後日談--兄妹水入らず--
--違うんだ。
--違うんです。
--ちゃうねん。
何度「違う」と言ったかは覚えていないが、とにかく俺は必死で言い訳した。これは故意ではなく事故なのだと。いや、事故だろどう考えても!! なんで食器の入ってる箱の中にこんなもん入ってんだよ!! マジで腹立って来たわ--うっ、眼が……!!
必死で言い訳していた俺の事をドン引きしながら見ていたヒナだったが、文字通り眼を真っ赤にして釈明したおかげか、一応事故という事で納得して貰った。
「そうだよね。お兄ちゃんがそんな事するわけないよね」
分かって貰えて兄は嬉しい。だからもうちょっとこっちに来てもいいのよ? ちょっと兄妹にしては距離遠くないかな? 物理的に。
こんな罠を仕掛けた亜咲には何らかの形で報復するとして、せっかくなのでヒナにも手伝いを頼むとする。なぁに、箱を開けて貰うだけの簡単なお仕事ですよ。
ヒナ検査官の検査により、他の箱には罠が仕掛けられていない事が分かったので、本が詰められた箱を三段重ねにして部屋の隅の方へと運ぶ。つまり俺はまんまとしてやられたというわけですね。
「お、お兄ちゃん重くないの?」
「いや? それほどでもないけど」
なんせ無理矢理鍛えられたせいもあって、それなりに力もついたしね。どうせ運ぶならいっぺんに運んだ方が楽だし。ちなみにもうちょっと重くても持てる余裕はあるが、あんまり重ねすぎると滑って落とす可能性もあるから無理はしない。
「そうしてるのを見ると、本当に苦労したんだね……」
「ん、まあそれなりには……」
全く苦しくなかったと言えば嘘になるし、かといって苦しい事だけだったかというとそうでもない。言葉通り生傷の絶えない日々ではあったが、気の置けない仲間も出来たし、得られたものも大きかったと思う。
「おかげで全く勉強についていけないけどな」
「あはは、だったら夏希お姉ちゃんに教えてもらいなよ。お姉ちゃん、成績良いんだから」
「そうなのか。そういえば途中から編入したから誰が成績良いとかよく知らないな……」
まあ努力家なナツの事だし、成績が悪いとは微塵も思っていないが。でもそうか、容姿だけじゃなく成績も良いとなると、あの人気っぷりも納得出来るな。
--あ、そういえば美咲さんから生徒会に勧誘されてたっけ。だったらなおさら納得だ。
「一年の頃はずっと学年で十番以内だったよ?」
「マジで?」
格が違った。
一学年に生徒が何人いるのか、正確な人数は覚えていないが、それでもクラスが十組あるわけだから、一クラスあたり四十人前後としたら四百人か。え? 四百人の中で十番? 凄くない? しかもうちの学園って名門進学校って言うくらいなんだから、みんな頭良いんだよな……?
まあ俺も(下から)十番以内に入れる自信はあるけどね。泣いていいかな?
「夏希お姉ちゃん、お兄ちゃんが事故にあってから、将来はお医者さんになるって必死だったんだから」
「ああ……そうだったな」
しかも原因は俺だったと。うーん、でももう足治っちゃったからな……ナツの努力を無にしてしまったようで申し訳ないとは思うものの、だからといって治らないよりはよっぽどマシだろう。間違っても治らなかった方が良かったなんてのは思えないし、思いたくもない。こういうのは何が正解ってわけでもないんだろうけどさ。
「あ、そうだ。ナツと言えば剣道は結局続けるのか? この前の事もあるし、本人も辞めようみたいな事言ってたけど……」
「ううん、辞めようと思ってたみたいで退部の挨拶に行ったんだけど、結局部員のみんなに説得されてまだしばらくは続けるみたい。なんだかんだで夏希お姉ちゃんも剣道が好きなんだって」
「ん、なら良いんだ」
最初は俺に付き合って始めたのかもしれないが、好きな事なら是非とも続けて欲しい。今まで頑張ってきた分もったいないしな。
「えっと、やっぱりお兄ちゃんはもう剣道やらないの?」
「うん、やらない」
「そっか……なら他の部活とかは?」
「うーん、入らないかな。っていうか俺だけじゃなくて大輝達も入らないと思うぞ」
俺の返答を聞いて、僅かに顔を曇らせるヒナ。すまんね、これはもう気持ちの問題なんだわ。
「そっかぁ……あっ!! でも気が向いたら剣道の練習とか付き合って貰える?」
「そりゃもちろん。部活動としてはやらないってだけで、たまには練習しないと鈍っちゃうからな。なんなら大輝とか光も混ぜてもいいぞ」
「ほんと!?」
「ああ」
あの二人もヒナの事は気に入ってると思うし、練習に付き合って貰うくらいは何の問題もないだろう。いや待てよ? 大輝はともかく、光の奴手加減とか出来たっけな……
「……いや、光はやめとくか」
「なんで!? 私、光ちゃんとも一緒に練習したいよ!!」
どうやらヒナは納得出来ないらしい。まあヒナと光は仲も良いみたいだし、この反応も分からなくはないんだが……
「いいか? 練習中に光が竹刀で斬りかかってくるとするだろ?」
「うん」
「で、ヒナがそれを竹刀で受けようとするだろ?」
「うん」
「そしたら竹刀が真っ二つに斬れます」
「えっ?」
きょとんとした表情になるヒナ。大丈夫、その反応が普通だから。あの三人が異常なだけだよ。
「えっと、光ちゃんってそんなに力強いの? 確かに竹刀同士がぶつかって折れる事はあるかもしれないけど……」
「ヒナ、違う違う」
「違うって? 何が違うの?」
「相手の竹刀をへし折るくらいは俺でも出来るけど、光の場合は折るんじゃなくて斬るんだよ。切断されるって言った方が分かりやすいか?」
「えっ?」
またしても何を言っているのか分からない、といった表情になるヒナ。まあ機会があれば見せた方が早いかもしれないな……
「もしかしたら光が振るった竹刀が、剣速に耐え切れずにバラバラになる可能性もあるけど」
「ええ……? 全然分からないよぉ……」
だろうね。俺も間近で見てなかったらそんな反応になると思うよ? けどマジだから!! あいつらマジやべーから!!
「ま、近いうちにでも一度見せて貰うか。そっちの方が分かりやすいだろうし」
「分かりやすいとか分かりにくいとか、そういう話でもないと思うんだけど……」
そのうち嫌でも分かると思います。
ヒナと雑談しつつ箱を移動させ、一通り片付いたところで我が家へと戻る。こっちはこっちでヒナの荷物を整理しないといけないな……どれ、せっかくだから兄が手伝ってやろう。
「あっ、お兄ちゃんは手伝わなくて大丈夫だからね!?」
なん……だと……?
「ほら、私の荷物って元々こっちに置いてあるし、ほとんどが服とかそういうのだから!! そんなに重い物もないし大丈夫だよ!!」
なるほど、なら確かに手伝いはほとんど必要ないか……? あ、違うわこれ。警戒してるわ。
なんだよ誤解は解けたんじゃないのかよ……マジで泣きそう。
「ちょっと光に斬られてくるわ……」
「なんで!? --あ、そういえば光ちゃんだけど」
「光がどうかしたのか?」
そういえば結局光の姿は見なかったな。
「どうかしたってわけじゃないんだけど、今日からアルバイト始めたらしいよ?」
「バイト? 光が?」
あれ? うちの学園ってバイト禁止とかじゃないのかな? 学校にもよるだろうけど、進学校ならバイトは禁止してそうなもんだけど……あ、でも
「うん、別に口止めされてるわけじゃないから教えてあげるね。確か光ちゃんが始めたバイトはね--」
【あとがき】
カクヨムコンも明日で締切なのでちょうどキリよくここまで!!
読者選考と最終選考と若干気の置けない時間となりますが、最後のレビューやフォローのご協力よろしくお願いします!!
でもって次から三章に入ります。以前書くのを止めてしまったところですね。
ここからはまた書きながら公開という形になるので少し更新頻度がブレると思いますが、続けて書かせてもらいます。
引き続きよろしくおねがいします!!
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