24話

――キーンコーンカーン……


 騒々しかった昼休み以降は特に何もなく、午後の授業を終え、放課後を告げるチャイムが学園に鳴り響く。

 いつも通り稲垣先生が帰りのホームルームで挨拶を終え、教室から出て行った事を確認した俺は、机の横に掛けてある鞄を手に取り、廊下に出――


「あら小兄様。どちらへ?」


 しかしまわりこまれてしまった!!


「くっ……」

「はぁ……やっぱりお前逃げようとしてたな」


 亜咲を前にたじろいでいる間に、後ろから大輝に肩を掴まれてしまう。

 別に逃げようとしたわけじゃないぞ!! 用事を思い出したような気がしたから帰ろうとしただけだ!! ええいその手を放せこのイケメンゴリラめ!! 動けねえ!!


「いやいや、今日は要母さんにおつかいを頼まれて――」

「あ、しょうちゃん。お母さんには今日ちょっと遅くなるかもって連絡しといたからね」

「ナツゥゥゥゥ!!」


 加えて幼馴染の裏切りが発覚。

 だって俺呼ばれてないし行かなくて良くない? というか行かない方が良くない?


「みんなお待たせー!! あれ? 小兄どうしたの?」


 俺が大輝を振りほどこうと必死で抵抗していると光がやってきた。あ、これ詰んだわ。にしても光が遅れてくるってのも珍しいな?


「そういえば光と亜咲って同じクラスじゃなかったか? 光が遅れてくるって珍しいな」

「あー、えっとね。なんか同じクラスの男の人に声かけられちゃって」


 どうやら早くも光にアタックを始めた男子生徒がいるらしい。これが青春ってやつか……


「光ちゃんもとうとう始まっちゃったかぁ……」


 などと周りの女子生徒を敵に回しかねない発言をするナツ。彼女としては自分の経験上、光の事を心配しての事なんだろうが……


「とりあえず小兄待たせてるから無理って言って来ちゃった!!」

「おい?」


 しれっと俺を巻き込むのやめよ? でも小兄って呼び方だけじゃ学年も違うから特定はされな--


「あ、小兄って誰? って聞かれたから二年一組の地原小吾先輩だよって伝えといたよ!!」

「光さん?」


 なんでこうどいつもこいつも俺を陥れようとするの? 実はコイツら俺の事嫌いなんじゃないだろうか。


「はぁ……分かったよ。とっとと済ませて帰ろうぜ……」


 足掻けば足掻くほど酷くなりそうな気がしたので、観念してついていくことにした。

 あれ? そういえばヒナが居ないけどアイツも遅れてるのか?


「あ、日向さんなら部活があるからと」

「ヒナアアァァァ!!」


 まさかの裏切り第二弾である。確かにヒナは呼ばれてるかどうか微妙なところだったけども!! それを言ったら一言も声をかけられてない俺なんて微妙どころか誰キミ案件だよ!!


「ははは、小吾は愛されてるな」


 大輝までこんな事を言い出す始末。なにわろてんねん。替わったろか? と言いかけたが、コイツと替わったらそれはそれで面倒そうだから止めておく。一度は女子にキャーキャー言われてみたいのは男心としてはあるが、ずっととなるとそれはそれで辛そうだし。


「それでは揃ったようなので行きましょうか」


 亜咲から声がかかり、ようやく行動を開始することに。あれ? そういえば生徒会室ってどこにあるんだっけ?

 なんやかんや編入したばかりの俺は未だに学園の構図を理解しきれていない事に気付いたのだった。前も更衣室わかんなかったし……


「そういえば生徒会室ってどこにあるんだ?」

「小兄様は本当に学園に興味がないんですね……生徒会室は三階ですよ」


 三階なのか。生徒会には三年生が多いからそうなるのかな? よく知らないけど。

割とどうでもいい事を考えながら、俺達は亜咲を先頭に五人連れだってぞろぞろと生徒会室を目指して歩き出した。


 --それにしてもこの面子は目立つ。


 身長の高い大輝なんてほっといても目立つし、その上イケメンさんと来ている。

 その大輝の周りに、学年でも人気のナツに加え、容姿に秀でた光や亜咲が連れ添っているとなれば、廊下ですれ違う生徒達が視線を向けてしまう気持ちも分かるというものだ。


 俺? 俺は大輝の後ろで目立たないようにしている。大輝は身長高いから、後ろにいると正面からは見えないんだもの。コバンザメってやつっすかね。


 ちょうど亜咲を先頭にして、その後ろの中心に大輝、左右にナツと光が並んで会話している。んで最後尾に俺、といった十字型の隊列となっている。

 別に意図したわけじゃないけど、横一列に並んだら他の人の邪魔になるかと思って後ろに回ってるだけ。本当だよ? 大輝と並んで歩いてたら負けた気持ちになるからとかじゃないよ?


 誰に対して言い訳しているのかと思いながら階段を上り、三年生達がまだ数多くいる廊下をずんずんと遠慮なく歩いて行く俺達。

 コイツら上級生のいるところなのに、よく遠慮もなく歩いて行けるもんだな。普通下級生が上級生のいるところに来たら少し気まずいというか緊張しそうなもんだけど。

 そんな心配をよそに、逆に上級生側が気圧されているのか、あるいはモーゼか何かかってくらいに勝手に道が開いていくから遠慮のしようもないようだ。

 恐るべし美男美女軍団。ついてきているだけの自分もその一員じゃないかと錯覚してくるな。取り巻きってこういうのが気持ちよくて取り巻きになるんだろうか。


 にしたってこんな光景を見せられると、なおさらなんでコイツら俺に懐いてるんだろう? と疑問に思わなくもないが、多分それを言うと怒られるから言わない。自分のやってきた事の結果だから心当たりがないわけでもないし。


 光に関してはある日急にって感じだったからアイツだけはちょっとつかみきれないところもあるけどな。大輝と似たようなもんだろうけど。


 さてさて、ちょうど最後尾で暇だし、今回生徒会長からわざわざお声がかかった理由について考えてみよう。

 いくつか考えられはするだろうけど、あの生徒会長はまずナツに声をかけに来たわけだ。大輝、光、亜咲の三人ではなく、我が幼馴染が目的であったと考えるのが正しいだろう。

 でもって明らかに初対面だったから、元々知り合いで改めて声をかけたというわけではない。となるとなんらかのきっかけがあって今回の行動になったって事だろう。


 ナツの成績が良い事は聞いていたが、それでも学年で一番というわけではない。ただ容姿も相まって人気は高いとなれば一番である必要はないか。

 ただ時期が中途半端すぎる。普通4月とか10月とか、ある程度の節目なら理解できるけど。となるとやはりナツを誘う必要のある何かがあったってところかな。

 最近生徒会関連であったこと……あー、そういや前も大輝とナツって誰かに生徒会に誘われてた気がすんなぁ……多分アレのせいか。


 ある程度予想はついたが、それよりも後ろから突き刺さる視線が結構痛いので、早く生徒会室に着いてくれ。と願う俺だった。


【あとがき】

改めて読むとこのお話内容うっすいので今日次の話も上げちゃいます。

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