30話
「お見合い……亜咲が?」
「ええ、例の天野家との破談がきっかけでね」
美咲さんが苦々しい表情でそう告げる。なんだろう、先日のやり取りを見ていると姉妹仲はあまり良好には見えなかったが、この表情を見ていると美咲さんが亜咲の事を心配しているようにしか見えない。これも美咲さんが身内に甘いという姿を知ってしまった事によって見え方が変わったんだろうな。
「だから勝手に話を進めるなと言ったのに……あの母親が黙っているわけないのだから」
「母親……というと」
「ええ、しょうくんからすれば伯母にあたるわね。元々天野家との縁談もあの人が決めた事ではあったのだけれど」
美咲さん達の父親。つまり俺の伯父さんは亜咲と天野との縁談には反対していたらしい。
だが伯母さんが母さんの事を引き合いに出して無理矢理納得させたんだとか。
「それに天野家との縁談自体も公にはしていなかったのだから、もう少しやりようもあったでしょうに。何故亜咲はあんな事を……」
もしかしたら美咲さんはこの前の事を詳しく知らないのかもしれない。
いや、これは亜咲がちゃんと伝えなかったという事だろうか。
「多分、俺達の為だと思います」
「……どういう事かしら?」
俺はこれまでの事を美咲さんに伝えた。
俺の幼馴染であるナツが天野に付き纏われていた事。
ナツに振られた天野が彼女を襲おうとした事。
なんとか大事に至る前に俺達が間に合い、その後始末に亜咲が一役買ってくれた事。
「--というわけなんです」
「なるほど、事情は分かったわ。亜咲もなかなかえげつない手を使ったわね……」
それは俺もそう思う。とは言え、それくらいやって貰わなければ俺の留飲が下がる事もなかったかもしれないが。
「それにしても自分達より大人数の男達を相手にしたって、しょうくんってそんなに強いのかしら?」
「色々事情もあるんですけど、俺がっていうよりも大輝と光が飛びぬけて、ですかね。ほら、美咲さんが生徒会に勧誘してたあの二人ですよ」
「あの二人ね……確かに聞こえて来る話では、編入時の成績もそうだったけど、特に運動神経が飛び抜けてるとは聞いてはいたわ」
まああの二人の何が凄いって、それでも手を抜いた結果だろうってのが凄いというよりもはや怖い。
「そうそう、生徒会の話だけれど、良ければしょうくんも――」
「あ、それはお断りします」
「もう、つれないわね」
少し頬を膨らませて不満げにする美咲さん。いや、貴女さっきまで俺の事完全に部外者扱いだったでしょう? 手のひらドリルってレベルじゃないですよ?
「先日の様子を見ている限りだとしょうくんが生徒会に入れば、他の三人も付いて来ると思ったのだけれど」
「そういう事であれば可能性はあるかもしれませんけど、美咲さん俺の事散々部外者だって言ってたじゃないですか。いくらなんでも手のひら返すの早すぎないですか?」
「何事も機に敏であれ、よ」
機……あったか? いやいや待て。話が完全に横道に逸れてるぞ。
「美咲さん、それよりも亜咲の事を……」
「そうだったわね。私とした事がつい。しょうくんに再会出来た事で舞い上がっちゃったのかもしれないわ」
などと茶目っ気のある発言をしてくれるが、その話に付き合うにしても今じゃない。キリがないと思ったので話を進めて貰う事にする。
「それは嬉しいですけど、今は亜咲の話が優先です」
「あの子も愛されてるわね……まあ良いわ。それで亜咲の状況だけど--」
美咲さんが話すには、亜咲は今、今度のお見合いを成功させるため、相手の家の事を母親に叩き込まれているらしい。
美咲さんの話を信じるのであれば、伯父さんは反対しているのでは? とも思ったがどうやら折悪く祖父と一緒に出張中で不在との事。
恐らく二人が不在の間に話をまとめてしまいたいと目論んでいるのだろう。というのが美咲さんの見立てだそうだ。
「美咲さんが止める事は出来ないんですか?」
「もちろん反対したわよ? 父さんが絶対許さないって。でもいずれ家を継ぐとは言っても、今の私には家の事に口を出す権利はないって一蹴されてしまったわ」
それを聞いて俺が一番に思ったのは、名家ってめんどくさいな。という感想だった。
家族の事に口を出すのに権利もクソもないと思うんだが……
「ちなみに相手は誰なんですか?」
それを聞いてどうするのだろうと、言ってから気付いた。
確かに亜咲は可愛い後輩だし、同時に大切な仲間でもある。
けれど、言ってしまえばそこまでの関係でしかない。果たして家の事情に介入するほどの大義名分があるのだろうか。
「教えても良いけれど、それを聞いてどうするつもりかしら?」
「それは……亜咲が望んでいないのなら--」
--望んでいないのなら? 俺はどうするつもりだろうか。
美咲さんからお見合いの会場を聞いて乗り込む? それとも今から亜咲の家に乗り込んで亜咲を家から連れ出すか?
で、その後は?
仮にこのお見合いを破談にさせたとして、俺は亜咲の将来に責任を持つ事が出来るのか?
「そうね。亜咲自身はこの話に乗り気というわけではないでしょう。あの子の事だから、むしろどうにかして破談に持って行くようにするつもりだと思うわ。けど--」
美咲さんの言葉が思考に耽ってしまった俺の意識を現実に戻す。
「しょうくん。貴方は亜咲をどうしたいの?」
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