#014 悪友
「いや~、世間は狭いよね~」
「それはそうだけど、なんでワカメが?」
ハナレのリホームだが、けっきょく床と壁、あとは最低限の補強も業者に頼むことにした。いちおう、自分で出来ない事もなさそうだったのだが…………問題はエアコン。それなりに重いものだし、電気配線も必要。エアコンの取り付けは業者任せが確定であり、それを取り付ける壁も、『そこまで頼むならもう床も……』といった流れだ。
「だって若葉工務店の娘だし」
「いや、娘であって、社員でもなんでもないよね?」
まずは床をすべて剥がして、コンクリートのうち直し。やることは大掛かりだが、あんがい安くてすぐに終わるそうだ。じっさい、砂利と金網を敷いたら、あとはコンクリートを流し込んで表面を整えるだけ。床剥がしと合わせて2日で終わるそうだ。
「そもそも
「そういう問題じゃ」
このあとは、また別の大工さんが入って、柱の追加と壁の補強をしてくれる。これも本来は時間とお金がかかる作業だが、化粧などは省いているのですぐに終わるそうだ。
「今は分業の時代だからね。オトンがそれぞれ職人を手配して、私はこうして親友の面倒を見る! 完璧じゃない?」
「話の前後が、まったく噛み合っていないんですけど!?」
最終的に電気配線とエアコンを取り付けて終わり。ぶっちゃけ『エアコン付きの倉庫』でしかないのだが、ハナレはあえて『仮眠室付きの作業場』を目指す。むしろこれくらいの方が、レイアウトを自由に変更出来るし、仕事にも集中できる。(といいな)
「まぁまぁ、友達をそんなに邪険にしなくても。それに、正直助かるっていうか…………ほら、リホームって悪い噂も聞くし、安心できるじゃないか」
「そぉ~ですよね! さっすが司さん、話がわかる~」
「いいから、は~な~れ~て~!!」
リホームを仕切っているのは、若宮家と付き合いのある工務店なのだが、なんとカオルの同級生の家だった。『なんで知らなかったんだよ?』って話だが、考えてみれば俺も、家業まで把握しているのはよほど仲の良い相手だけ。2人の付き合いも高校に進学してからって話だし、無理もない。
「ひとまずこれで完成ですね」
「あ、お疲れ様です」
「あとは充分に乾いたら、"シーラー"を塗ってください」
「はい、あ、これ。よかったら」
「あぁ、すいません」
作業を終えた職人さんたちに、買っておいた飲み物やお菓子を手渡す。今時必要なさそうな気もするが、そこは田舎であり個人店。俺も個人事業主として、こういうちょっとした気配りは挨拶と同じで"やり得"と割り切って実践している。
ちなみにシーラーとは、コンクリートを長持ちさせる保護剤で、これを塗るとタイルのように表面が滑らかになる。安くすませられたのは、こういうところを自分でやるからでもある。
「司さん、シーラーなんて、塗った事ないですよね?」
「あぁ。でもまぁ、出来そうかなって」
本当に便利な時代である。ネットで検索すれば、このての解説動画はいくらでも見つかる。もちろんプロのクオリティは出せないだろうが、床ならそれほど気にならないし、何かあった時に自分で補修できるメリットもある。
「私、手伝いますよ! 見た事あるし!!」
「いや、見た事って、ワカメ。それってつまり、手伝った事ないんだよね!?」
「それは…………地域によっては、そうとも言うかも??」
「あんたね~~~」
しかしこの2人、ノリが完全に悪友のソレだ。カオルは猫かぶりと言うか、ヤンチャな原点の自分を出来るだけ矯正しようとしているフシがある。もちろん年相応に落ち着きはあった方がいいし、憧れる気持ちも分かるが…………社会に出ると、こういう自分を出せる場所や相手は重要であり貴重。今は『こんなヤツ!』と思われるかもしれないが、あとからいくら望んでも手に入らないものなので、是非大切にしてほしい。
「まぁまぁ、見てるだけでも全然いいから、よかったら手伝ってくれるかな?」
「はい、よろこんで!」
「ちょ、かってに!!」
こうして俺は、カオルの悪友、若葉芽衣ちゃんと知り合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます