#017 防犯対策
「ん~~。人、多すぎだぞ」
「そうだな」
「ぷっ、急に、大人しくなったね」
電車を降り、人混みに囲まれて大人しくなるジュン。人見知りはしないようだが、それとは別に人混みが苦手なようだ。
「息苦しいだろ? 抱えてやろうか??」
「いいっ」
「そっか」
そう言いながらも腕にしがみ付くジュン。普段は隙あらば抱き着いてくるが、さすがに人前では恥ずかしいようだ。
「でも、わかるな」
「ほら、ケイも」
「……うん。エヘヘ~」
すこし考えたのち、ケイも腕にしがみ付く。ケイはストレートにインドアなオタク系なので、シンプルに人混みと相性が悪い。
「お店に入ればマシになるから」
「「…………」」
地下道経由で大規模家電店に入る。ここは家電のみならず、玩具やパソコン関連など一通り揃っている。
「お兄ちゃんは、よく来るの?」
「しばらく来ていなかったけど、実物を見たい時なんかに来ていたかな? 基本はネットだけど」
社会人になってから時間が無かった事もあり通販頼りになっていたが、やはり実物を確認したい時はあるし、精密機器やサポートの問題もある。
「ネットの方が安いし、便利じゃない? クレカ、持ってるんだよね??」
「それは否定しないけど、怪しい中華商品に騙される事もあるからな。そうだ、クレカじゃないけど、今度作っておくか?」
「え? 出来るの??」
なんとも新鮮な会話だ。未成年でも持てる電子マネーが普及してきたが、中学生以下になると(交通系を使う機会が無いのもあって)流石にまだ馴染みが無いようだ。
「チャージ式のヤツだけどな。ネットで買い物するときにも使えるし、あって損は無いだろう」
現金に戻せない欠点はあるが、通販以外だとサブスクの支払いやゲームのダウンロード販売、もちろん(加盟店限定だが)普段の買い物でも使えるが、現金と違ってその場でチャージできるのも強みだ。
「残高とか、管理できるかな……」
「そういえばスマホ、持っていなかったか」
「うん」
若宮家のスマホデビューは高1からなのだろうが、仕事のやり取りもあるので出来れば(タブレットなどとは別で)持っていてほしい。
「それじゃあ、スマホごと買っちゃうか」
「えぇ!? いいの」
「回線契約なし。家やWi-Fiの繋がるトコ限定。あと…………ゲーム系のアプリは自重しろよ」
「やったぁ!! 欲しかったんだ~」
「ジュンも、欲しいか?」
「ん~、ん~~~」
会話に入れずつまらなさそうにしていたジュンに聞いてみたが、反応は微妙。そういえばゲームも殆どやらないし、指先で操作するものはあまり好きではないのだろう。
「それじゃあ、アイスやお菓子を補充するか?」
「おう! それだ!!」
「ハハッ、それだったか」
ちなみに若宮家では、アイスやお菓子を食べる場合、かならず他者の許可を得る決まりになっている。それは早苗さんも同様で…………一説には、ダイエットのために始まった制度だという噂も。
「ちょっと、その前にパソコン! 私のパソコンが先だからね」
「おう!」
俺の片腕をグイグイ引っ張るジュンに、ケイも引っ張りかえして応戦する。
*
「やっぱり、大きい方がいいのかな?」
「大きくても手の移動距離が増えるし、そもそも液タブは多少ズレるから、過信は禁物だぞ。画面端とか、ほら」
「ほんとだ」
液晶タブレットを中心に、パソコンの周辺機器を見ていく。
「ん~~」
「つまらないか?」
「そこまでじゃ、ないけど……」
ジュンは玩具コーナーに残しておくつもりだったが、1人は不安なのかついてきた。
「そうだ、えっと…………あぁ、あった。これ、どうだ?」
「なにそれ??」
見せたのはスマート家電のカメラ。ようするに監視カメラだが……。
「これを台所とか居間に置いておくと、誰が居るかとか分かるし、話も出来るんだ」
「ちょくせつ話せばよくなね?」
俗にいう見守りカメラで、あって嬉しいのは早苗さんの方だ。
「それもそうだが……。ん~~」
「これは?」
「あぁ、それは家のドアのカギを開けてくれるヤツだな。鍵がなくても、スマホとか指紋でロックが解除される」
「これ! 欲しい!!」
「え??」
たしかにあれば便利だが、小学生が欲しがるものか? しかし考えてみれば早苗さんもパートで『帰ったら家に誰もいない』ってことはある。今は秘密の合鍵で対処しているが、不用心なのでこれを機に電子ロックにするのもいいかもしれない。
「ツカ兄の家に!」
「あぁ、そういうことか」
ハナレは現在リホーム中だが、高価な機材もあるのでドアはしっかり施錠できるものにする予定だ。そうなると、身内すら不法侵入できなくなってしまう。
「そうだな。せっかくだし、一通りカタログを貰っておくか。母屋側も、やっておかなきゃだし」
「よし!」
地味に不便な点として、トイレの問題がある。ハナレにはトイレが無いので、施錠されてしまう夜中などは合鍵で勝手口から母屋に移動してって形になる。合鍵を使えば済む話ではあるが、深夜に真っ暗な勝手口でゴソゴソやるのは(見られていなくても)不審者のようで落ち着かない。
「なに見てるの?」
「あぁ、……。……」
これがのちに語られる、若宮家スマート革命の第一歩であった。
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