第10話

【前書き】

うーん、やっぱり人数増えた時の会話回ってコントロール難しいっすね。

いじりはしましたけどちょっと納得いってないっす。またどっかで改稿します。


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「で、お前はなんで早速女の子を泣かせてるんだ?」

「言い方」


 いや、ヒナが泣いてるのは百パーセント俺のせいではあるが、人聞きの悪い言い方は止めていただきたい。


「お兄ちゃん、この人は?」

「クラスメイト」

「そういえばなし崩しで一緒に居たけどちゃんと紹介してなかったね。俺は天翔大輝、天翔でも大輝でも好きな方で呼んでくれていいよ」

「ええと、お兄ちゃんのクラスメイトということは天翔先輩ですね。七海日向です」

「七海さんよろしく…… そういえばうちのクラスにも七海っていなかったか?」


 やっぱり気付くよね。それなりに珍しい苗字だし。


「そうなんですか?」

「大輝くんは小吾のクラスメイトなのよね? だったら夏希の事じゃないかしら?」

「夏希お姉ちゃんと同じクラスなんですか?」

「ということは七海さんの妹? ん? あれ?」


 良い感じに大輝が混乱してきた模様。情報の整理って大切だよね!!


「はい、七海夏希は私の姉です」

「さっき小吾の事をお兄ちゃんって呼んでた気がするんだが……」

「ヒナは俺の妹だぞ」

「ちょっと待て、よく分からなくなってきた」


 こちらに右手を向け、左手でこめかみを押さえる大輝。まあ全部言葉通り受け取ってしまうとこうなってしまうのも無理はないだろう。


「私も小兄の妹だよ!!」

「お前はすっこんでろ!!」


 更に光が会話に混ざってきて混乱に拍車をかけようとする。話が進まないから座っててください。


「ええと、つまり七海さんは……ややこしいな。日向さんって呼んでも大丈夫かな?」

「わ、私は別になんと呼んで貰ってもかまいません……」

「じゃあ年下だし、日向ちゃんって呼ばせてもらうよ……で、日向ちゃんは光や亜咲と同じで小吾の妹設定なのか?」


 設定言うな設定て。


「いえ、私はお兄ちゃんの実の妹です」

「そうだぞ。実の妹だぞ」

「審判、タイムを」


 大輝が頭を抱えてしまった。ちょっとふざけ過ぎたか。

 光は"設定"と呼ばれた事にご立腹なのか頬を膨らませているし、要母さんと亜咲はこっち見ながらニヤニヤしていた。そろそろ収集を付けたいので要母さんに目線でヘルプを送る。


「小吾、お友達をいじめて面白がるのはその辺にしておきなさい」

「うっす」

「ちなみにその、貴女は?」

「私? 私は七海要です。夏希と日向と、あとついでに小吾の母親よ。いつも小吾と仲良くしてくれてありがとう」


 おお……その辺にしろと言ったクセに更に話をややこしくしてくれた。この言い方は絶対わざとだよね?


「すまん小吾。マジでよく分からなくなってきたからちゃんと説明してくれ」

「はいよ。まあ簡単に話すとだな」


 俺とヒナは紛れもなく実の兄妹であり、幼い頃に両親を失ってからは母同士親交の深かった七海家にお世話になっていた事。

 元々はヒナも地原姓だったが、俺がいなくなってから七海家の養子となり、苗字が変わった事を伝えた。


「なるほど。って事はアレか。お前と七海さん……お姉さんの方だが。の二人は幼馴染だったって事か?」

「そういう事になるな。まあ今日お前を呼んだのはその辺りの相談もあったんだが……」


 予想外の来客によって話がこんがらがってしまった。

 もちろんヒナと再会出来た事はとても嬉しいし、良い意味での予想外ではあったが。


「光と亜咲は知ってたのか?」

「私は知らなかったよ? あ、でも確かに日向ちゃんと小兄はどこか似てるなーって思ってたけど!!」

「そういや最初にそんな事言ってたな」


 当事者としてはあんまり似てる気はしないんだけどね。


「小兄もなんでその時に兄妹だって教えてくれなかったの? 日向ちゃんの事だって分かってたんでしょ?」

「教えなかったのはアレだ。いったん俺の事は抜きにして仲良くなって欲しかったからだな」

「うーん、別に日向ちゃんが小兄の妹だからって私は気にしないけどなー」

「亜咲は知ってたのか?」

「もちろんです。小兄様の事で知らない事などありません」


 なにそれこわい。


「なるほど。ちなみに小吾の好きな色は?」

「濃紺色です」


 え? なんでそんな事知ってるの? 好きな色の話なんてしたことなかったよね?


「と、ところで!!」


 話がまた乱雑になってしまったことを感じてか、ヒナが割って入ってくる。


「どうした? ヒナ」

「うん、あの、お兄ちゃんと天翔先輩がクラスメイトでお友達だって事は分かるんだけど……光ちゃんと亜咲ちゃんとはどういう関係なの? 学年も違うし、二人とも転校してきたばかりなんだよ?」


 確かにその辺りの説明がすっぽり抜けていた。ついいつものノリでやってしまったが、ヒナにはまだ何も話してなかったんだった。


「すまんヒナ。説明するのを忘れていたが、そこの二人は……」

「二人は……?」


 ゴクリ、と喉を鳴らして俺に注目するヒナ。光と亜咲まで俺が何と紹介するのだろうかと注視しているように見えた。よし、ここはひとつ。


「--初対面です。はじめま」

「本当小兄って小兄だよね」

「分かってはいましたが……小兄様は小兄様だと言うことですね」


 場を和ませようとしてみた一言は言い切らせても貰えず、二人からジト目を向けられてしまい。


「……お兄ちゃん?」

「ひぃっ!」


 ヒナはと言えばこちらにとても怖い笑顔を向けていた。こめかみがピクピクしてますよ落ち着いて。


「……ごめんなさい。ちゃんと話します」


 気を取り直し、俺はヒナにこれまでの事を話した。


 あの日異世界に召喚された事。足が治った事、この世界に帰って来て亜咲のおかげで九条学園に通っている事。

 だいぶ端折ったので足を治した具体的な方法や、こちらに戻ってきた方法などの詳細は伏せたため、説明自体はあっさりしたものだったと思う。余計な心配増やしても仕方ないしね。

 俺が話をする間、ヒナは驚いたり、悲しんだりと目まぐるしく表情を変化させていたが、最後にはホッとした表情で俺の顔を見ていた。


「流石にその、異世界とかってアニメの見過ぎじゃないかって思うけど……」

「まあ、正直信じろっていう方が無茶だとは思ってる」


 要母さんのようにすんなりと受け入れてくれる方が稀だろう。あの時は状況も状況だったとは言え、普通に考えれば頭のおかしい奴扱いをされて終わりだ。


「でも足が治ったのは本当みたいだし、光ちゃんも亜咲ちゃんも、その……だ、大輝先輩も嘘を吐くとは思えないし……」


 ん? 今なんかお兄ちゃんセンサーが違和感を感じとったんだが……気のせいか?


「そこまでして私を騙そうとする意味なんてないだろうし、私は信じるよ」

「そうか。ヒナ、ありがとうな」


 まだ完全には信じられてはいないのかもしれないが、それでもヒナは信じると言ってくれた。なら今はそれで充分だろう。


「あっ」

「どうしたヒナ?」

「えっと、そういえば、さっきのお話だと大輝先輩達って魔法使えたんですよね? もしかして今でも使えるんですか?」


 ヒナが目を輝かせながら大輝の方に向き直る。あれえ? なんかお兄ちゃん急に大輝の事が殴りたくなってきたぞう?


「あー……期待させて申し訳ないんだけど、どうやらこっちに戻って来た時に上手く使えなくなったみたいなんだ」


 ヒナは続けて光と亜咲にも目を向けたが、二人とも首を横に振った。


「そうなんですか……」


 期待していたのか、少し残念そうにするヒナ。


「あ、でもでも!!」


 そんなヒナを見かねてか、急に光が声を張り上げる。


「私達って向こうですっごい鍛えられちゃったから、足とかものすごく速いよ!!」

「光さんと大兄様は元々では?」


 俺も亜咲に同意。お前ら元々バグキャラだったじゃん。


「今なら小兄だってそんなに変わらないじゃん!!」

「変わるわ。お前らと一緒にすんな!!」


 少なくとも光や大輝みたいに石を握り潰したり、二階くらいの高さまでジャンプしたりなんて出来ない。そこまで人間を止めてたまるかってんだ。


「そ、そんなに凄いんだ二人とも……」


 半信半疑の我が妹。大丈夫それが普通の反応だから。


「みんな、そろそろお話はいったん中断して、お昼にしましょうか」


 ちょうどいいタイミングで要母さんが声をかけてくれる。

 先ほどから話に入ってこないと思っていたら昼食を作ってくれていたらしい。


「言ってくれれば俺が準備したのに」

「良いのよ。こっちから押しかけて来たんだし、これくらい」

「俺達も良いんですか? せっかく家族が揃ったんですし……」

「もちろん、小吾がお世話になってるんだし気にしないで、ね?」

「わーい!! ごはんごはん!!」


 光はもうちょっと大輝とか亜咲を見習ってほしい。具体的には遠慮とかそういうものを覚えてほしい。

 よく言えば天真爛漫だし、悪く言えば遠慮がない。好ましくはあるが少々無防備過ぎて時々心配になってしまう。

 まあ大体の事は物理的に解決出来るだろうから、それ自体が杞憂なのかもしれないが。


「小兄、今なんか失礼なこと考えてなかった?」

「いえ全然」


 なんでこう女の子ってこういう時、勘が鋭いんですかね?

その場から逃げるようにして、俺は要母さんの手伝いをしに台所へと向かうのだった。

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