#025 小学生の認知
「おいジュン! 昨日の忍者ブレイカー見たか!?」
「おお! ケンジ、今回もカッコよかったな!!」
「ドラゴン師匠、本当に死んじゃったのかな……」
「いや、あれは流石に死んだだろ!? それよりもユカノがどうなるかだよ!!」
「おまえ、おっぱいおっきいの好きだもんな」
「ちょ、ちげえし!!」
休み時間、流行りの特撮の話題でクラスは盛り上がる。
「ちょっと男子ぃ~。暴れないでよね!」
「おっと、わりぃわりぃ~」
「本当に、野蛮なの、好きよね~」
「なんだよ! ポリキュアだって最後は暴力じゃんか!!」
「なによ! ポリキュアは!!」
嫌味な言い回しに、ヒートアップする面々。
「ジュン! やっぱり忍者ブレイカーだよな!!」
「ん~、最近はポリキュアも見てるけどな~」
「「えぇ!!??」」
ジュンの発言に唖然とするクラス。このクラスは幾つかの派閥に分かれているが、女子でありながら男の子趣味なジュンの存在もあって、若干男子が優勢であった。しかしそのジュンが(バトルありとはいえ)可愛さや恋愛要素もある女の子向けアニメを推すとなれば、クラスのパワーバランスにかかわる重大な問題だ。
「ん?? 姉ちゃんが見てるしな」
「あぁ、そういうことか。やっぱり、お前は俺たちの仲間だよな??」
「ん~、べつに~」
「「ぐふっ」」
実のところジュンは、クラスの男子に人気がある。もちろんこの年代の男子は、年上のお姉さんに憧れるか、逆に『女子や恋愛なんて興味ないぜ』といった恥ずかしさのある層に分かれるのだが、『中性的でフレンドリーなのに付かず離れず』なジュンの態度が後者の心を掴(弄)んでいた。
「残念でした、ハヤト君。若宮さんはもう、こっちのものなんだから。ギュ~~」
「ん? なんだノリタマ」
「ぐぬぬ……」
ジュンに抱き着くのは、女子グループのリーダー格の乗田真希(通称ノリタマ)。彼女は男子グループ、その中でもリーダー格でありジュンに好意を寄せている隼人を目の敵にしていた。
「ん~、若宮さん。マキって呼んで~」
「ノリタマはノリタマだぞ。よっと」
「あぁん」
「へへ~ん、避けられてやんの」
ノリタマの抱擁をスルりと抜け出すジュン。そしてジュンは、クラスの女子にも人気があった。恋愛やお洒落の話はしないが、ペットのように弱きものにそっと寄り添う気づかいと、カッコイイ系女子というアイデンティティ。コチラから行くと避けられてしまうネコっぽいところも、相手の気持ちを掴む一助になっている。
「そんな、若宮さん。私との関係は、遊びだったのね……」
「ん? なんの話だ??」
「へへ~ん。ジュンは、俺たちと遊ぶよな!!」
「ん~、気が向いたらな」
「はぁ~。若宮さんは、本当に気まぐれね。でも、そこがいいんだけど」
「「…………」」
もだえだすノリタマに、周囲の表情が引きつる。
「あぁそうだ。そういえば、みんな、ポルチューブ見てるか??」
「唐突だな。俺は結構見るぞ!」
「いいな~、俺、母ちゃんが見ちゃダメって」
人気動画配信サイトの話題にうつる。この年代だとまだテレビを見ている層が多いものの、各種配信サイトの視聴に対応したテレビや子供用タブレットの普及(この年代ではスマホよりもタブレットの普及率が高く、3割をこえている)もあり、関心度も高まっている。
「若宮さん! 私! ポルチューブ詳しいわよ!! 何でも聞いて」
「あ、復活した」
「いや、そういうのは
「ぐふっ」
「あ、死んだ」
「つかさ、最近たまに出てくるニイってなんなの??」
「ん? 兄は、兄だぞ。ツカ兄」
「え? お兄さん!? 三姉妹だったんじゃ??」
恐ろしく今更ではあるが、ジュンは普段、まったくこの手の話をしない。いや、まったくではないのだが、説明なしに話に組み込むので周囲も気づかずここまで来てしまった。
「そうだけど…………なんだっけ? イトコ??」
「あぁ、親戚のお兄さんね」
「それ。今一緒に暮らしてて、ポルチューブの仕事してる」
「え!? ポルトって外国の大企業だぞ!!」
「えぇ!? お兄さん、ポルト社の社員なの!???」
「ん? たぶん違う。ほら、動画とか、とるほう??」
「あぁ、ストリーマーね。ピカキンとかキャシー猫田とか」
「アァ、知ってる! なに!? ジュンのお兄さんってピカキンなの!???」
「違う。もう、わけわかんないぞ」
混乱する一同。ストリーマー人気は小学生にも広がっているものの、実際のところはまだ知識の齧り始めであり、断片的で間違っている部分も多い。
「ふふ~ん、若宮さん。ポルチューブはアメリカのポルト社が管理する動画配信サービスで、お兄さんはそこに動画を投稿しているストリーマーってわけ!」
「「おぉ~」」
ドヤ顔で解説するノリタマ。彼女はタブレットを所有しており、ポルチューブも毎日視聴していた。
「ん~、たぶん違うぞ」
「ぎゃふん」
「あっ、また死んだ」
「え? ってことは本当に社員なの??」
「違うぞ。しらんけど」
「「しらんのかい!!」」
実のところクラスメイトの中には、ジュン以外にも『配信者やそれらにかかわる取り組みをしている親類』をもつ者はいる。しかしこの手の仕事は公にするものではなく、親兄弟でも知らなかったというパターンは多い。
「というか待って!!」
「あ、復活した」
「その人、一緒に暮らしているっていった??」
「おう! いっしょに寝てるぞ!!」
「「えぇぇぇぇええ!!」」
とつぜん投下される爆弾。しかしその追及はチャイムに遮られ、有耶無耶になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます