2章後日談

後日談--小吾くんのついてない一日--

 色々あった週末も終わり、皆大好き月曜日がやってきた。学校行きたくねえ……


 このの中身が本当に色々過ぎて、俺自身整理の付いていないところも多いが、それでも明日はやってくる。

 亜咲のお見合いをぶっ潰して(何もしてない)、隣の家に住んでいた吉田さんが引っ越して、代わりに引っ越して来たのが九条さんちの亜咲さん。あ、七海さんちの要さんと夏希さんも同居するってよ。

 なんで? って聞いたら「流石に女子高校生の一人暮らしは危ないので」って答えが返ってきた。いや違うんだよ。俺が聞きたいのはそうじゃない。だからもう一回聞いてみたの。なんでわざわざ隣に引っ越して来たのか。って。


 そしたらなんて言ったと思う?


「同棲の方が良かったのですが、流石にそれは猛反対にあったので」


 もうね。ぼく頭の良い人が考えてる事分からないの。


 流石の俺も話を聞く相手を間違えたと思って、改めて要母さんに聞いてみたんだよ。なんで隣に引っ越す必要があったのかって。

 そしたら「流石にもうあの家には居られないしね。いつあの人が帰ってくるかも分からないし、出て行った時の様子だと何やらかすかも分からないから」と、これはこれで逆にコメントし辛い答えが返って来た。

 これは本人から聞いたわけではないので推測でしかないが、多分亜咲の事だからナツの家の事情も把握しているはずだし、亜咲から要母さんにこの話を持ち掛けたんだろうと思う。多分「信頼出来る大人が同居するなら許可が出る」とかなんとか言ったんだろう。

 で、要母さんを説得出来さえすれば実家は説得出来る算段があったんだろうな。これも推測でしかないが、九条家って少なからず七海家に借りがあると思うし、主に巽氏の件で。更に亜咲は九条家を捨てたような事を言っていたし、それもひっくるめて交渉したんだろう。

 偶然もあるのか、あるいは全てが想定通りなのか分からないが、考えれば考えるほど、自分の思い通りに事を進めた亜咲が怖い。本当にJKか? なんならそれこそ転生者の疑いまである。


 そしてその全力が"俺の近くにいるため"という事実が一番怖い。嫌とかじゃないんだけどさ……


 おかげで今日(も)一日、授業に集中出来なかったじゃないか。


 --はい、そんな事を考えていたらなんやかんやで放課後です。


「大輝ー、帰ろうぜー」

「ん? ああ良いけど、他の皆は?」

「ヒナは部活、ナツは剣道部へ正式に退部の挨拶。亜咲は美咲さんのところ寄るってさ。引っ越しの件だと思うけど」

「光は?」

「そういや今日は見てないな。休んだって話は聞いてないから、用事でもあるんじゃないか?」


 道理で今日は静かだと思った。気にならないわけではないんだが。


「まあ、病気の方から逃げていくような奴だし、トラブルがあっても力ずくでなんとかするだろ」

「否定はしないが、本人が聞いたら間違いなく怒るぞ」


 本人がいないからセーフセーフ。


「ってわけだからとっとと帰ろうぜ。帰ったら荷物バラしといてって要母さんに言われてるんだよ」

「ああ……そういえば亜咲と七海さんが隣に引っ越して来たんだったか」

「バカ、お前!!」


 まだ教室に他の生徒もいるのに、何てこと言いやがる……!!


「おい、聞いたか今の」

「ああ、七海さんがあいつの家の隣に……どういう事だよ」

「しかも亜咲って子、いつも来てる一年の子だろ?」

「九条って苗字らしいぜ」

「それってもしかして生徒会長と関係あるんじゃね?」


 --オワタ。


「ほら、とっとと帰るぞ!!」

「あ、おい待てよ小吾」


 待って欲しいのはこっちだよチクショウめ!!


 内心で悪態を吐きつつ、教室を後にする。後ろから大輝が追いかけてくるが、とりあえず今はこの場から離れたかったので待つ事はしない。

 そろそろ校門を出ようかと言うところで少し落ち着きを取り戻したので、大輝を待つことにした。

 昇降口から出てきた大輝が俺の姿を認めて足早に駆け寄って来る……が、その周囲を女生徒達が取り巻いているのが伺えた。

 とりあえず俺は何も見なかった事にして校門を後にする。


 言っておくが、別に大輝がモテてるのが羨ましいわけではない。断じてない。あの中に入っていっても「何コイツ?」的な目で見られるのは分かっているので避けたいだけだ。


 むしろ大輝も大輝で、あれだけ人気もあるのだから、いわゆる"輝く高校生活"を送っても良いと思うんだけどな。実際のところは俺が付き合わせてる事が多いのは否めないが、もう少し自分の事を優先しても良いと思う。


 そんな事を考えながらしばし歩き、ふと後ろを振り返ってみると、相変わらず大輝は女生徒に囲まれていた。だが大輝はこっちを気にしている風なので、多分あれは無理に振り払えなくて困っている状態だろう。

 しょうがないから俺が歩み寄ってやるか、と思った時だった。


「おいおい兄ちゃん。昼間っから良い身分じゃねえか」

「何人か俺達にも分けてくんねえ?」


 と、絵に描いたようなチンピラ風の男達が大輝達に絡んでいた。流石に女生徒達は大輝の後ろに隠れているが、大輝は男達を前に、特に気にした風でもなく、自然体のままである。

 まああのくらいの事は大輝ならほっといても勝手に解決するだろう。とは分かり切ってはいるものの、俺の足は大輝の方へと向かう。


「すいません、邪魔なので退いてくれませんか?」


 大輝がご丁寧にも道を空けてもらうようにお願いするが、当然それは聞き入れられるわけもなく。


「おっと、通行料は後ろの女の子達だぜ?」


 と、手を広げて大輝を遮っていた。こんな人通りの多い時間によくやるなぁと一周回って感心してしまう。

 一応周りを見てみたが、通りがかる人達は見て見ぬフリをしているか、警察に通報しようとしてくれたのか携帯を取り出すも、チンピラさんに睨み付けられてそれをしまう。といった感じだった。

 恐らく大輝の真正面にいるのがリーダー格の男なのだろうが、大輝の方が身長が高いので因縁をつけるにしても見上げる形となり、後ろから見ていると意外と滑稽に映る。

 そんな益体もない事を考えながら、俺はスタスタと大輝の方に近寄っていく。それなりに近づくと流石におかしいと思ったのか、チンピラCさんとDさん(今命名)が俺を睨み付けてきた。


「なんだテメェ」

「コイツと同じ制服じゃねえか。もしかしてお友達を助けに来たってか?」


 ゲラゲラと俺を見て笑うチンピラさん達。なんでこういう奴らって歯並びが悪いんだろうね? ほれスタスタスタ、と。


「おいコラ止まれクソガキ!!」

「これ以上近付いたらどうなるか分かってんだろうなぁ!?」


 などと供述しており以下略。

 大輝の後ろにいる女生徒達も俺が不用意に近付くのを見てか、顔を青くしているのが見えた。大輝の傍を離れないのは正しいっちゃ正しいんだけど、あれだと大輝も動き辛いだろうな。


 --とか考えながらも足は止めません。スタスタスタスタ。


「なめやがって!!」


 一向に言う事を聞かない俺の態度に業を煮やしたのか、チンピラCさんが拳を振り上げて殴りかかってきた。うわ、いきなり顔面狙いかよ下手くそか。

 俺はその拳を避けず、額の部分で受けた--お巡りさんこいつです!! あ、お巡りさんいない? じゃあ正当防衛成立ですね。


「キャアア!!」


 女生徒の一人が俺が殴られる様を見て悲鳴を上げるが、多分今は俺よりもチンピラCさんの方が痛いと思う。しかも俺を殴ったままの体勢で止まってるもんだから、ついついお留守になっている足元を払ってしまった。しょうがないよね?

 多分現在進行形で、チンピラCさんは浮遊感に見舞われているはずだ。だって両足とも地面についてないし。ついでに言うと足を払った後は、そのままこう、足を上に上げてですね?


「ぐぇっ」


 チンピラCさんを踏み抜くわけです。これで多分ちょっとの間呼吸できないので一人目再起不能リタイヤ、と。骨が折れてたらごめんなさい。自業自得です。


「この野郎!!」


 怒ったチンピラDさんが大声を上げた。

 それに釣られてリーダーと思われる男もこっちを振り向いて全員が俺の方を注目する--いや、注目してちゃいかんでしょ。

 案の定、大輝がリーダーさんの首を掴み、壁に押さえつけた。あれ? もうこれで終わっちゃうんじゃない?


「お、おい!! 離しやがれ!!」


 リーダーさんの焦った声を聴いたチンピラさん達が、またそっちを振り向く。いや、リーダーさんがなんでそうなったか分かってないのかな? 学習しない子にはお仕置きです。

 大輝に押さえ付けられているリーダーさんを見て慌てているチンピラさん達に、一人ずつローキックを入れていく。痛いよねローキック。良いところに入ると本当立ってらんなくなるもの。こんな感じに。


「おい、お前らどうした!! 早くこいつらやっちまえ!!」


 大輝に押さえ付けられて状況が分かってないリーダーさんが、チンピラさん達に発破をかける。でも残念。もう終わっちゃったんすよ。


「よし大輝、帰ろうぜ」

「ああ、そうだな」


 返事をした大輝は、そのままリーダーさんの頸動脈を絞めて気絶させる。間違いなくプロの所業である。こわぁ。


「あ、そうそうそいつら起きると面倒だから、とっとと帰った方が良いよ」

「変な事に巻き込んですまない。じゃあ俺はこれで」


 正直大輝も巻き込んだというよりは巻き込まれた側の気もするけどな。

 とは言え、何かあっても嫌な気分になるので、唖然としている女生徒達にひと声かけてから、俺達は帰路に着いた。


「ほいじゃお疲れ」

「ああ、また明日な」


 途中で大輝と別れ、一人家路につく。

 確か帰ったら荷物だけバラしておいて欲しいと要母さんに言われていたので、家に着いたら着替えてお隣の九条さんちに向かうとしよう。当然だが鍵も預かっている。というより押し付けられた。流石に育ての親に頼まれたら嫌とは言えないよね。きっとそこまで考えての事だろう。亜咲恐るべし。


 程なくして自宅に辿り着き、制服から私服に着替えて九条さんちに向かう。あれ? でも要母さんとかナツに用があってここに来る場合も九条さんちに行くって事になるのか? それともその時は七海さんちになるのか?


 --結論。どうでもよかった。


「お邪魔しまーす……っと」


 とりあえずとっとと済ませてしまおうと、リビングに運び込まれている荷物を……と思ったら、既にリビングにはテーブルやソファが置かれており、荷物は寝室と思しき洋室にあった。ちなみにヒナの荷物はお隣の地原さんちに運んであります。そら隣に実家があるのにこっちに住む意味はもうないよね。お兄ちゃんと住むなんてやだ!! って言われたら割と立ち直れないまである。


「えーっと、この荷物は……ああ、食器なのか」


 せっかくだから段ボールの中身を食器棚に収めておこうかと思ったが、引っ越し直後の食器って一度洗ってから使うんだろうか? その辺が分からなかったので、中身を確認したら台所にでも運んでおく事にした。持った感じ結構重いし、力仕事は俺の仕事だろう。そう思って段ボールの封を開いた。


「……わっつ?」


 確かにこの段ボールには食器が詰められていた。新聞紙に包まれてるし、ちょいちょいガチャガチャ陶器の擦れる音もするし。

 でも何故その新聞紙の頂上にが存在するのかが分からない。分からないよ。


 どうみても女性用下着ブラジャーです。本当にありがとうございました。


 --いやありがたくないけど!? なんで食器と一緒に入ってるの!?


 とりあえずこの箱は見なかったことにして、そっと蓋を閉じる。なんならガムテープで再封印したいまである。


「まあ……理由は分からないけど、多分間違えて入っちゃったんだろう。うん」


 気を取り直して次の箱へ。今度は"書籍"と書いてある。本も重いし、本棚をどこに置くかは分からないけど、中身だけ確認したらいったん隅の方に運んでおこう。気を取り直してレッツ開封!!


 --こんにちは胸部外装ブラジャーさん。二度も会うなんて奇遇ですね?


 ふざけんなこの野郎。これ絶対あいつ亜咲の仕業だろ!! って事はこの箱にも入ってんだろ!? 腹が立ったので、俺は半ばやけくそ気味に"衣類"と書かれた箱を開封した。


 --洋服しか入ってませんでした。


「逆になんで入ってないんだよ!?」


 はっ!? いかん落ち着け俺。これじゃまるで入ってなかったのが残念だったみたいじゃないか。違うそうじゃない。そうであってはいけない。まるで亜咲の掌の上で弄ばれているようで、釈然としない気分になってしまう。

 良いだろう。なら俺はこの二つのブレストアーマーブラジャーを、衣類の箱に収めておいてやろうじゃないか。これはただの入れ間違い。だから衣類の箱に入っているのが正しい。正しい事をするのに後ろめたさなんてない。ないったらな……いや、これデカくない?


 食器の箱から衣類の箱へ移す際に、必然的に例の物ブラジャーを手に取る事になったが、CMなんかで見るサイズよりも一回り以上大きいに目を奪われてしまう。だからだろう。完全に油断していたと言わざるを得ない。


「お兄ちゃーん!! 荷物の整理するって聞いたから早めに切り上げて来た……よ?」


 いつの間に入って来ていたのか、後方から聞こえるその声は、紛れもなく我が妹の声である。まさかここまで計算して……ッ!! いやそんな事より--


「……なにしてるの?」

「違う、違うんだ。そうじゃなくてこれは亜咲の陰謀で、俺は別に何も……ああああああもうなんで食器の箱にこんなもん入ってんだよおおおおおお!!」


 夕日が沈み始める頃、俺の絶叫が響き渡る事となったのだった。

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