俺はこの田舎で人生をやり直す。

行記(yuki)

#001 8年ぶりの

 見渡す限りの緑。俺、早見 司はやみ つかさは霞がかった記憶を探りながら、二両編成の電車に揺られていた。


「カオルのヤツ、どうしてるかな……」


 目指しているのは母さんの実家である若宮家。8年前までは何かと世話になっていたが、俺が大学進学するにあたって一人暮らしをはじめ、両親もそれまで住んでいたマンションを引き払ったため疎遠になっていた。


「ケイは…………どうだろう? 難しいよな」


 なんで今更って話だが、まぁありきたりな話だ。俺は大学卒業後、とある小さなデザイン事務所に就職した。そこが絵に描いたようなブラックで、社畜として飼いならされていたのだが…………ひさしぶりに母さんに会った時、そのヤツれた姿を心配されそのまま病院にぶち込まれた。結果は見事、心も体もボロボロだったらしく、そのまま弁護士も挟んで強制退社だ。


「ジュンは無理だよな。俺も見分けられる自身ないし」


 今思えば、不幸中の幸いだったし、両親にも感謝している。ブラック企業の怖いところは、まず最初にまともな判断能力を削いでくるところだ。今なら間違っても戻ろうとは思わないし、似た会社に就職したらすぐに辞めるだろう。しかし無知な新入社員は1度過酷な環境に追い込まれると、冷静で客観的な判断ができなくなる。


「おっと! この駅だ、ったよな。たぶん」


 慌てて電車を降りる。田舎でも、8年もあれば雰囲気はかわる。駅は綺麗になっているし、周囲の商店も見覚えが無いものばかりだ。まぁ駅周辺の風景なんて、そもそも覚えていないけど。


早苗さなえさんは……」


 予定では早苗おばさん…………って言うと怒るので早苗さんと呼んでいるが、その人が迎えに来てくれるはずなのだが。


「おっと、すいません」

「いえ、その…………大丈夫です」


 スマホを見ながら歩いていたら美少女と正面衝突しそうになった。なんというか、ガッツリ服やメイクで作り上げた都会のギャルとは違う、素体の良さが滲み出る隠れ美少女って感じだ。


『ごめん 給養 カオル いく』

「えっと…………あぁ、急用か」


 気がつけばメールが来ていた。解読するに『用事が入ったから行けなくなった。代わりにカオルを向かわせる』って意味だろう。


「そうなると、車は無理か」

「…………」


 ロータリーに向かう足を止める。大半の荷物は事前に送っているが、それでも手荷物はそれなりにあるし、なにより若宮家まで徒歩なのが痛い。


「まぁいっか。ひさしぶりだし」

「!!?」


 風景は変わっているが、道は変わっていないし、なにより俺には文明の利器スマホがある。この街にもしばらくお世話になる事だし、軽く見てまわるのもいいだろう。


「「………………」」


 カオルの姿は見えないが、アイツの事だ。たぶん駅に向かう途中で虫でも見つけたのだろう。いや、さすがにそれは無いか? もう高校生のはずだし。


 カオル、若宮 薫わかみや かおるは俺のイトコにして幼馴染。絵に描いたようなクソガキで、年下の癖に散々手を焼かされた記憶しかない。思春期でどう変貌したかは知らないが…………早苗さん曰く『落ち着いて、むしろ寂しいくらい』だそうだ。


「あ、あの!」

「はい??」


 先ほどの美少女だ。もしかして落とし物でもしていたか?


「その、ツカサ、ツカサさん、ですよね??」

「え? はい、早見司です」

「そ、その、私…………カオルです。その、お母さんのかわりに」

「え? カオル??」

「はい、その、久しぶりです」




 俺の幼馴染にして嵐を呼ぶ勢いのクソガキは…………なぜか美少女に変身していた。





・告知

とつぜんこの話を書きたくなったので急遽執筆しはじめました。続きがもっと見たいと思えたらコメントや評価などで応援していただけるとモチベーションがあがります。あともう間に合わないでしょうがカクヨムコンも伸び方しだいで頑張るかも。

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