#031 血の運命

「……れでね! 番場さんから改めて感謝されちゃってね」

「いや、あれは……」


 夕食。終わったと思ったチヨちゃんの進路指導の話が、早苗さんから蒸し返されてしまう。ちなみに叔父さんは今日も居ない。ブラックといえばブラックなのだが、そこはそういう職種なので仕方ない。俺のデザイン事務所もそうだったが、常に忙しいわけでも無ければ、時間で区切りにくい仕事も多い。


 あと、血筋だと思うが自由人で、居たとしても一緒に食卓を囲むとは限らない。不仲というよりは、ウチの家系は『そういう距離感』なのだ。


「アハハ、滅茶苦茶嫌われていたよ、娘の方には」

「だろうな。最初から憎まれ役だったのは仕方ないが、べつにチヨちゃんの思いも理解できるし、もっと上手くできると思っていたんだが……」


 というか俺が来てから集まりがよくなっただけで、若宮家の娘たちも『あとでいい』パターンが多かったそうだ。そのあたりの肌感は(体験していないと理解できないかもしれないが)放任と放棄の違いというか、互いに自主性を重んじる気質となっている。


「へんに愛嬌振りまく必要はありません。ハッキリ言ってやればいいんです。ワカメにも!」

「え? いや、ワカメちゃんは…………まぁ、無関係とも言い切れないか??」


 案外、過激というかハッキリ言うタイプなカオル。さすがに中卒は止めるが、何事も経験。趣味で(個人情報に配慮するのは前提として)動画投稿をするのは良いと思う。


「べつに、興味を持つことや、挑戦してみる事自体は、良いと思うけどね」

「それは! そうかもだけど……」


 そしてワカメちゃんを擁護するケイ。ケイは(俺が割り振る仕事量を調整しているのもあるが)イラストの仕事と学業を両立しており、活動自体は否定していない。俺もそうだが、極端なのが困るだけで、基本的にお得意様が増えてくれる分には望ましい。


「まぁまぁ、趣味として嗜む分には、俺も協力するから」

「いや、お兄ちゃんはプロなんだし、(無償で)協力しなくていいから!」

「そうです!!」

「えぇ……」


 理不尽を感じるものの、納得できる部分もある。俺はお人好しで、黙って仕事を抱え込むタイプだ。だからこそ前の職場でも酷使されたのだが、あのデザイン事務所でも上手くやっている人はいた。(そのあたりの配慮は上司や経営者の仕事でもあると思うのだが、それはさておき)俺が世渡り上手なら回避できた問題だったのだ。


「アハハ。やっぱり血だね~」

「「????」」

「私としては、悔いの残らないようやってくれたらそれでいいから」


 俺も親から『勉強しろ!』と口酸っぱく言われた記憶はないし、産業系に進学するのも二つ返事だった。学費は安くなかったし、内心では名の通った国立に行ってほしかったはずだ。そのあたり、子供の気質と、親の配慮って事なのかもしれないが。


「……ごちそうさま!!」


 そしてまったく話に絡まず、マイペースに食事を終えるジュン。ジュンは勉強嫌いで、一見するとヤバそうに思えるが、それで言えばカオルだってヤバかったはず。こういう子供は案外(周囲がとやかく言うより)自身で思い至るまで根気強く待った方が、かえって近道なのかもしれない。


「お風呂(のお湯)入っているから、サッサと入っちゃって」

「おう!!」

「「…………」」

「ほら、いきなさいよ」

「まだ、ツカ兄が食べてるから!」


 俺と一緒に入る事を前提に話をすすめるジュン。いちおう、とっくに羞恥心というか、恥ずかしくなる歳だと思うのだが…………調べたところ、少数ながら中学に入っても気にしない子や、なんなら『成人していても気にしない』家庭もあるそうだ。俺としては、それも個性であり『普通は……』なんて言うつもりは無いので、本人の意思を尊重したい。


 というか、ぶっちゃけやっぱり、懐かれて悪い気はしないし。


「もう、1人で入れるでしょ!!」

「そうだよ、ジュンばっかり……」


 気にしない派はジュンと早苗さん。対してカオルとケイは気にする派だが、ケイにかんしては裸を見られるのが恥ずかしいと感じているだけで、常識的な部分は意識していないように見える。叔父さんにかんしては否定こそしていないものの、何か悟ったというか、哀れみや同情心すらいり混じる、何とも言い難い表情でノーコメントを貫いている。


「あはは、やっぱり1番安心なのはジュンかな? 間違いなく私の子だ」

「「????」」


 あと関係のない話だが、早苗さんは歳の差婚であり早婚だ。すでに祖父祖母が他界しているのも、子供の年齢が妙に開いているのも、そのあたりが影響している。




 そんなこんなで、若宮家は今日もほどよい距離感で上手くまわっている。

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