#040 増改築と夏休みの予定
余談だが、田舎のホームセンターはデカい。もちろん本格的な過疎地はそうでもないが、都市圏からギリ通勤圏内な郊外地域は、便利な複合施設として何でもそろう。
「ぐふふっ、そんな大きな枕を買って、いったい誰と寝るんですか?」
「え? これは……」
「てい!!」
「ぐふっ」
鋭い手刀がワカメちゃんを強制停止させる。半分ノリでやっていると思うのだが、本当に大丈夫だよね? 脳的な意味で。
それはさておき、パソコンも見終わった足で軽くホームセンターを見て回り、今はフードコートで休憩している。
「ただの抱き枕! そう、これくらい普通です!!」
「いや、ただの長いクッションなんだが……」
軽い気持ちでクッションを買ったら、このイジラレようである。たしかにジュンやケイと一緒に寝ているが、ジュンはとくに俺を抱き枕にしているので必要ない。このクッションは枕というよりベッドで作業するときの『ポジション調整用クッション』だ。
「カオルは、抱き枕、使うの?」
「えっ、使ってないけど」
「そうなんだ。ふぅ~~ん」
「「…………」」
メイヤちゃんは本当に受け答えが独特だ。悪い子ではないのだろうが、たしかに距離感を掴みづらいタイプだ。
「カオルって、人と一緒に寝る時、枕は長いのを共有したいタイプだよね?」
「ななな、そんな事は、ねえですけど!!?」
「「ねえですけど??」」
そしてカオルは、けっこう形から入るタイプだ。長女なのが影響しているのかもしれないが、回りくどく、損な役回りも多い。
「ふふ、どうせ結婚したら、天蓋付きのキングサイズベッドで、とか考えているんでしょ」
「そ、それは! まぁ、憧れが、無いって言ったらウソになるけど……」
「あぁ、たしかにそういうベッドに、(体に)フィットするタイプの枕は、合わないかもね」
そういえば俺も、簡易ベッドは頑なに拒否されたな。
「そうだ、ソファベッドも見ようと思っていたんだ」
「えぇ~。普通のソファじゃなくてですか?」
「あぁ、撮影兼来客用に、あったらいいかなって」
「「撮影用??」」
けっきょく先輩も含めて、ハナレの貸し出しは今のところ1回もやっていない。そのあたり、ネックになるのはトイレとベッドだ。先輩なら同じベッドでも気にしないかもしれないが、男同士や、出来れば部屋を分けたいって人も多い。
「あっ、いや、仕事でね」
「そこを詳しく! 私、興味あります!!」
「そんな、まぁ、深い意味はないけど、モノによっては普通の机だと色々不都合な事もあるしね」
とはいえ話が無いわけでもない。ちょっとした記念で焼肉やタコ焼きパーティーってのはわりと定番だし、VRなどの体感ゲームをやるときは何もない空間や柔らかいソファが欲しくなる。あとは単純に、長時間作業するときに姿勢を変える選択肢として自分用に欲しい。
「また、何かあったら呼んでくださいよね! 若葉工務店が! 全面的に協力するので!!」
「ワ~カ~メ~!」
「ちょ、そんなに怒らなくても……」
「アハハ、いや、すぐにじゃないけど、いちおう改装したい部分はあるから、その時はお願いします」
「…………」
おっといけない、メイヤちゃんがポカンとしている。俺の仕事の事をどのくらい北方さんから聞いているかは知らないが。
「あぁ、若宮家に居候させてもらっているんだけど、住んでいるのはハナレで、生活圏は別れているんだよ」
「はぁ」
「ただね、ハナレにトイレがないから、その都度母屋にってのも面倒だし、知り合いや仕事相手が来たときなんかは特に困るんだよね」
「へぇ」
メイヤちゃんは俺に対しての反応が鈍い。ただ、歳も離れているし、むしろこれが本来の距離感。3姉妹はともかく、ワカメちゃんやチヨちゃんの事もあって勘違いしてしまいそうになるが、俺自体はモテない。あくまで都合のいいスキルを所持しているだけにすぎないのだ。
「今、そういうのって結構安いですよ。モノにもよりますけど、配管さえ通っていれば工場で作ったものを置いて、繋げるだけですから」
「そうらしいね」
検索してみて、その安さに驚いた。工事現場に置いてあるプラスチック製は論外として、小洒落た仮設タイプでもゲーミングパソコン1台と同じくらいで出来るものがでている。
とはいえ、母屋に行けば足りるトイレ単体にそこまで出すのも悩ましいところ。いっそお金をかけて本格的に増改築するのも悪くない。
「それこそ
「そういうアクロバットなのは、個人店の強みだよね」
「はい! ちょっとグレーな感じのも、無理くり叶えちゃいますよ! たぶん!!」
「多分って……」
実際、そのあたり法律や税金の問題が絡んでくるので難しい。
「あはは、その時はお願いします」
「はい! おまかせを。ちょっとした家のトラブルから…………配信のお手伝いまで!」
「ワ~カ~メ~」
「いや、真面目に返すと、手伝う方の仕事なんだけどね」
「では、出演を担当しましょう。ちょっとくらいならエッチなのも……」
「テイ!!」
「クピッ!」
ワカメちゃんの首が、ちょっと心配する角度まで曲がった気もするが、たぶん気のせいだろう。
「そういえば、皆は夏休み、なにか予定はあるの? パソコン教室以外で」
「まさか、ついてくる気ですか?」
嫌悪感を宿した目でメイヤちゃんに睨まれる。そんなつもりは全くないのだが、やはりメイヤちゃんは常識を思い出させてくれる、助かる存在だ。
「ごめん、ちょっとプライベートな事を聞いちゃったね」
「いえ、そこまでは……」
「そうです!!」
「「はい??」」
とつぜん立ち上がるカオル。いつになく真剣な表情だ。
「夏の予定です! (社会人に)夏休みが無いのはわかりますが、その…………ちょっと遊びに行くことも、いちおう親戚ですし、一緒に行っても(変ではないかと)……」
どうやら遊びに連れて行って欲しい様子。しかしカオルは、本当にこういうところは奥手だ。そこまで気がねする仲では無いと思うのだが。
「それなら僕と!」
「あぁ、そうだな~。まぁ、試験に合格したら、ご褒美って事で奢るよ。あまり高くつくところは、困るけど」
いちおうバイト代もでるので、その利益を還元するのもいいかもしれない。
「はいはいはい! 海がいいです! 水着で悩殺しちゃ…………ップ!!」
「今いいところだから、もう少し寝ていて。いや、でも、海は…………いい!」
「海もいいけど、ボクは山派かな?」
「テーマパークとかじゃないんだ? まぁ、俺も山派、というかバーベキューとかそっち系が嬉しいかな? 日焼けしたくないし」
テーマパークが無いのは非常に助かる。まず間違いなく一番金のかかる選択肢で、逆に安上がりなのはプールだろう。対して海は、ほんとうに面倒なので出来れば回避したい。プールと似たようなノリで考えがちだが、行くのが大変なうえに、日焼けや塩水など、とにかく手間な部分が多い。
「ぐぬぬ、それだとせっかく買った……」
「泳ぐのは、どうせジュンあたりにせがまれそうだしな。プール」
「それです!!」
「え? ずいぶん安上がりになったな。まぁ助かるけど」
「いえ、その、違わないですけど、そうじゃなくて……」
「??」
「それじゃあ、河原でバーベキューなんてどう? 水着で」
「それです!!」
「いや、まぁ、合格できたらね」
予約とか大変そう(河原となると一気に選択肢が狭くなる)だが、まぁそのくらいなら落とし所だろう。
そんなこんなで合格祝いは、現役JKと河原で水着バーベキューに決まった。
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