#041 予約合戦
「ん~~、さっぱり分からん!」
「アハハ、さすがにもう、良いとこは(予約)取れないよね」
夜、俺はケイに見守られながらパソコンの前で頭を抱えていた。理由はもちろん『河原でバーベキュー』だ。初心者なのもあって一式レンタルできる環境の整った場所が望ましいが、良さそうなところはとうぜん予約でうまっている…………のだが、それとは別に完全なデジタル化がなされていないところが多すぎる。紹介サイトはあるのだが、予約機能のないただの写真集。詳細は電話で確認してくださいで終わってしまう。
「そうらしいんだが、けっこう早い者勝ちみたいなノリのところも多いんだよな」
「あぁ~、海水浴場みたいな?」
「たぶんな」
河原だと、明確にスペースを区切れないのだろう。駐車場の空きなどを見て管理人の匙加減で決めるとか、そもそも河原部分が私有地なのかすら怪しいところも多い。
「もういっそ、適当な山に入って勝手にやっちゃえば?」
「レンタル費用もバカにできないし、穴場を知っているなら、それもいいかもな」
ちなみに法律上河川敷は、公園や河川施設などの管理地以外は原則自由に使えるそうで、バーベキューやキャンプもその範疇に含まれるそうだ。しかしダムの下流や、そもそも立入禁止の私有地(山)もあるので、そのあたり素人が適当に突撃していいものではない。
「私はやっぱり、そういうのパスかな」
「俺も、正直そっち派だけどな」
ケイはそもそもインドアなので興味なし。ジュンは飛びつくかと思ったが、あんがい無反応。話によれば、連れていけばそれなりに喜ぶものの、基本的にその場のノリと思い付き重視。事前に予約してってのは性に合わないようだ。
「ウチがもっと田舎、というか山奥だったらね」
「それこそ限界集落的なところなら、家は川に沿って建っているから…………そうか、その手もあったな」
「その手って??」
「限界集落の古民家を改装して、宿泊施設として貸し出しているところもあるんだよ。当然山奥になるけど、家だから設備は揃っているし、泳ぐのは無理だが水遊びくらいならできる」
「あぁ~、なんかテレビで見たことあるかも」
ともあれそこも、夏休みの後半に空きがあるとは思えないし、空きがあったらあったで不安だ。
ちなみにパソコン教室は夏休みを利用しておこなうのだが、狙う検定試験が都合よく夏休み後半にあるとは限らないし、かなり早めの予約が必要なものもある。そのため合格の是非は(実際の試験ではなく)パソコン教室のテストで決める。
試験内容は、パソコンの基本知識・操作とタイピング。ハードルとしてはかなり低いが、そのあたり3人の目標は『大学生でのレポート作成』なので、これで充分。(あと事務系の試験はパソコン以外のビジネス知識が含まれるものもあり、そのあたりはひとまず関係ない)
「とはいえだ。やっぱり難しそうだから(3人に)相談だな。せめてもう少し実現しやすいものなら」
いちおう知り合いのツテをたどるとか、片っ端から電話をかけてって事はできなくもないが、さすがにそこまでしてやる義理もなければ、試験のハードルも低い。ようするに予算(労力)オーバーだ。
「あぁ、それなら私! 温泉旅館にお泊りとかなら行きたいかも!!」
「なんでケイが……」
「私だって、その試験を受ければいいんでしょ??」
「いや、ケイは必要ないから」
ちなみに数あるパソコン検定だが、実のところあまり意味はない。まったくって事はないのだが、この手の検定はしょせん検定。国家資格では無いので権威が低く、現場も資格の有無で採用を決める事はまずない。ようするに重要なのは資格の有無ではなく『それを合格できる実力があるかどうか』だ。
「えぇ~、お姉ちゃんたちだけズルい! 私もお兄ちゃんとお泊りしたい!!」
「いや、カオルたちとお泊りはしないし、なんならケイは、ほとんど毎日お泊りしてるだろ」
「それは…………そうかもだけど、ほら、邪魔な寄生虫抜きで、しっぽり~~」
「ん~、まぁそうだな。頑張って稼いだら、その収益で年末にどこか行くのもイイかもな」
「やった! 俄然やる気、出てきちゃった~」
たしかにご褒美というか、頑張っている度合いでいえばケイが1番だ。温泉に行っても、けっきょくちょっと入ったあとは、自室にこもってアニメかゲーム三昧になりそうで怖いが、まぁそれはそれでいいかもしれない。
「やる気か……。ん~~」
「お姉ちゃんたちの事なら、バーベキューは妥協して大丈夫だと思うよ」
「出来れば逆のほうが助かるんだが……」
とはいえ、ここでモチベーションを削ぐのは避けたいところ。俺もそこまでけち臭い事を言うつもりも無いので、焼き肉を奢るくらいなら全然OKなのだが。
「そもそも私たち、あんなアウトドアで陽キャな連中とは、住む世界が違うんだよ」
「ほんと、それなんだよ」
「「はぁ~~」」
そんなこんなで河原でバーベキューは、再検討となってしまった。
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