないのか? 俺が窓口になっているから、俺は確実に必要だけど。
それはさておき社会人というか、『大人の自覚』が芽生えてきたのかもしれない。大人なら誰しも『規則正しい生活ができる』わけでも無いが、そういえば俺も、何をすればいいか分からず
「しかし、よくやるよね」
「「??」」
「ジュンの相手とか、絶対ムリ」
「あぁ~」
「えへへ~」
「「褒めてないから」」
休憩がてら台所に向かい、飲み物と簡単な食事を用意する。
「まぁマジな話、社会に出るならこのくらいの運動量は、な」
「でも、デザイン事務所だったんでしょ?」
「それでもだ。たとえばアルバイトで"軽作業"ってあったら、8時間、力仕事を永遠やるって意味になる」
「ん~~、え? マジ??」
大学時代、何度か倉庫の荷物整理のバイトをしたが、あれは地獄だった。もちろん、キツいながらも案外やれてしまうが、一日中荷物の出し入れをするだけってのは肉体と精神、両方を酷使する。大げさに言えば、アニメとかに出てくる奴隷を体験するような気分だ。
「マジだ。もちろん、休憩はあるけどな、昼と3時の2回だけ」
「あぁ、無理。私、専業主婦になるから、貰ってよ」
「専業主婦も大変だけどな。つか、(軽作業じゃないけど)早苗さんも、今、働いているわけだし」
「ぐっ……」
「もちろん仕事なんてピンキリだけど、たとえばレジ打ちなら、その時間、ずっと立ちっぱなしだからな。こればかりは割り切るしかない」
実際、社会ってのはどうかしていると思う。それは経営者もそうだが、客もそう。レジ打ちなら座っていても出来るが、それではわずかに効率が落ちるし、何より客からクレームが来る。日本は比較的民度の高い国らしいが、そういうところは刺々しく…………ネットでも、その国民性はモロに出てしまう。
「なぁ、アイス、食べていいか?」
「小さいヤツだぞ」
「おう!!」
「「…………」」
うまい具合にジュンが話を遮ってくれた。時には必要な話だが、やはり積極的にしたい話ではない。
「ほら、コーヒー。砂糖は、好きにしろ」
「ありがと」
「いえ~ぃ!」
「ぐふっ! せ、せめて全力は、やめてくれ」
「おぉ~~」
席に着いたとたん、全力で飛びついてくるジュン。悪い気はしないが…………まぁなんだ、膝の上でアイスを頬張るジュンを、ちょっと邪魔に思いながらコーヒーを啜る。
「ほんと、仲いいよね。寝るのも一緒だし」
「おう!」
「いや、まぁ、隙あらば、な」
今はハナレの改装中で、居間で寝起きしているが…………仕事をこなして"一人で"寝たのに、なぜか朝起きるとジュンが俺の体に寄生している。ジュンは見た目こそ可愛い元気少女だが、その正体は新種のエーリアンだと睨んでいる。
「このままジュンが……」
「「????」」
「いや、何でもない。それより! パソコン! パワーアップさせたいんだけど!!」
「あぁ~」
お絵描き自体にスペックは必要ない。それこそタブレットで事足りる。しかし活動が軌道にのり、多少なりとも余裕が出てきたら、やはり機材に投資したくなるし、新しいことにも挑戦したくなる。
「なぁなぁ、休みだし……」
「アハハ、仕事の香りを嗅ぎつけたな」
さすがのジュンも仕事の邪魔はしてこない。それこそ寝る前に仕事をしていなかったら、最初から『一緒に寝たい』と言い出していただろう。
「そうだなぁ…………せっかくだし、買い物に行くか? 電車で、パソコンや家電を見に行こう」
「おぉ、いくいく!」
「おぉ~」
こうして突如、3人で電気街にいく事となった。
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