幕間--天翔大輝--
--side大輝--
「はぁ、ったく小吾の奴、人をこき使いやがって……」
学園で相談したい事があるからと小吾の家に招待されたが、訪ねる途中で光達に出会い、同行する事となった。
それだけならまだ良いが、その場には小吾の幼馴染の母と、実の妹である日向ちゃんが居たのは流石に俺にとっても想定外だった。
何より同じクラスメイトである七海さんが帰宅しないという事態により、非常に慌ただしい一日となってしまった。
結局あの時感じた天野への悪感情は間違いではなかったという事だが。
「それにしても小吾め……肝心な事黙ってやがったな」
何よりあの小吾の赤く光る眼。アレは間違いなく良くないモノだ。
恐らく本人から話があるだろうとこちらから尋ねる事はしなかったが、アレはあの時のモノだろう。そう考えると、自分の力の至らなさに腹が立つ。
アレが小吾にどういう影響を及ぼしているかは分からないが、何もないという事はないだろう。確信はないが、予感がした。
恐らく光辺りは内心で期待しているかもしれない。
これで小吾がこちら側に足を踏み入れたのだと。俺としては小吾はこれまで通り、平凡であって欲しいと願う。
亜咲に関して言えば元々素質があったが、あちらの世界での経験を経て殻を破ってしまったのだろう。
元々の資質と考えれば遅かれ早かれ、といったところだろうが、小吾に関してはそれが異なる。
平凡な彼が平凡なまま生きていく。それを羨んだこともある。
控えめに言って、生まれた瞬間から非凡であった自分や光には、もうそちらに戻る事は出来ないのだから。
平凡であろうとしても、まるで世界がそれを許さないかのように事態が起こる。
能力だけならともかく、お互い恵まれた容姿がそれに拍車をかけ、俺達が陰に隠れる事を許さない。
恐らく家に引きこもりでもした日には火事でも起きるのだろう。
旅にでも出れば急に竜巻でも巻き起こるのだろう。
−−俺の大切な何かを巻き込んで。
異世界に召喚された時はチャンスだと思った。
家族には悪いが、大切なモノを巻き込む事もなく、俺一人で消える事が出来ると。
だがあの世界でも大切なモノが出来た。出来てしまった。
光に関しては恐らく自分と俺が似た存在であると親近感を抱いているだろう。
背中を預けるのであればアイツほど頼りになる存在はない。
逆に言えば同じモノであるからこそ、俺に対して面白みがないと感じている事は知っている。
亜咲は俺の事を頼りにしてくれているだろうが、そこまでだ。
お互い助け合っていた部分もあり、信頼関係や友情はあれどそれ以上はない。せいぜい上手く利用してくれることを願う。
文字通り同じ釜の飯を食った仲とでも表現すれば良いだろうか。
年代も近く、同じ境遇に晒された俺達三人はすぐにお互いを信頼する事が出来た。
だが小吾は違う。
足の事に関しては哀れだと思ったものの、背中を預ける必要がないのであれば関わる必要はないだろうと思っていた。可能であれば守ってやろう。という程度だっただろうか。
だがアイツは俺達に対してこれでもかと言わんばかりに関わってきた。それがしばらく続いた頃、俺は気が付けばほんの少しだけアイツに興味を持つようになっていた。
今まで俺に接してきた奴らは、大なり小なり俺の容姿、能力を見て憧憬の視線を向けたり、自分のモノにしようとしたりと、下心が透けて見えたものだった。
だがアイツにはその下心が見えず、それどころか前線で戦う俺達の心配までするようになった。
自分はそれ以下の扱いを受け、嘲笑され、虐げられているにも関わらず、だ。
トドメとなったのはあの言葉だろう。
『分かりあおうとしない奴が分かったような口聞いてんじゃねえ!! お前バカだろ!! バーカバーカ!!』
……思い出したら腹が立ってきた。今度一発殴ってやろう。
流石に面と向かってあそこまでバカにされたのは初めてだった。
−−待て待て、もっとこう良い場面が……
『天翔はあんま肉食わないんだなー。草食系か』
『ところで天翔ってB型?』
『うわー、マジで石握り潰すとか引くわー』
『天翔って足早いじゃん? ちょっとお使い行ってきてくんない?』
……ひとっつもねえ!! なんだアイツ俺の事バカにしてんのか!!
と、ひとしきり腹を立てたところで思わず笑いが零れた。
そうなんだよな。アイツは俺の事バカにするんだよな。
陰口なんかはいくらでも言われた事はあった。同時に化け物だとか超人だとか、まるで自分達と違う存在のように扱われる事の方が多い人生だった。
だが面と向かってバカにされた事はない。
恐らく光も同じようなところでアイツに惹かれたのだろう。
良くも悪くも特別扱いされない事が嬉しかったんだろう。それが手に取るように分かってしまう。
何故なら俺も、ようやく対等に接する事が出来る相手が見つかったのだから。
ああ、いつからだったか、アイツが俺を大輝と呼び、俺がアイツを小吾と名前で呼び合うようになったのは。
もうずっと昔からそうだったように感じていたが、先ほど思い出した言葉は全て"天翔"と呼ばれていた。
そう考えると名前で呼び始めたのはほんのつい最近だったのかもしれない。
小吾が言っていた幼馴染というのは七海さんの事なのだろう。天野達を縛り上げてる時に横目で二人を見たが、思わず砂糖を吐くかと思ったくらいだ。本人達は自覚がないかもしれないが。
あの場面を見て、光や亜咲はどう動きだすのだろうか。
「ああ、アイツがこれからどうなるか楽しみだ」
明日から賑やかになるであろう日常を予感し、くつくつと笑いながら布団に横たわる。いつの間にか俺達化け物を押し退け、物語の中心となってしまった哀れな友人を思いながら。
−−まったく、退屈させてくれない奴だよ。俺の親友は。
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