第9話
学園生活一週目が終わった。
大輝、亜咲と三人で帰宅した翌日、早速休み時間に光が襲撃してきて「仲間外れにされたぁー!!」と騒ぎ始めた。お前はヒナと一緒に帰ってたんじゃないのかよ。
「それなら五人で帰れば良かっただけじゃない!!」
「お前はともかく、いきなり巻き込まれても相手が困るだろうが」
とは言ったものの、既に光と亜咲と知り合っているのなら初対面は大輝だけってことになるから困りはしないのか……?
早くヒナに会いたい気持ちはあるのだが、今まで心配をかけた事が申し訳なくて、どう謝ろう、など考えが纏まらず、なかなか踏ん切りがつかずにいた。
今ではたった一人の肉親なのだから、本来なら真っ先に会うべきだとは分かっているんだが……やっぱりこれもタイミング逃した気がする。
「怒ってるだろうなぁ……」
「怒ってるよ!!」
「お前じゃない!!」
ヒナが俺の妹であることを光と亜咲に話してしまっても良いんだけど、せっかく友人になったんだから俺というフィルター抜きで仲良くなって欲しい。
光と亜咲には散々世話になったから、あちらでの事情を話せばヒナは気を遣ってしまうかもしれない。逆にヒナが俺の妹と知ったら光と亜咲は俺の妹だからと意識して仲良くしようとしてしまうだろう。
それはそれでありがたい事ではあるが、まずは自然に友達として親交を深めて貰ってから、各々の関係を話したいと思っていた。
これは俺のわがままでしかなく、当人達にとっては余計なお世話かもしれないが。
ちなみに俺の友人関係はと言うと、毎度毎度休み時間に光か亜咲、あるいは両方が教室に押しかけて来るものだから、この一週間で俺の席に人が寄り付く気配はなかった。なんなら男子諸君からは厳しい視線を貰う始末だ。
加えて隣には大輝という超優良物件が転がっているのだから女子に関してはほぼ無関心。泣いていいかな?
そして肝心のナツはと言えば、時折チラチラとこちらの様子を伺っている姿が見て取れたが、周囲から人が減ったと思えば例の天野や他の女子生徒達に話しかけにくる始末で、ついぞ話しかけて来る事はなかった。
正直な話、お互い完全に話しかけるタイミングを逃してしまった感がある。
では何故俺から話しかけなかったのだろうか。
自分でも不思議なのだが、ナツに声をかけようと一度は決心するのだが、急に不安に襲われてしまうのだ。
もし話しかけてそっけない態度を取られてしまったら……
彼氏との惚気を聞かされてしまったら……とか。
ただ幼馴染の女の子に話しかけるだけ、という事にすら臆病になってしまっている自分がいた。
いや理由は分かっている。思えばあの時まで一緒に居ることが当たり前だったし、俺自身ずっと彼女に恋をしていたんだろう。自覚はある。
会えなかった間ももう一度彼女に会うんだと、それを目標にしたからこそ生き残る事が出来たのだと思っている。
その想いはこちらに戻ってくるまで消える事はなかったが、この一年半でかけがえのない仲間も出来た。
死ぬかもしれないのにこの眼を使う事を決めた時にはもう、「こいつらと一緒に帰るんだ」という気持ちが大半を占めていたと思う。
それは果たして、彼女に対する気持ちが小さくなってしまったのか、それとも仲間達に対する気持ちが大きくなり過ぎたのかは分からない。どちらの方が大事かと問われれば、きっと俺は答えに窮する事だろう。
このまま理由をつけてズルズルと先延ばしにしてしまうのは良くないと頭では分かってはいるものの、まるで迷路に入ってしまったかのように同じ考えがグルグルとループしてしまう。
だから週末の休みで一度考えを整理しようと思い、大輝に声をかけた。
「なあ大輝、もし日曜暇だったらうちに遊びに来ないか?」
「お、良いのか? 予定もなかったし迷惑じゃないなら行かせてもらうぞ」
「ちょっと相談したい事もあるし、来てくれるとありがたい」
「珍しいな……いつもだったら相談に乗る側なのに」
「ちょっとな。俺にも悩む事の一つや二つくらいはあるって事だ」
幸い俺には信頼のおける仲間がいる。一人で解決出来ないのなら二人で、二人でダメなら三人で、三人でダメなら四人で、いつもそうやって来たじゃないかと自分に言い聞かせる。
「じゃあ昼前くらいに行くから飯でも食いに行くか」
「そうするか。なんなら俺が作ってやってもいいぞ」
「いや、野菜炒めが出てきそうだからいい」
何故バレたし。多分亜咲だな。あの裏切者め。
――という経緯があり、今日は大輝がうちに遊びに来る予定となっている。
元々俺一人で暮らすには広すぎる家だし、友達が数人で遊びに来ても全く問題はない。問題があるとすれば、その遊びに来ても問題ない数人の友達、というのが存在しない事か……
世知辛え。
――ピーンポーン。
どうやら大輝が来たようだ。
玄関に向かい、鍵を開けてドアを開く。
「おういらっしゃい。遠慮せず入っ……」
「来ちゃったっ」
「おぉ……ええ……?」
――バタンッ、ガチャッ。
一瞬目の前の光景が信じられず、謎の言葉を発しながらドアを閉めて鍵をかけた。
これは夢、悪い夢だ。よし寝よう。寝たら夢から覚めるかもしれない。
――ピンポーン、ピポピポピポピーンポーン。
「こらー、開けなさーい」
インターホンを連打しながら開けろと迫る要母さんの声。
「開けろー!! 開けないとドアをぶち破るぞー!!」
先ほどとは違う声が物騒な事を言い放つ。間違いなく光だろう。
アイツなら本当にドアを破壊しかねないと思った俺は現実逃避を諦め、ため息をつきながら再度玄関のドアを開いた。
「ふふん、観念したようね。さ、みんな入って入って」
「よう小吾、相変わらずシケた面してんな」
誰のせいだと思ってるんだ誰の……お前のせいじゃないけどさ。
「大輝よう……なんでこうなったんさ……」
「俺はそこで光に声をかけられてな。どこに行くのか聞いたら小吾の家に行くって言うから同行させて貰おうと」
ああ、やっぱり偶然だったのね。
「神は死んだ」
「殺した犯人ならそこにいるぞ」
「お邪魔しまーす!!」
「お前は少しくらい遠慮しろ!!」
別に光が悪いわけじゃないけど!! なんか!! 納得いかん!!
「お邪魔します」
「亜咲ぃ……お前もかよォ……」
「えっ……と、お邪魔します。じゃないよね、ただいま」
「……っ!?」
バタバタとしたノリで頭が追い付いていなかったらしい。そういえばそうだったよな。そりゃあいるはずだよ。光と亜咲がいるんだもの。
今日家に招待されてるって聞いてたもんな……確かにどこの家とは言ってなかったけどさ……もうちょっとこう、俺にも心の準備ってもんが……
「ああ……おかえり。それと……ただいま」
「うん……っ、おかえり!!」
こちらを見上げた顔は記憶よりもずっと高い位置にあった。そうか、随分背、伸びたんだな……
「まったく、あの人にも困ったもんだ」
「あはは……っ」
苦笑するその声には僅かに嗚咽が混じっており。
「大きくなったな、ヒナ」
「ひっく……お兄ちゃん、お兄ちゃああん!!」
泣き出した妹をあやすように頭を撫でながら、俺達は並んで我が家へと入るのだった。
【あとがき】
恋愛ジャンルの日間一位いただいてました。ありがとうございます。
投稿初めて一週間ほどでこうなるとは思っていなかったので素直に嬉しいです!!
★付けもフォローもたくさんの人にいただいてカクヨムコンのラブコメ部門でも順調に順位が上がっています。
これをモチベーションにしてしっかり更新は続けていきたいと思いますので、どうぞ引き続きよろしくお願いします!!
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