第三章--元木光編--
38話
「でもまたなんで急に光がバイトを?」
「聞いた話だと寮から出て一人暮らししたいらしいよ」
「俺もそう聞いた」
ヒナに光がバイトをしてる事を聞いた翌日、俺はクラスメイトでもあるナツと大輝と光のバイトについて話題を出してみた。
そしたら二人とも事情まで知ってやんの。え? 知らなかったの俺だけ?
「なんで俺以外みんな知ってるわけ……?」
「あー、そういえば小吾あの時亜咲のところに行ってたからな……」
あ、なるほど。亜咲のお見合いに突撃した時にその話してたのか。アレも結局何しに行ったのかわかんなかったな……
「でもそれなら亜咲も知らない感じか」
「知ってますよ」
「うおぁ!?」
急に出てくるな!! まったく気配感じなかったじゃねえか!!
「なんで亜咲は知ってるんだ?」
「元々相談には乗ってましたから。私としてはアルバイトも良いですが投資などを勧めたのですが、細かい事は苦手だからと……」
「らしいっちゃらしいけど、高校生が投資で稼ごうなんて普通思わないからな?」
そもそも投資なんて元手も必要だろうし、損する事だってあり得るんだから勧めるか普通?
「そんなわけでうちの経営している系列のファミリーレストランを紹介しました。光さんならどこでもやっていけるとは思ったのですが、普通なところでアルバイトしたいとの事でしたので……」
「ヒナに聞いた。商店街にあるファミレスだってな」
そう、光はファミレスでバイトを始めたらしい。てっきりちょっと変わったところで働くのかと思っていたが、ある意味では意外だった。
しかもそのファミレスは俺もよく行く商店街の中にある。なのでいつでも様子を見に行こうと思えば行ける場所だった。
「あ、そのお店なら知ってるよ。行ったこともあるし」
「まあそうだよな。要母さんも普段あの商店街で買い物してるはずだし」
「なら帰りに様子見に行ってみるか? 小吾も光の事気になるんだろ?」
「でもバイト先に同級生とか来たら嫌じゃないか?」
嫌というと語弊があるかもしれないが、バイト先に知り合いがくると恥ずかしいというか気まずいというか……昔剣道の大会とかでも見に来られるとそんな気持ちになった記憶がある。
「光さんがそんな事を気にすると思いますか?」
「うーん……言われてみればそんなタマじゃないか」
亜咲にそう言われて考えてみれば、大輝や光、亜咲に関してはそういう一般的な感性とは無縁なのかもしれない。普段から注目される事には慣れてるだろうし。
「むしろ光さんなら小兄様が来れば喜ぶんじゃないでしょうか」
「そこまでか? 想像出来なくはないけど」
流石にそこまではどうだろうか? とは言えバイト中は私語厳禁とかもあるだろうし、邪魔にならないかはちょっと心配だな。
「まあでもせっかくだからみんなで行ってみない? 私とヒナは部活があるから少し遅くなるかもしれないけど……」
「そうだな。一度行ってみて、もし光が嫌がるようなら次から気を付ければいいか」
「ならどうする? 俺と小吾と亜咲の三人で先に行くか?」
「でしたらお二人には私の用事を少し手伝っていただいても良いでしょうか?」
「まあ時間も潰せるし構わないけど、用事って何があるんだ?」
亜咲が手伝って欲しい用事ってのはあまりピンとこないな。もしクラスの用事なら上級生が出張るのもなんか違和感あるし、個人的な事かな?
「ええ、美咲姉さんから少し生徒会の手伝いをして欲しいと言われまして……以前の借りもありますので、生徒会には入らないにしても多少のお手伝いであれば手を貸す約束をしたのです」
「あー……まあそうか。それなら俺も無関係ってわけじゃないし、むしろ手伝った方がいいかもしれないな」
「小吾と亜咲はそうだろうが、俺は関係ないから邪魔にならないか?」
大輝に関しては確かにそうかもしれない。生徒会には入らないって言い切ってあるし、今度こそ部外者の扱いになりそうだ。部外者……うん、大輝も連れて行こう。お前も美咲さんに部外者って言われてしまえばいいさ!!
「……そんなことないだろ? 大輝も行こうぜ」
「お前今なんか考えてたな? まあやる事もないし、俺だけ先に行くのもなんだし一応ついていくよ」
「ありがとうございます。小兄様が来てくれれば美咲姉さんも喜ぶと思います」
なんで? と思わなくもないが、あれ以来美咲さんの距離感が近いのは確かにそうだ。従姉弟とは言え、昔少し遊んだくらいなのにどうしてだろうと割と疑問はある。
生徒会室に行くついでに少し亜咲に聞いてみるか。
「じゃあ私は部活行ってくるね。終わったら生徒会室に行けばいい?」
「ええ、それでお願いします。もし私達の用事が先に終わるようであれば連絡しますね」
「うん分かったよ。それじゃ行ってくるね」
俺達に手を振ってナツが部活へと向かったのを見送って、俺達も生徒会室へと向かうことにした。相変わらず上級生のいる廊下を歩いていくのはまだ少し慣れないが、なんだかんだでもう三度目になる。
おそらくこれからも何度か足を運ぶ事になりそうな気もするし、まあそのうち慣れるだろう。
「そういえば美咲さんってなんであんな俺に甘いというか、いきなり距離感近くなったんだ?」
「言われてみればそうだよな。生徒会長と小吾が親戚だったって聞いた時は一応納得はしたけど、それにしたって初対面から考えると天と地ほどの差だし」
「ああ、その事ですか」
大輝からしてもやはり違和感はあるらしい。まあ最初敵意バチバチだったのに、次に会った時はいきなり友好的になってたとか何があったんだって思うよな普通。
「ちょろいんです」
「は?」
なんて?
「ですからちょろいんです。美咲姉さんは」
「ちょろい……?」
言うに事欠いて実の姉をちょろいって言うのはどうなんだ亜咲? むしろ美咲さんの印象としては真逆な気もするけど……
「小兄様の考えている事は分かります。初対面の時を考えればそうは思えない事も理解出来ます」
「自分にも他人にも厳しいって感じだったしな。俺の場合はあくまで親戚だったから特別扱いしてくれてるくらいだと思ってたけど」
そういえば美咲さんはやたらと身内って言葉使ってたな。家族に対する思い入れが強いんだろうか?
「それもあります。ですが美咲姉さんはなんというかその……非常に線引きが極端と言いますか。まあ境遇を考えれば無理もない事なのですが」
と前置きをして話して貰った内容としてはこうだ。
美咲さんは幼い頃から九条家の次期当主として認められており、本人もそれを自覚していたため、容易に周囲の人間を信用するわけにはいかなかったらしい。
亜咲に関しては野心もなく、何より姉を慕う妹という事もあって元々美咲さんとは良好な関係を築いていたようだ。
一方で母親は何かと美咲さんを次期当主として売り出そうとしており、色々な催し事などに美咲さんを連れ回し、有力者の子供と顔合わせをさせたり、かなり年上の男性と引き合わされたりしていたらしい。
更には亜咲と天野の縁談の話などを勝手に進めた過去もあって、美咲さんは母親の事を快く思ってなかった模様。これはまあ前の事もあってすごく納得できた。
で、少しずつ人間不信を拗らせ始めた頃に出会った同年代の子供が俺だった。
俺は九条家なんて家柄には全く興味のない普通の子供だったし、ただ同じ年頃の友達が出来たと思って幼い頃の美咲さんと亜咲と接していた。
だからだろうか。政治の絡まない付き合いというものがおそらく美咲さんにとっては非常に大きな思い出となったのだろうと亜咲は語った。
それを聞けば美咲さんに同情せざるを得ないし、亜咲の言った極端という意味も少し理解出来た。
要するに俺と同じで、敵味方の線引きをしてしまうタイプなのかもしれないな。
「……というわけでして、美咲姉さんは身内認定した人には物凄く甘いですし、そのハードルも実は割と低いです。まあ周りが勝手に家柄や美咲姉さんの外面を見てハードルを上げてしまっているので、小兄様以外の異性が身内認定された事はないのですけどね」
「なら大輝はどうなんだ? こいつもそんな権力とか興味のあるタイプじゃないし、同じようになるんじゃないか?」
「俺を巻き込もうとするな」
いいじゃん。味方が増える分には。男が細かい事気にしちゃいけねえよ!!
「そうですね……大兄様も問題ないと思いますが、なんというかその……外面の良い方はどうしても警戒されがちですし、能力的にもあくまでビジネスライクな関係になるんじゃないかと……」
「ん? どういうことだ?」
亜咲の言っている事がいまいち理解できなかった。
「小兄様はあまり利用価値がないので、損得勘定を抜きにして感情を優先させる事が出来るのですが、大兄様は色々と利用価値がありますので」
「おい」
今のですごく分かりやすくなったけど、納得できる理由じゃないだろ!!
【あとがき】
すいません遅くなりました!! 光編スタートです。
光編なのにいきなり九条姉妹が出てくるのどうなんだ……?
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