39話

「失礼します」


 前回同様、亜咲がノックをしてから返事を待たずに生徒会室へと入っていく。なんだかんだでこれで三回目の訪問となるが、どうも職員室とここだけは入る時緊張するんだよな。

 だけど前回までと違って気は楽である。最初は部外者扱いだったし、二回目はそれこそ敵陣を訪問する気持ちだったし。


「いらっしゃい。早速来てくれたのね--あら? しょうくんも?」

「どうも、お邪魔します」

「ついでに大兄様……天翔先輩にも来ていただきました」

「そう、助かるわ。ちょうど人手が欲しかったところだったから」


 ついで扱いされる大輝ざまぁ。これがいつもの俺の気持ちだ食らえ!!

 ……うん、気にしてないね。なんだこいつイケメンかよ。


「それで、私達は何を手伝えば良いですか?」

「そうね……貴女達はまだ正式に生徒会に入ったわけじゃないから、部外秘の物は避けるとして……」

「それこそ以前正式にお断りしたはずですが」

「つれないわねえ……まあいいわ。それじゃあこの書類の整理をお願いしようかしら」


 そう言って美咲さんは大量の紙の束を指差す。うわ、凄い量だな……


「これから夏、秋にかけて色々とイベントもあるから過去の資料なんかに目を通したり、先生方からの話を聞いてまとめてたらずいぶんと数が増えてしまって……それに天野くんもいなくなったでしょう? 一応彼も仕事は出来る子だったからそれもあって色々と手が足りないのよね」


 ふぅ、と軽いため息をつく美咲さん。何故か様になる仕草だがすいません。それ俺達が原因っちゃ原因ですね。悪いのはあいつだけど。


「わかりました。要はある程度種別ごとにファイリングして、まとめた物がどういう物かわかるように背表紙をつけるなどで整理すれば良いでしょうか」

「あら流石ね。お願いしたいのはその通りよ」


 流石大輝、略してさすだい。俺は紙の束をどこか別の場所に移すとかくらいしか考えてなかったわ……


「それなら特に知識のない私達でも大丈夫そうですね……小兄様は少し怪しいですが」

「ひどくない?」


 いくら俺でも紙をまとめてファイリングするくらいできるわい!!


「本当ですか? ファイリングすれば良いとは言っても、内容に軽く目を通して分類する必要があるのですよ? ざっと思いつくだけでも経験、意見、雑記などでしょうか。もしかしたら予算に繋がる物品や設備、スケジュールにかかわる準備工程などもあるかと思いますが大丈夫ですか?」

「美咲さん。俺にも出来る仕事ってありますか?」


 うん無理だわ。こいつ本当に高校生か?


「そうねえ……ならしょうくんには私の話し相手にでもなって貰おうかしら?」

「いや、それはそれでどうなんですかね……」


 本当にそれが手伝いになるのであれば構わないけど。


「ダメです。小兄様は私の話し相手になって貰います。姉さんといえども渡しません」

「そうじゃないだろ。そもそもなんで話し相手しか選択肢ないの?」

「相変わらず人気だな」


 大輝、お前は黙ってろ。


「冗談よ。それじゃあ亜咲と天翔くんには書類の整理を、しょうくんにはここにある過去資料の片付けと、二人がまとめた資料の片付けをお願いしてもいいかしら?」

「大丈夫です。力仕事で済むなら助かります」

「お願いしているのはこっちだから、助かるのは私の方なんだけど……まあいいわ。それじゃあその段取りでやりましょう」


 そうして俺達は生徒会室の片付けに取りかかった。

 にしても本当凄い量の紙だな……これもしかして美咲さん一人で読んでまとめたんだろうか。だとしたらこの人も相当凄い人なんだろうな。まあ亜咲の姉ってだけでもちょっと納得できてしまうんだけども。


 紙束を美咲さんに指示された場所に運びながら、亜咲と大輝の様子を伺ったところ、二人とも凄い速さで紙を分けていた。あれ本当に内容読んでるのか……? 俺がやってたら逆に足を引っ張ってたまであるな。


 まあでも適材適所って言うしな。もしかしたら適所がなかったからこそこの状況かもしれないけど。


 会話はほとんどなく黙々と作業をした甲斐もあって、生徒会室の中もだいぶすっきりしてきた。入った時もそこまで散らかっているというわけではなかったが、実際片付けてみるとやっぱり違うもんだな。


 ふと時計に目をやればそろそろ二時間ほどが経っていた。


「一通り片付いたわね。もうそろそろ遅いしこれくらいで大丈夫よ。ありがとう」

「わかりました。それではこれだけまとめたら終了します」

「久しぶりに頭使った気がするな。にしてもこれだけ大量の資料をよく一人でまとめましたね」

「あら、どうして一人でまとめたと?」

「参考資料はともかく、全部同じ筆跡で書かれてましたから。これだけの量だと相当のスピードだと思うんですが、乱雑に書かれているわけでもなかったので分かりやすかったです」


 こいつもこいつでよく筆跡なんて分かるな……というかやっぱりちゃんとあの速度で内容にも目通してたんだな。えげつねえ。


「それは嬉しいわね。それにしても亜咲はわかっていたけど天翔くんも相当ね。どう? やっぱり生徒会に入らない?」

「すいません。お誘いはありがたいんですけど、俺の場合は家庭の事情もありまして……」

「そう……ごめんなさい、それなら仕方ないわね」


 大輝の場合は母子家庭という事もあってか、こちらに帰ってきてから俺達に付き合ってくれてはいるものの、それ以外は基本的に寄り道もせずにまっすぐ家に帰っているようだ。

 学園でもモテにモテてなんでもできるのに特に浮ついた話がないのもその辺の事情があるかもしれないが、それにしてもキングオブイケメンって感じのイケメンだな。

 爆発すればいいのに。


「三人のおかげで思った以上に片付けも済んだし、私もそろそろ帰ろうかしら。亜咲、たまには姉さんと一緒に帰りましょう?」

「そうしたいのはやまやまなのですが、私達は少し寄るところがありまして」

「あらみんなで寄り道? 良いわね。高校生って感じで」


 美咲さん。貴女も高校生ですよ?


「もしお邪魔でなければ私も付いて行っていいかしら? 本当この子ったらまた勝手に引っ越しなんてするんだから。しょうくんも遠慮しないで言ってやっていいのよ?」

「言って聞くようならいくらでも」


 いや今回も言いましたけどね? 言いましたけど、聞いた時点でもう引っ越しの手配が全部終わってたら何言っても無駄なんですよ……


「まあ美咲姉さんが来る分には特に問題ないでしょう。うちの高校はバイト禁止というわけでもありませんし、隠してるわけでもないですしね」

「バイト……というと元木さんかしらね。ならちょうどいいわ。手伝ってもらったお礼にごちそうするわよ」

「良いんですか?」

「もちろん、こういう時は遠慮せず先輩に甘えてくれていいのよ。しょうくんも遠慮せずにお姉さんに甘えてくれていいからね」


 なんだろう。同じ事を言ってるはずなのに何か違う気がする……


「それでは夏姉様と日向さんを迎えに行って向かいましょうか」


 俺達が話している間に亜咲は残りを片付けてくれていたらしい。ほんとこういうところは凄いんだけどなぁ……


「三人とも先に行っててちょうだい。私は戸締りだけしたらすぐ向かうから。正門前で合流しましょう」

「わかりました。それじゃまた後で」


 美咲さんに声をかけて生徒会室を出る。


「それじゃナツとヒナを迎えに行くか。えっと、剣道部……ってどこだっけ?」

「お前本当に最低限しか覚えてないのな……」


 大輝が俺を見てため息をついた。直視はしていないが亜咲の方からも若干呆れた雰囲気が漂っている。俺、気配には敏感なんだ……

 だってしょうがないだろ。今まで行く事もなかったんだから!!



【あとがき】

 導入部分の日常会はここらへんで、次からようやく本章主役の光が登場します。

 ちゃんと言っとかないとまたこの姉妹に持ってかれちゃうからね……


 さて、カクヨムコンの応募期間中は色々宣伝のあとがきを入れたりしてお目汚し失礼しました。

 明日2/8_11:59が読者選考期間の最終日となりますので、最後の宣伝です。


 今後も更新を続けていきたいと思いますので、ぜひぜひレビュー評価、ブックマークのご協力よろしくお願いします!!


 明日からはお知らせがなければあとがき減らします!!

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