第6話(めっちゃ改稿済み)
「――それでは本日のホームルームを終わります。日直さん、お願いね」
「起立、礼!」
ようやく学園生活二日目が終わる。なんか今日はずっと眠かったな……
昨日の夜は要母さんの愚痴が思ったより長引いて寝るのが遅くなったから午前中は寝不足気味で眠かったし、午後は午後で光と亜咲に弁当のおかずをあれもこれもと押し付けられたせいでお腹はパンパン。で、満腹ともなれば更に眠くなるときたもんだ。
ちなみにお返しにと押し付けようとした俺の野菜炒めは全部拒否。俺くやしい。
まあでもホームルームさえ終わってしまえば華の放課後だ。誰も俺を止められない。でも眠い……ッ!!
周囲では部活に向かう生徒や、教室に残って友人と話をする生徒、俺と同じく下校しようとする生徒など、休み時間以上に騒がしい。そういえば学校ってこんな感じだったなぁ。
少し感慨深くなったものの、それはそれとして今日も夕食は野菜炒めかなぁ。なんて考えてしまうのは高校男子らしくないか、と苦笑しつつ帰宅しようと鞄を手に取った。
「良かった。まだ教室に居たんですね」
「あれ? 亜咲?」
席を立って間もなく亜咲が教室にやって来た。昼休みの事もあってか、またクラスメイトの注目を集めているのがわかる。背中に視線がビシビシ刺さりまくりですよ。
「ええ、亜咲です。たまには小兄様と一緒に帰ろうと思いまして」
「たまにはっていうか、まだ高校生活も二日目だけど?」
「本当は昨日もお誘いしようと思ったのですが、光さんと新しく友人になったクラスメイトの方と部活の見学をしていたもので……」
「ああ、光に聞いたよ。剣道部の見学したんだってな」
というか昨日も誘おうとしたって事は"たまには"でもなんでもなくない? 今日の次は一か月後にするつもりだった。とかなら何とも言えないけど。
「私は元々部活動に興味はなかったので、同じく興味のなさそうな小兄様と一緒に下校して差し上げようかと」
「それはどうも、ってか勝手に決めつけるなよ。合ってるけど」
「でしょう?」
クスクスと笑う亜咲。コイツは本当に人を食った様な言動が多いが、その分気を許してくれていることがわかるから憎めないんだよな。
なんせ会ったばかりのコイツときたら……
「天翔くーん、暇なら一緒に遊びに行かなーい?」
「あ、私も私も!!」
隣の席から姦しい声が聞こえて思考が中断される。おやおや、相変わらず大輝様はおモテになる事で。王子様かな?
「予想はしていましたが、大兄様はモテモテですね」
「お前からモテモテなんて言葉が聞けるとは思っていなかったが、確かにあれはモテモテだな」
そりゃあ俺だって男なんだから女の子にモテたいと思ったことは何度もあるにはある。でもそれにしたってあそこまでとなると勘弁願いたいレベルだよなぁ。断るにしても大変そうだし。負け惜しみじゃないよ?
「ごめん。今日は小吾と帰るから」
そう言い残して女子包囲網から脱出していた。アイツ俺を言い訳に使いやがったな……流石は裏切り者汚い。
とは言え、俺と帰ろうと思っていたのは事実だろうな。俺だってあんなにまとわりつかれたら大輝とダベりながら帰りたくなるわ。
「小吾一緒に帰ろうぜ……ってあれ? 亜咲?」
「ごきげんよう、大兄様」
どうやら女子に囲まれていたせいか、亜咲が来ていた事に気付いてなかったようだ。
「見てたぞお疲れさん。ちょうど今から亜咲と帰るところなんだが、大輝も一緒に帰るか?」
「お、良いのか?」
「ええ、大兄様は歓迎しますよ?」
それは暗に俺達に、というよりも大輝に付いて来ようとしている後ろの女子達に向けた牽制の一言だったのだろう。
「ごめんね。そういうわけだから、また今度」
それに被せるように大輝も女子に向けて断りを入れた。ただ断るだけじゃなくて、"また今度"というのがポイントなんだろう。しかも無意識に言葉が出てきてるところがまた腹立たしい。
で、なんで俺はめっちゃ睨まれてるわけ?
女子達の憎しみのこもった視線が俺を刺す。いや俺なんも悪くないよね。なんなら睨まれるなら亜咲の方だよね!? 解せぬ。
「――おや、亜咲さんじゃないか」
と、突然かけられたその声に反応し、亜咲の肩がピクリと反応する。
「ああ、誰かと思えば天野さんですか。ご無沙汰しております」
「天野さんだなんてよそよそしい言い方しなくても良いよ。僕と亜咲さんの仲じゃないか」
「私は名前で呼ぶ事を承知した覚えもありませんので」
あれ? 天野って確かナツの彼氏……だよな? 亜咲と知り合いだったのか。しかし随分馴れ馴れしいけどどういうご関係で?
「別に学校だからって気にしなくて良いよ。先輩とかも気にしなくていいからさ」
「分かりました。では気にしない事にします。小兄様、大兄様、行きましょう」
声音はいつもどおり穏やかだが、亜咲は服の裾を指で摘んでいた。これはどうもご立腹のご様子。一方、当の天野はその事に気付いていないようだ。
亜咲は基本的に平坦な感じで感情を態度に出す事はないが、嫌な事があった時や機嫌が悪い時には服の裾を摘むクセがある。これ豆ね。
ちなみに指で摘むレベルじゃなくて、掌で握り込むレベルになるとそりゃもう激おこよ。
むしろそのクセも分かってないのによくもまぁ「僕と亜咲さんの仲じゃないか」なんて言えたものだ。
これくらいのことは俺達三人ですら知っている事なのに。
「まあまあそう慌てずに、えっと、君は確か天翔君だっけ? 昨日転校して来たんだよね? うちのクラスでも話題になってるよ」
「それはどうも。で、天野……君だったか。申し訳ないが俺達はそろそろ帰りたいんだ」
「そう言わずに少し話でもどう? 例えばそうだな、生徒会に興味ないかい? 君なら人気も出るだろうし、僕から推薦して上げても良いんだけど。もちろん亜咲さんもね」
はいはい!! ここにもう一人いますよ!! 俺は推薦して貰えないって事で良いですかねえ!? いや生徒会なんて入りたいと思わないけどさ。
「うーん、せっかくのお誘いだけど、昨日転校して来たばかりでこの学園の事もよく分かってないし遠慮させて貰うよ。そういうのは学園の事をよく知っていて、愛着のある人から選ぶべきだと思うしね」
「私も興味がないので」
「あらら、フラれちゃったか。参ったなぁ」
苦笑しつつ頭を掻くように手を頭にやる天野。なんというかちっとも残念そうじゃないし、わざとらしい演技でもしているようにしか見えない。
しかも目線が亜咲の顔と胸を交互にチラチラ見ているのが分かった。腕で目線を隠そうとしてるけどバレバレっすね。男として見たいのは分からないでもない。分からないでもないけど。
――ああ、俺コイツ嫌いだわ。
ナツの彼氏だという点については当人の話だから良いとしても、下記五点の俺理論によりコイツ嫌い認定する事にした。
一.亜咲が嫌がっているのに名前で呼んだ。
二.俺達が三人で帰ろうとしているのは見ていれば分かるのに、引き留めて自分の都合で話をした。
三.俺をスルーした。
四.恋人がいるクセに下心丸出しの視線で亜咲を見ている。
五.俺をスルーした。
よってギルティ。
なんでナツはこんな奴と付き合ってるんだろう。今まで恋人がいるならと遠慮していたのが馬鹿馬鹿しくなってきたんだが。
要母さんが言ったからというわけではないが、一度彼女とはちゃんと話をする必要がある気がする。
人の趣味に口を出すのは失礼かもしれないが、それで彼女に嫌われてしまったのならもう仕方がないだろう。
そう考えると胸に何かがストンと落ちる気がした。
そうと決まれば件の幼馴染はまだ教室に残って居ないかな、と思い記憶にある席の辺りを見てみるが、既に部活に行ってしまったのか姿は見えなかった。
まあいきなり「なんでコイツと付き合ってんの?」って聞くのも変な話だし、タイミングを見計らって話した方が良さそうだ。
この二日間で分かったが、彼女は彼女でクラスの人気者のようだし、タイミングを見計らうとは言っても、周りに人がいないという状況はなさそうな気はするが。
だからといって休日に家に押しかけてもなぁ。
まあそれは後で考えれば良いか、と思い現実に意識を戻す。どうやらまだ二人とも天野に話しかけられているようで、なかなか解放して貰えないようだ。
亜咲ももう少しバッサリ行くと思ったが、なんだかんだで対応はしている様子。何か無下にできない理由でもあるのかもしれない。
とは言えこのままでは埒が明かないので、俺はいったん二人を置いていくように廊下を歩きながら、振り返って声をかけた。
「おーい、帰らないなら置いてくぞ」
「あ、小兄様! 待ってください!!」
「お、おい小吾待てよ。悪いな天野、そういう事だから!」
「ちょ、ちょっと!?」
後ろから二人が駆け寄ってくる気配を感じつつ廊下をズンズン進んでいく。背中に強い視線を感じたが無視する事にした。俺もさっき無視されてたし、おあいこおあいこ。
今日はもう視線に刺されまくって俺の背中は穴だらけですよ。
「……チッ」
などと舌打ちが聞こえても気にしない。本人は聞こえてないつもりなんだろうが、あいにく目と耳は良い方だ。流石に気を張ってない時は聞き逃すかもしれないが、俺も残念ながら気配を感じるように散々鍛えられてるし。とりあえず天野君罪状一件追加、と。
「申し訳ありません小兄様。気を使わせてしまって」
「別に気にする事はないさ。亜咲が嫌がってるのも分かってたし」
「俺は?」
「ついで」
「ひどくない?」
廊下を歩いていて思い出したが、そういえば今日光はどうしてるんだろうか。一人だけ仲間外れなんて事を知ったら明日怒ってきそうだが……
「亜咲、そういえば光は?」
「光さんは新しい友人と一緒に帰るそうですよ。なんでも近所だったそうで」
ああ、なら大丈夫か。心配する必要もなかったようだ。
下駄箱から靴を取り出し、上履きから学校指定の革靴に履き替えて校庭へ出る。
校門まで辿り着いたところで、そういえば三人がどこに住んでるのか詳しくは知らなかった事を思い出す。立場上、亜咲が知っているだろう事は分かっているが……
「そういえば二人ともどっちの方向なんだ?」
俺は校門を出て左手に歩いた方角だ。
「私はこちらですね」
「俺はこのまま真っ直ぐだ」
亜咲は右方向を指さし、大輝は真っ直ぐだという。あれ? これじゃ一緒に帰れなくない?
「昨日大輝はこっちから来てなかったか?」
「ああ、うちは弁当じゃないから、朝はそこのコンビニで昼飯買ってから登校してるんだよ」
「あ、なるほど。っていうか三人とも方向が別々だと一緒に帰るも何もないな」
「なら私が小兄様を家まで送ってから帰りましょうか」
「いや普通逆だから。方向も逆だし、役割も逆」
なんで俺が送られる方やねん。
「小兄様が私を……? まさか送ると言って人気のないところに」
「そういうセリフはもっと暗くなってから言おうな」
「お前ら相変わらず仲良いな……」
大輝が目を半眼にしてこちらを見ていた。
「まあまだ時間も早いし、俺と大輝で亜咲を家まで送ってから途中まで一緒に帰るか」
「ん、そうだな」
「小兄様と大兄様がお二人で……小兄様はそちらのご趣味もあるのですね」
そちらってどちらですかね?
「よしじゃあ帰るか。亜咲、道案内はよろしくな」
「ついでだから途中でコンビニに寄らせてくれ。飲み物買って帰りたいし」
「お二人が話を聞いてくれません……」
悲しんだフリをする亜咲の背中をトン、と軽く押して帰宅を促す。
「もう……どうせ押すのなら前からでも構いませんのに」
「それだと逆方向になるだろ……それとも後ろ向きで帰るのか?」
「お二人の仲睦まじい姿を見ながら帰るのも一興です」
あれ? もしかして亜咲さんってお腐りやがってらっしゃいます?
「はいはい、分かったから早く案内してくれ。本当に日が暮れるぞ」
「仕方ないですね。それでは行きましょうか」
どうやら今のやり取りで先ほどの不機嫌さはどこかへ飛んで行ったらしい。亜咲は先程までよりも軽い足取りで俺達の間に入り、少し前に出て帰り道を先導する。これは機嫌の良い時に見せるクセだ。
全く女子の機嫌は良く分からないな、と大輝に目配せしたところ、苦笑で返された。どうやら同じような事を考えていたらしい。
亜咲の家は学園からそれほど距離はなく、徒歩で十五分ほどだった。途中寄ったコンビニで大輝が買った炭酸飲料を回し飲みし、俺と亜咲で半分以上飲んでやったら大輝が怒った以外は特に何事もなく、俺達は各々の自宅へと帰った。
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