#024 若宮家の朝

「……んん。今、何時だ??」


 この手の仕事をしている人は生活リズムが終わりがちだが、俺は実質実家住まい状態であり、体内時計にも自信があるので、けっこう規則正しい生活がおくれている。


「んにゃ、ぬにゃ……」

「おはよう。起きていないけど」


 当然のように布団に潜り込んでいるジュン。体内時間には自信があるものの、防音室でも規則正しく生活できているのは、コイツのおかげも大きいのだろう。なにせ毎朝起こして、夜ふかししていると『もう寝る時間だぞ』とばかりに突撃してくる。


「ネコのうんこ、ぶわ~~」

「どういう状況だよ。あと、ヨダレ…………って、俺もだな」


 そういえば最近、目覚めると口元にヨダレの跡がつくようになった。歳で口の筋肉が緩みだしたのか、あるいは環境の問題なのか。


「よっと。ケイも、朝だぞ」

「ん~、お兄ちゃんの、えっち……」

「頼むから、人聞きの悪い寝言は止めてくれ」


 あと、毎回ではないがケイも一緒に寝るようになった。成人の俺は平気だが、中学生のケイからすればかなり遅い時間まで頑張っている。そのうち部屋に戻るのも面倒になり、なし崩し的に今の状況ができてしまった。


「んん……。もう、朝??」

「そうだな。まだちょっと余裕があるけど…………起きないと、ジュンを押し付けるぞ」

「ぷっ、それは、嫌かな」


 ジュンの寄生パラサイト攻撃を舐めてはいけない。いたるところに手足を突っ込んでくるので、シャツやパンツが伸びてしまう。


「って、ジュンこいつ半裸じゃないか」

「お兄ちゃんの、エッチ」

「だから、人聞きの悪いことはあれほど」

「??」


 今は朝であり、生理現象もあるので本当にシャレにならない。


「そろそろエアコン、つけてもいいか」

「寄生生物は…………勝手に寄生してくるけど、あとはタオルケットにするとか??」

「いや、まぁ、そうなんだけど……」

「????」


 生理現象もあるので、薄い布団は避けたいところだ。


「そろそろいいかな。起きるぞ」

「はぁ~ぃ。着替えてくるね」

「あぁ、ついでにジュンこれも……」

「あ~、急がなきゃ~。チコクチコク~」


 逃げるように去っていくケイ。着替えは食後でもいいのだが…………出かける順番はカオル・ケイ・ジュンの順で、同じペースで動くと遅刻してしまう。(あと、俺のところで寝ていたことがカオルにバレると『はしたない』と怒られるのもあるが)





「おはよう。あと、気をつけていってらっしゃい」

「おはようございます。本当にジュンは……。そ、それじゃあ、いってきます」


 カオルと入れ替わりで台所に。カオルはもちろんジュンにも怒るのだが、末っ子の余裕か、気にする素振りは無いので諦めムードがただよっている。


「おはようツッ君。トーストでいい??」

「あぁ早苗さん、おはようございます。じゃあそれで」


 あと、ジュンの世話は早苗さん公認で、援護してくれる人が居ないのも大きい。


「飲み物は好きなの飲んでね~」

「はい。ジュンは、オレンジジュースでいいか?」

「うん」

「ほんとうに助かるわ~。起こす手間もそうだけど、聞きわけがぜんぜん違うんだから」

「そうですか?」

「そうですよ~」


 何度目かのやり取り。それはさておき、最近は朝から早苗さんがいないパターンも増えた。生活が苦しいとかではなく、パート仲間とシフトをやり取りしているらしい。たしかに主婦なら子供の送り迎え、大学生なら試験と、一時的に入れない日はどうしても出てしまう。


「お母さん、おはよ~」

「ケイも、おはよ。ほんと、ツッ君がいると、たすかるわ~」

「なんの話よ?」

「さぁね~」


 たぶんケイが、俺のところで寝ているのはバレている。なにせケイはギリギリまで寝ているタイプで、起きてこないケイを起こしにいく機会もあったそうだ。


 しかしジュンの風呂もそうだが、早苗さんはそのあたりまったく気にしていない。一人っ子だから気付かなかったが、ウチの家系は代々自主性重視の放任主義で、過剰に干渉された記憶がない。


「そういえば最近、リフォームブームなの、知ってる?」

「あぁ、もしかして……」


 あれから番場さんとのやり取りは続いている。田舎といえども、いや、田舎だからこそ窃盗グループに狙われるって話も聞くし、需要は高まっていたのだろう。


「そうなのよ。また展示会、やってほしいって頼まれたんだけど、さすがに断ったわ~」

「大変ですからね」


 あれは実質新築状態だから出来た事で、普段は見せられない部分もあるのでやっていられない。そのあたりの展示は番場さんに任せるつもりだが、あそこは有料の習い事教室であり、ご近所といっても身構える人は多いのだろう。


「それで話を聞いていたら、私もやりたくなっちゃって」

「もうやったじゃん」

「防犯対策じゃなくて、リフォーム」

「え? ウチ、建て替えるの!??」

「…………」


 驚くケイに、興味なさげなジュン。新屋はともかく、たしかに母屋は古く、定期的に手直ししている。そのあたり叔父さんがやる時もあれば、業者に頼む時もあるようだ。


「そこまでじゃないけど、お風呂とか、気になるところなんていくらでもあるし、ツッ君もいるからね」

「あぁ、自分関係なら、お金、出しますよ。というか、外のトイレを復活させるのもいいかなと思っていましたし」

「それじゃそれじゃ! 私は……」

「そろそろ出ないと、マズいんじゃない??」

「あぁ、もうこんな時間!?」




 そんな調子で、朝は慌ただしくも、毎日楽しく過ごせている。若宮家の皆もそうだが…………あの会社を強制退社させてくれた両親にも感謝だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る