第9.5話(追加版)
--side大輝--
「なあ大輝、もし日曜暇だったらうちに遊びに来ないか?」
「お、良いのか? 予定もなかったし迷惑じゃないなら行かせてもらうぞ」
「ちょっと相談したい事もあるし、来てくれるとありがたい」
「珍しいな……いつもだったら相談に乗る側なのに」
「ちょっとな。俺にも悩む事の一つや二つくらいはあるって事だ」
本当に珍しい。小吾が俺に相談なんて雪でも降るんだろうか。
小吾とは知り合ってまだ二年も経たないほどだが、それなり以上の信頼関係は築けていると思う。
特にあちら--誰も信じてはくれないだろうが、異世界で活動していた頃の経験が大きい。
思い起こせばこちらにいた頃の俺達はまったくと言っていいほど関係を持っていなかった。
小吾、光、亜咲、そして俺の同年代四人が同じ病室に入院していたのにもかかわらず。
思えばこの四人が一か所に集まった事自体が何かしらの運命だったのかもしれない。
自分で言うのもなんだが、俺はやろうと思ったことはほぼ何でも出来てしまう。おそらく光に関してもそうだろう。俺達二人の性質はひどく似ているから。
だからこそ大怪我をしてしまうことなんて想像もつかなかったし、こちらに帰ってきた今、この平和な世界で怪我を負うことなんて想像できないのだから。
亜咲に関しては俺や光のような特別な才能があるわけではないだろうが、とにかく頭の回転が速い上に、何をするにも先を読む能力に長けている。
にもかかわらず入院しなければならないほどの怪我を負ったということが不自然でならない。
まあこれに関しては考えても答えは出ないのだろうが、そこにもう一つ不自然が加わる。小吾のことだ。
自意識過剰かもしれないが、俺、光、亜咲に関してはこの世の中の一般から外れている存在だと思う。
もちろん世界は広い。俺達以上に特別な存在は探せばきっと見つかるのだろう。
だが小吾に関しては特別なことは一つもない。
いや、なかった
あちらの世界では小吾を除く俺達三人は召喚された直後から言語を理解することが出来たが、小吾だけは理解することが出来なかった。
これは魔力の有無で本能的に言語を理解するための魔法が働いているためだと説明を受けたが、小吾に関しては魔力ゼロだった。
本来ありえないことだそうだが、魔力を生み出す器官が脊髄に構成されているらしく、小吾は脊髄を損傷していたためにその器官が構成されなかったため
魔力を持ちえない身体のまま召喚されてしまった。というのが仮説となっている。
だとしたらなおのこと、何故小吾は俺達と同じ病室になったことが異常に思える。何者かの作為だとして、それが意図的なものなのか、それともイレギュラーなのか……
まあ考えても答えが出ないことではある。
それよりも小吾のことだ。
先に述べたように小吾に関しては異世界の言語も理解できず、魔力もない。特別な才能もなく、下半身が動かないから満足に動くことすらできない状態だった。
実際召喚された時は車椅子なんて物もなかったから俺が肩を貸すことになってたしな。
だからあちらの人間にも小吾の存在はないようなものと認識されていたし、ある意味で言えば俺達にとっての人質のような利用価値しかなかったのかもしれない。
まあ当時は俺達全員が誰も信じることはできないような状況だったが。
だが小吾はすべてを乗り越えた。
言語が理解できないのであれば学習し、自力で言葉を覚えて最低限の会話ができるようになり。
魔力も才能もないのであれば努力によってしがみつき。
下半身が動かないのであれば動かせるように一縷の望みにかけて何度も身体を壊しては治し。
文字通り障害のすべてを乗り越えた。
それは異常な事だと思う。当然身体能力などは俺や光とは大きな差があったし、同じことが出来るようになったわけではない。
だが小吾は与えられたものではなく、自ら培ったすべてを用いて、ついに俺達がこの世界に帰還するためのきっかけとなってくれた。
それはとても偉大な事だと思う。おそらく小吾がいなければこちらに帰ってくることは出来なかっただろう。
ただその分、小吾の失ったものはあまりにも大きく、壊れていると表現しても良いだろう。
俺達のために人を殺すことを厭わないほど心を壊し。
能力差を埋めるために身体を壊し。
もしかしたら元の小吾は残っていないのではないかと思うくらいに。
だからこそ俺達は小吾に頭が上がらないし尊敬している。
だからといって申し訳なさから友人となったわけではない。あくまで小吾という人間に惹かれ、俺自身が友人関係を望んでいるのだから。
これは俺だけではなく、光や亜咲に関しても同様だろう。
だから小吾が相談したいと言ってくれた時は驚くとともに喜ぶことができた。ようやく頼られることができたのかと。
あいつには申し訳ないが、どんな相談内容が飛び出してくるのか楽しみにさせてもらおう。
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