40話
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、えーと六人です」
「六名様ですね。こちらのテーブル席へどうぞ!!」
元気の良い店員さんに案内されて席へ着く。俺の両隣にはナツと亜咲が座り、向かい側には美咲さんを中心に両側に大輝とヒナが座る形となった。
よくよく考えたら男二人に女性四人ってバランスが……普通大輝とヒナが俺の隣にいる方が自然な気もするんだけど……
「そういえば光はどこにいるんだろ?」
きょろきょろと辺りを見回してみる。あ、いた。
俺達には気付いていなかったようで、他のお客さんの接客をしている姿が目に入った。思ったよりちゃんとやってるようで何よりだ。
光の事を見ていると視線に気が付いたのか、こちらの方に振り向いて……バッチリ目が合った。
ちょうど注文を取り終えたのか、手元で何かを操作しながらこちらに向かってくる。
「いらっしゃいませー!! ご注文はお決まりですか!?」
「相変わらず元気そうだな」
「えへへ、そんなことないよ!!」
実はバイトが上手くいってないから教えてくれなかったのかと少し心配していたがどうやら杞憂だったようだ。
先ほど注文を取る時もいつも通りの笑顔だったし、俺達の前にいるからと無理をしているようでもないし。上手くやれてるんだなと少し内心では安堵していた。
「小兄達が見えたからこっち来ちゃったけど、注文決まってる? 決まってないならまた後で来るよ?」
「あー、そういえばまだちゃんとメニュー見てないや。みんなは?」
「俺もまだ決まってないな」
「私も。ここに来るの久しぶりだからもうちょっと選びたいかな……」
ぶっちゃけ席についてそんなに時間も経ってないしな。俺なんてメニュー見る前に光の姿探してたくらいだし。
「わかりました!! ではお決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください!!」
「わかった。ありがとうな」
接客業ということもあってちゃんとマニュアル通りに声をかけてくれたが、いかんせん元気が良すぎる気もする。まあ知り合いの前だと張り切ってしまうこともよくある事か……
と、思っていたが他の店員さんからも微笑ましいものを見るような視線が光に送られており、もしかしたらこれがいつも通りなのかもしれないとも思った。
なんだかんだで存在感あるからなぁ。光のやつ。
特に男性客からは視線を集めているのがわかる。そうだよな。見た目も良いもんな。もしかしたらその内の何人かは光目的で来店している人もいるのかもしれない。
さてそんな事ばかり気にしていても仕方ない。ちゃんとメニューを選んで注文しないと……
ナツと亜咲に挟まれながらメニュー表に目を通していたその時だった。
「いらっしゃいませー!! 何名さま……で」
光の元気の良い声が徐々に萎んでいくのが耳に入った。
どうしたのだろうと視線を入り口に向けてみれば、男性客が一人立っていて。
光を見ながらニコニコと人の好さそうな笑みを向けているのが目に入った。--いや、あの笑い方はどちらかというと……
「ようやく見つけたよ。光」
「お……とうさん……?」
光の方は掠れるような声だったが二人の声が耳に入った。どうやら入り口に立っている男性は光の父親らしい。
俺達と同じで光の様子を見に来たのか? いや違う。だったらようやく見つけたなんて言うはずがない。
それに光の様子を見れば歓迎しているようには見えない。どころか、どこか怯えているようにも見える。光が怯える? あの光が?
店員の一人が光の様子に気付いたようで、光に声をかけて接客を交代し、光はバックヤードへと姿を消した。
「光のやつどうしたんだ……? 俺にはお父さんと言ったように聞こえたけど」
「しょうちゃんよく聞こえたね……私は全然聞こえなかったよ」
「人も多いからな、聞こえなくても無理はないと思う。大輝も聞こえただろ? ……大輝?」
俺よりも耳の良い大輝なら聞こえていただろうと思い、大輝に同意を求めるが返事がなかった。
気になって大輝の方に視線を動かしてみれば、入り口にいる男性の姿を、まるで睨みつけるかのような険しい表情をしているのが伺えた。
「大輝? どうした?」
「あ、ああすまない。ちょっと知ってる顔に見えたからつい……」
ちょっと知ってる人に向ける視線ではなかったと思うけどな……
光と接客を代わった店員さんに案内されて席に向かう男性に再度視線を向けてみるが、やはりあのうさんくさい笑顔のまま、案内された席に座る姿が見えた。
特に何か不審な動きもなく、ただ席に着いただけだ。
そしてまた大輝に視線を戻すと、やはり大輝は男性の方に視線を向けたままだった。
ん?
ふと違和感に気付いた。
あの男性と大輝、今でこそ大輝は険しい表情をしているが、普段周囲に見せている笑顔とよく似ていなかったか?
「なあ大輝……」
「小吾、それ以上は言わないでくれ」
俺が二人を見比べるようにしていたからだろうか。大輝から言葉を遮られてしまう。
「すまん。なんでもないんだ」
「いやなんでもないってお前、そりゃ無理があるだろ」
こいつが怒りの表情を見せるなんてほとんど記憶にないからな。
「悪い。ちょっと用事を思い出したから先に帰るな。生徒会長すいません。お礼の事は気にしないで大丈夫です」
「お、おい大輝」
「わかりました。それじゃあ天翔くんにはまた別の形でお礼させてもらいますね」
「大輝待てって!!」
俺の言葉に少し申し訳なさそうな表情をした後、大輝は席を立ち、店から出て行った。一体どうしたというのだろうか……?
おそらくあの男性となんらかの関係があるのだろうが、光の父親と大輝とどういう関係があるのか上手く結び付けられない。
「天翔くんどうしたんだろう……心配だね」
「大輝先輩……」
ナツとヒナも大輝の事を心配していた。一方で亜咲と美咲さんは特に動じた様子もなく、亜咲に至ってはスマートフォンを操作している始末だった。
「とりあえず光さんにはバイトが終わったら私の家に来るようにメッセージを送っておきました。話は後でも大丈夫でしょう」
さすがは亜咲。行動が早い。一方で大輝には連絡しなくて大丈夫なのか心配になったが、あの様子だと今は何を言ってもダメそうだと判断したのかもしれない。
「大兄様に関しては光さんと話をした後でも良いでしょう。光さんに比べてまだ理性が残っているようでしたから」
「……何か知ってるのか?」
この話し方だと亜咲は色々把握しているようにも伺える。だったら何故教えてくれないのかと気になりはするが……
「これに関しては私が何か口を出す事も難しいですから。本人から直接話を聞いた方が良いと思います。もし光さんにしても大兄様にしても、話したくない事であれば私からお伝えするのもおかしな話ですし」
それはそう。確かにそうだ。頭では理解できるものの、心情的には納得できそうにもない。
「それよりまずは注文しましょう。大人数で来て注文もせずに席だけを占有するのも気が引けますし、特にそろそろ夕飯時ですから店の迷惑にもなりかねません」
「わかった……」
釈然としない気持ちはあるが、それは別に亜咲が悪いわけではない。ただ俺が勝手に気にして勝手にイラついているだけの話だ。
--少し眼が痛む。落ち着け俺。
この後光が来るのであればそこで話をすればいいのだから。
仕方なく目についたパスタ料理を注文する。
光と大輝の異変で重くなってしまった雰囲気をそのままに、俺はあまり味が分からないまま、運ばれてきた料理を食べたのだった。
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