#034 ルート選択
「あはは、それは大変だったね」
「ジュンがあれほど、やきもち焼きだったとはな」
「じっさい珍しいかな? ウチだと(歳が離れている事もあり)あまり取り合いとか起きないし」
夜、今日もケイとハナレで仕事をこなす。中学生を毎日部屋に連れ込むのはどうかと思うが、いちおう宿題や学業は最低限やらせている。というか(好きでやっているとはいえ)ガチガチに詰め込んでもモチベーションがもたない。
「それで、これなんか良さそうじゃないか?」
「あぁ、それ、なんか流行っていたよね」
そんなわけで今日は、調査も兼ねて実況向きのゲームをいくつか試してみる事にした。
「本当は最新を網羅するべきなんだろうが…………そもそも金になるかもわからんし、ひとまずって事で」
「なにこれ? お兄ちゃんて、こういうとこマメだよね」
ノートパソコンに映し出されるマークシート。いちおうお仕事で試すわけで、5段階の項目にわけて評価していく。
「お仕事だからな。それぞれ項目を用意したから…………あとはこんな感じで、気になる要素順で並び変えたりできるわけだ」
「おぉ、なんかプロっぽい」
「いちおうプロだけど、これはただの表計算とかそっち系の技術で、べつに」
サンプルでいれた架空のゲームが、ボタン1つで気になる要素ごとに順番が入れ替わる。今は名前だけだが、画像をつけたり、不要な項目を一時的に非表示にも出来る。
「なんか、このシステムの方が売れそうじゃない?」
「適当に拾ってきたフリーソフトだけど…………利益になるようなら発注するのもいいかもな」
パソコンだと、探せばこの手のフリーソフトはいくらでも出てくる。あるていど特殊な機能の操作方法を知っていれば、見た目などもかなりカスタマイズできるのだが、今回はそのあたりを利用している。しかしこのままでは余計な機能が付いており、誤操作に対する保護機能もない事から配布はできない。お仕事として成立するかは分からないが、軌道にのりそうならそのあたりを改善した専用ソフトを発注したいところだ。
「いっそ、私が覚えようか? 情報系に進学してもいいし」
「え? いや、ケイの進路だし、好きにすればいいが」
そういえばこの手の話は、まったくしていなかった。というか、とっくに志望校くらいは決まっているはずだ。
「とりあえず美大とかそっち系は、目指していないんだよね。ぶっちゃけ」
「あぁ、まぁな」
そう、イラストを齧っているからといって、皆が皆、美術方面を学んでいるとは限らない。そのあたり、音大に通っていなくてもバンドや楽器が出来るのと同じ。もちろん専門校でしっかり基礎を学んだ方がいいのだろうが、必要ない作風で勝負する事だって出来る。
あとぶっちゃけた話、美術系は就学や進学に弱い。そもそもそれらの技術を会社で活かせる場面が少なく、いちおうデザイン事務所などもあるが、現場では持ち前のセンスと、その会社で使われている『デザインソフトを使いこなせるか』が重要で、くわえてデザインの仕事に専念できるわけでもない。
「いちおう、普通科(志望)だよ。私」
「まぁ、そのあたりが安パイだよな」
音楽で言えば、オーケストラなんかをやりたいなら幼少期から音楽を学び、一流と言える道を進まなければ厳しいだろ。しかし趣味でバンドをやるくらいなら担当の楽器さえひければ済む話。作曲や偉人の知識なんて必要ない。キャラクター系のイラストも同じで、一流の道を進んだところで大半が不要な知識や技術ばかり。俺もそうだったが、大学の学科(選択科目)で基礎をおさえるくらいでちょうどいいのだ。
「そもそも、絵はあくまで趣味。お兄ちゃんが来るまで、仕事としてお金が取れるようになるなんて、思ってもみなかったしね」
「そうだな。とやかく言うつもりは無いが、最低限は頑張ってくれ。勉強の方も」
「うえ~~」
悲鳴をあげつつも、俺に崩れかかるケイ。三姉妹の中では唯一のインドアなオタクタイプだが、慣れてくれば確かに若宮の血を感じる。
「そうだった、いい加減(ゲームを)はじめるぞ」
「おっと、負けないからね!」
「いや、協力プレイのゲームだから」
「配信で使うなら、いかに足を引っ張って、見せ場を作るかの勝負だよ!」
「あぁ、それはそうかもな」
それからはケイと楽しく足の引っ張り合いをしたのだが…………その姿をジュンに見られ、夜は激しい寄生攻撃で散々揉みくちゃにされた。
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