#032 動画の企画
「ん~、やはり受ける側にもメリットがあるといいよな。それこそチューナーレスTVとか」
最近、暇さえあればパソコン教室の新しい授業を考えてしまう。講師としての活動にそれほど興味はないものの、これも一種の創作活動であり、それが経済や地域を動かすのは得も言われぬ感動がある。
「そもそも、ネット契約、しているのか??」
番場さんのパソコン教室は、内容が自由というか、社交場的な立ち位置になっている。もちろん何か資格や覚えたい事があって通う人もいるのだが、それと同時に『お茶を飲みながら楽しくクラブ活動』みたいなノリで主体性なく通っている人も多い。
「スマホやタブレット教室もあるんだから、気にするのもアレか」
大まかな流れは、
1、テーマを決める。例えば『チューナーレスTV講座で、N〇Kを解約してサブスクを』みたいなヤツだ。
2、授業の内容と流れを決める。無料だが広告が挟まれるポルチューブに、月額課金で見放題のサブスク。ただしサブスクは追加課金が必要な作品もあり、くわえて垂れ流し視聴もしにくい。利点だけでなく、欠点も上手く纏めて講義の流れを組み立てる。
3、講義やそれぞれの家庭に導入する際の費用。難しい操作や環境構築はできないので、できれば『買ったらそのまま使えます』みたいなのが望ましい。いちおうアカウント作成や初期設定を授業に織り込む方法もあるが、そのあたり高齢者向けと考えると難しいポイントになる。
『今、通話してもいいか?』
「ん? 先輩か」
そんなことを考えていると、乾先輩から連絡が来た。先輩はウチの筆頭お得意様であり、素材提供の影響もあり、着実に登録者を伸ばしつつも活動の労力を軽減している。
ストリーマーは、もちろん序盤は頑張って広くアピールした方がいいのだが、やはり続けていくには効率改善も欠かせない。そのあたり利益最優先の企業とは少し違い(自己満足やファンサービス・還元重視など)人それぞれ考え方が異なる。
『悪いな、仕事中に』
「いえ、とくに急ぎの仕事でもないですし、飲み会の誘い以外ならいつでも歓迎ですよ」
『ちょ! 私をなんだと!!』
軽く作業を続けながらビデオ通話で軽口を交わす。企業間なら許されない行為だが、ストリーマー界隈はこのユルさも魅力だ。ルーズすぎて困ることもあるが、慣れてしまえば利益や効率重視の環境に戻る気にはなれない。そのあたりは会社員におけるテレワークに近い感覚なのだろう。
「それで、どうかしましたか?」
『あぁ、貰った"企画書"についてだ』
企画書とは、ようするにストリーマー向けのコンテンツの提案。パソコン教室の授業の提案と似たものだ。しかしストリーマーの企画はすでに開拓されつくしており、一朝一夕に新しい事が出来るわけではない。じっさいそのあたりは狙っておらず、個々のスタイルに合わせた企画やそれに必要なものを纏める、コンサルティングやサポート業務に近い内容となっている。
「今更だと思いますが、どうでした?」
『まぁ、それはそうだけど、それでもこうして纏めてくれるのは助かるな。これを金にするのは、難しいと思うが』
「ですよね~」
パソコン教室なら、授業や機材・環境構築などの実行動がともなうものの…………企画書はただの情報商材であり、その気になれば自分で調べられる。くわえて集金システムも悩ましいところだ。
『それで思ったんだけど、企画もそうだが、(配信で)使えそうなゲームも纏めてもらえると助かるかな』
「あぁ、そうですよね」
ゲーム実況者あるあるに『実況するゲームを探す過程でネタバレしてしまう』問題があげられる。ストーリー重視の大作ゲームならまだいいが、出オチなインディーズゲームは初見のリアクションが命。ストアの概要さえ見るか悩むレベルだ。つまり『自分で調べることもできるが、リアクションのために代行してほしい』のだ。
『出来れば費用対効果というか、このゲームなら何時間もつとか、アンチや指示厨がわきやすいとかの追加情報もあるとたすかるな』
「なるほど……」
面白そうではあるが、ゲームはやらない、配信も見られていない俺にはハードルが高い部分だ。とはいえ、大手事務所(の所属アイドル)の活動を客観的に纏めたサイトはいくらかあるし、定番だけならやれそうにも思える。
『あと思ったんだけど……』
「??」
『ゲームサーバーを管理するのはどうだ??』
「あぁ、ワークラとかですか」
ゲームの中には、ユーザーがゲームマスター(GM・管理者)になって特殊な環境設定で遊べるタイトルも存在する。大まかな流れは料金を払ってレンタルサーバーを借り、そこに参加者を招待する。そのあとはGM権限をもつ運営が状況に合わせて権限を行使するというものだ。
このジャンルは大手事務所がつよく、大手ならサーバーのレンタル代やスタッフの調達も容易い。基本的に事務所の箱内でプレイすることになるが、視聴者を招き、スタッフはその監視につく事も出来る。
『軌道にのるかは分からんが、私らみたいな個人勢でもワークラや…………あぁ、あと、VRのワールドを運営しているところもあるかな』
VRワールドは、既存のゲームよりもチャットルーム的な側面が強く、ゲーム要素は控えめ。そのためゲームバランスやチート対策にこだわる必要はなく、交流スペース、とくにファン同士の交流がメインになってくる。正直なところ先輩の活動の規模感からして必要ないと思うが、将来の目標や話のネタとしてあるていど勉強しておいてもいいだろう。
「なるほど、そのあたりはちょっと調べておきますね」
『あぁ、べつにどうしてもって事もないし、適当に頼むよ』
登録者を稼ぐ方法は幾つかあるが、手っ取り早い方法としてコラボがあげられる。個人といっても横のつながりはあるので、クラブ活動のようにあるていど参加する義務や場を用意するのも良いかもしれない。
「はい。……あぁ、そうだ。いちおう報告なんですけど、ドリッチ、買いましたよ」
『おぉ、マジか! 今度一緒にやろぉ』
「いえ、そこまでは」
『なんでだよ!! 話ふっておいて…………期待、しちゃったじゃ……』
こうして独立したわけだが、案外忙しくてゲームをやり込む暇がない。ドリッチはあくまで仕事用。サポートやテストプレイがメインになる。
「まぁ、もし何かあったら環境のテストとか、付き合えますよって話です」
『あぁ、そっちね。私は、その……』
「あっ、もうこんな時間。すいません、ちょっとこのあと用事があって」
『えっ、あぁホントだ。お前、今度、ちゃんと予定空けとけよ。居酒屋の予約するから!』
「それ、お泊りコースじゃないですか??」
『そそそ、それは、まぁ、そうなる可能性も、微粒子レベルで存在しているカモシレナクモナイカモシレナイ』
「そういって、学生時代、なんど連れ込まれたこと…………って、すいません、このへんで」
そんなこんなで配信関係の仕事の開拓も、いちおうやっている。
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