第5話(結構改稿済み)
「ねみぃ……」
結局あの後、要母さんによる旦那の愚痴大会が開催されてしまった。
てっきり異世界での話やナツやヒナとはどう接していくのかを聞かれるのかと思ったけど……
「まあ結局は貴方達の問題だしね。もちろん私は小吾の味方ではあるけど、だからといって夏希だってヒナちゃんだってもうお子様って年齢じゃないんだし、好きにしたら良いんじゃない?」
とまあこういった有様である。
愚痴を聞く最中、ヒナからちょくちょくメッセージが届いていたようで、今週末に亜咲と光を家に招くという情報を得た。女性陣仲良くなるの早すぎでは?
まあこの辺は光辺りから聞けそうな気もする。
しかし冷静に考えてみると、特に光の俺に対する懐き様は異常だと思う。
もちろん苦楽(主に苦が八割ほど)を共にした仲だし、普通の友人よりも仲間意識が強くなる、というのはまだ理解出来るのだが……
とは言え、それを本人に聞くのはいくらなんでも無粋だろうし、日常に戻ってきた以上、もしかしたらこの関係性も変わっていくのかもしれないな。
そもそも「光から報告がありそうな気がする」なんて考える俺も俺かもしれない。
で、翌日――
「というわけで土曜日に新しく友達になった日向ちゃんの家に遊びに行きます!!」
ほらぁ!! 回収早いよ!!
「早速友達が出来たのか。流石光だな」
「私だけじゃないよ!! 亜咲ちゃんも一緒にだよ!!」
はい、実は知ってます。
しかし報告があるかも、とは思っていたが、まさか一時限目が終わってすぐに来るとは思ってなかった。
「そうか。まあ同級生同士仲良くやってくれ」
「むぅ、小兄がそっけないぃ……もっとどんな子なのかとか気にならないの?」
「いや別n……嘘だよ。で、どんな子なんだ?」
「とっても良い子だよ!! 可愛くてクラスでも人気があるみたい!! 席が後ろだからプリント配る時とか少し話してみたら仲良く出来そうって思って話しかけてみたんだ!!」
ああ、確かに裏表のない光と大人しい性格のヒナはウマが合うのかもしれないな。主にヒナが聞き役として、なのは間違いないだろうが……
「あれ? でもちょっと日向ちゃんと小兄って似てるんだよね……なんでだろ?」
普段はアホっぽいがコイツはこういうところがあるから侮れない。以前から感じていたことだが、直感的に人の本質を見抜く力があるとでも言えば良いのだろうか。
「まあこれだけ人もいればそういう事もあるだろ。せっかく出来た友達なんだし、大事にしろよ」
「もちろん!! 昨日も日向ちゃんに誘われて剣道部を見学してきたんだよ!!」
「そうか、そりゃ良かった」
「むぅ……昨日も言ったけど小兄はホントそういうとこだからね!!?」
だからどういうところだよ……
「もっとどうだった? とか入部するのか? とか色々あるでしょ!!」
「聞かなくても答えは分かってるからな」
「ぐぬぬ……納得いかない。じゃあ当ててみなさい!!」
「物足りなかった、だろ?」
「……うん」
先ほどまでとは打って変わって、少し落ち込んだような反応が返ってくる。そりゃあそうだろう、少し前まで切った張ったの世界に居たんだから。部活動を馬鹿にするわけではないが、そもそもの前提が違いすぎる。
ま、光の場合は精神を鍛えるという意味で剣道部に入部するというのも良いかもしれないが、間違いなく部内で浮いてしまうだろう。
仮に手を抜いてレベルを合わせたとしても、本気で取り組んでる奴等にとって良い影響があるとは思えない。
もちろん光が部活に入りたいというのであれば反対しようなんて思わない。大輝にしたって亜咲にしたってそうだ。応援するし、活躍するのは間違いないだろう。ただ――
ただ、俺には無理だろうな。と思っただけだ。
「まあ部活に入るかどうかは自分で決めればいいさ」
「はーい」
素直な返事をした直後、光は自分のクラスに帰っていった。
全く、自分で決めれば良いだなんてどの口が言ったもんだか――
「ってあれ? 誰もいない?」
気が付いたら教室には俺一人がポツンと取り残されており、クラスメイト達がいなくなっていた。
慌てて壁に貼られた時間割に目をやると、"体育"の文字が目に付いた。つまり休み時間中に更衣室で体操服に着替え、チャイムが鳴る頃には運動場に出ていなければならない。
――キーンコーンカーンコーン……
ああ……やっちまった。
とにかく急いで更衣室に……更衣室?
「どこだよ……更衣室」
大輝は上手くクラスメイトに混ざって更衣室に向かったのだろう。おのれ裏切り者め!!
結局制服のまま運動場に出て妙にガタイの良い体育教師に見学を申し出た。理由? 更衣室が分からなかったからなんてのは恥ずかしすぎるし、足の古傷が痛むから見学させてくれって言ったよ? 嘘だけど。
疑惑の視線を向けられつつも、見事見学を勝ち取ることができたので、誰にも気付かれないように拾っておいた小石を大輝の背中に向けて投げ付ける。裏切者には制裁を!! が世の常ってね。
まあ後ろを向いたまま小石はキャッチされたわけだが。アイツとっくに人間やめてんな。
制裁に失敗した俺は大人しく隅っこの方で授業を見学する事にした。五月とは言え、晴れた日は暑さを感じるには十分で、夏の訪れを感じさせる。時折吹く風が心地よくて、正直このまま横になって寝てしまいたいくらいだ。
流石にそれは目立ちすぎるので、眠気を誘う陽気の中一生懸命見学する。傍から見たら俺の目が開いてるかどうか見えてないだろうけど……あれ? もしかしてこれって寝てもバレないんじゃない?
などとくだらない事を考えつつ授業の方に意識を移す。どうやら今日の授業はサッカーらしい。サッカー部であろう男子諸君が喜々として用具の準備をしているのが見て取れた。
で、我らがハイパーイケメン大輝様はと言えば、目立ち過ぎない程度にサッカーを楽しんでいる様子が見えた。
まあしばらくサッカーなんてやる事もなかったしな。授業と言えど楽しくなる気持ちも分かる。
とは言え大活躍の大輝くん。華麗なドリブルでひとりふたりと抜き去ればサッカー部らしき男子諸君は悔しそうな表情をしているし、それ以外の男子は「すげー」とか「アイツ経験者か?」などと大輝の動きに目を奪われている。
女子はと言えば当然の如く「カッコいい」だのなんだのキャーキャー言っていた。まあこれは予想通り過ぎる光景だったので、またボーっと授業の様子を見る作業に戻る。決してこちらに刺さる視線から意識を逸らすわけではない。ないったらない。だからこっち見ないでくださいお願いします。
時折意識が飛んでしまいそうな苦行に耐え、授業終了のチャイムと共に立ち上がる。
ついでに更衣室の場所を覚えておこうと、着替える必要のない俺は大輝に話しかけた。
「この裏切者め」
「何の事かな? ああ、そういえばちょうど背中が痒いなと思って腕を伸ばしたら手の中に小石が入ってたんだけど、凄い偶然だと思わないか?」
「春だから小石も空を飛びたくなったんじゃないか?」
お互いとぼけた会話をしながら更衣室へと歩いて行く。
なるほど、更衣室はここにあったのか。もう覚えたもんね!!
ついでなので大輝が着替え終わるのを待ち、またくだらない会話をしながら教室へと戻った。
そのまま何事もなく三限目、四限目と授業を終え昼食の時間となった。弁当派が友人と弁当を食べるために席を移動したり、あるいは机を動かして向かい合わせになったりとよくある光景が目に入る。一方で学食派は食堂の人気メニューを確保するために教室から猛ダッシュしていく、などなど、昼休みが騒がしくなるのは中学だろうが高校だろうが変わらないらしい。
ちなみに今日は俺も弁当だ。学食のメニューにも心惹かれるものがあるが、昨日買いこんでしまった大量の野菜達を消化しなくてはいけない。
というわけでこちらが野菜炒め定食(肉無し)となります。
さてさて、大輝でも誘って男飯とでも行きますか……っておぉ……?
隣を振り向くと既に女子達が机をガガガと移動させ、大輝包囲網を築いていた。その必死の形相に若干恐怖を感じた俺はそこから距離を取るべく、通路側の端っこまで席を移動させる。あんなの怖すぎて巻き込まれたくないもんね。
おや、当の大輝が何か言いたそうな顔をしているな。なになに……?
――この裏切者!!
とりあえずニコリと笑顔で返礼しておく。「覚えてろよ!!」と念のような何かを受信した気もしないでもないがそれはそれ。
しかし大輝が駄目となると、今日は一人楽しくぼっち飯をするしかないかと弁当箱を開こうとして。
「小兄!! 来たよ!!」
「なんで来た?」
まさかの光襲来。コイツなんで俺が教室に居るって分かったんだ?
「さっき話した時、かばんの隙間からお弁当の包みっぽいのが見えたから今日お弁当なのかなって!!」
やだこの子怖い。そんなところまで見てるのかよ……
「小兄様、ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑じゃないけど普通一年が二年の教室に来るか……って亜咲も?」
「はい、貴方の可愛い亜咲ですが、何か?」
この発言で教室の空気がピシリと固まるのが分かった。コイツ絶対狙ってやっただろ……
「おいあの子ってもしかして……」
「だよな。なんであの子といい、アイツのところに」
「権力の匂いがする」
教室内がわずかにざわつく。いやまあそりゃね、光もそうだし、亜咲も十分に目立つ容姿をしているので、先の発言も相まって殊更注目を浴びてしまう。しかも亜咲に至っては理事長の孫というネームバリューもあるし、いい加減なんでアイツがと思われても仕方ない。
で、最後に発言したキミ、高校生が権力匂いとか嗅ぎつけないの。
「はぁ……流石にここだと居心地悪いし、一緒に食べるのはいいから場所を変えよう」
「あら、小兄様は人気のないところがお好みですか?」
「だからお前、本当お前そういうところがな?」
もうなんと返していいのかも分からず、光みたいな言い方をしてしまう。なるほどこういう気持ちの時に出る言葉なのか。勉強になった。嬉しくないけど。
「まあ私はどこでも良いのですけど、ところでそちらの方は小兄様に何か御用ですか?」
「え?」
亜咲がこういう物言いをするって事は大輝と光以外の誰かなんだろう。
亜咲の視線の先に目を向けてみれば、そこには弁当であろう包みを手にしたまま、迷うような素振りを見せる幼馴染の姿があった。
「えっとあの、私も」
「――ああ居た居た!! 夏希、一緒にお昼にしないか?」
と、言葉を遮るように別の男の声が幼馴染を呼んだ。思わず声のした方に目を向けてしまう。
――間違いない。あの時の……
男子生徒の声は俺の耳にも十二分に届いていたので、正面に居る彼女が聞こえていないはずはないだろう。にもかかわらず、そちらの方向を見ようとせず、グッと唇を噛むような表情をしていた。
「おーい夏希ー。
「わ、分かってるから」
はぁ、と何かを諦めたかのような息を吐き、彼女は天野と呼ばれた男子生徒の元へ向かっていく。そんな表情を見せられてしまっては何か声をかけなければ、という焦燥に駆られたが、そこで動きが止まってしまう。
――いや、今更なんて声をかければいいんだ……?
周りの空気からしても完全に機会を逸したというやつだろう。もう少し早く彼女の存在に気付いていれば、あるいは弁当の包みを持って話しかけてきたのだから、俺から一緒に食べないかと誘っていれば。
あちらがそのつもりであったのなら承諾するだろうし、違う用だったのなら断られるだけだった。なのに何故俺は何も言葉を発しなかったのか。
「うーん、なんだったんでしょうか?」
「きっと小兄と一緒にお弁当が食べたかったんだよ!!」
そうなんだろうか? 光の言う事だし、もしかしたらそれが正解なのかもしれない。
久しぶりに再会した俺に一声かけたかっただけかもしれない。一方で幼馴染だからと、彼氏持ちの女子が特定の男子と一緒に弁当を食べるか? という思いも少なからずある。
我ながら拗れた考えだとは思うが、そう考えてしまう事は許して欲しい。例え相手が幼馴染だったとしても、恋人を差し置いて、というのは違うだろう。多分……
「でもあの男の人、なんていうか……」
そんな言い訳がましい思考は光の声で遮られた。
「ん? 大輝ほどじゃないかもしれないが十分にイケメンだったと思うが。パッと見た感じ嫌な奴ってわけでもなさそうだし」
なんで俺はよく知りもしない奴の擁護をしているんだろうか?
「なんて言っていいか分からないんだけどね。私は好きになれそうにないなって」
「私もですね。別に理由があるわけでもなく、こうなんとなく、ですが」
「……そうか」
この二人が言うのなら彼には何かがあるのかもしれない。だけど確信があるわけでもないし、色眼鏡で見てしまっては彼にも、幼馴染に対しても失礼だろう。
「まあいいや!! とりあえずごはんごはん!!」
「そうですね。昼休みが終わってしまわない内に食べてしまいましょう」
「そうだな、とっとと食べるか」
弁当の包みを解き、二段にした弁当箱を開く。
「小兄……育ち盛りの高校男子がそれはないよ……」
「見事に野菜だけ……ですね」
「うるせえ!! 野菜ばっかり押し付けられて肉買う余裕がなかったんだよ!!」
だって一家族が一週間は持ちそうなくらい家に野菜があるんだぞ!? 捨てるのももったいないし仕方ないじゃないか……
ってそうか。要母さんにいくらか持って帰って貰えば良かったんだ。
「じゃあ私の唐揚げあげるね!!」
「では私はこの魚のフライを」
おお、野菜だけだった俺の弁当に彩りが!! しかし貰いっぱなしというのは申し訳ないので、ここは俺からも……
「じゃあ俺はこの――」
「「あ、それはいい」です」
え、酷くない?
---------唐突なあとがき---------
はじめましての方もそうでない方もはじめまして、作者です。
拙作をお読みいただいてありがとうございます。
投稿をはじめて4日目になりますが、さっそくフォローいただいたり、★をつけていただいたりと非常にありがたい限りです。モチベーションにさせていただいています。
こちらでも読んでいただけそうな感触がありますので、ストック分の改稿をしながら追加エピソードを執筆中です。思ったよりまだ文章は書けそうなので、近々幕間として挟みながら、昔途切れさせてしまった続きを書こうと思っています。
このようなあとがきは頻繁にするつもりはないため、お知らせは近況ノートに書くつもりですが、お礼を兼ねて5話目という節目で書かせていただきました。
今後も続きを読んでいただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!!
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