33話
【前書き】
子供のコロナ貰いました。文章おかしかったらごめんなさい。
--side亜咲--
「どうぞそちらにお座りください」
「ええ、ありがとう」
母様が俊也さんに促され、入り口側から見て奥側の上座へと着席した。
家としての格を考えれば当然なのでしょうが、私はあまりこの席次というものが好きではありません。もちろんどこにでも上下関係というものはあると思いますが、この場は仕事でもないのに何故? と考えてしまいます。きっと習慣付いてしまっているのでしょうね。
「さて、この度は急な話を受けて頂いてありがとうございます」
俊也さんが私達に向かって軽く頭を下げ、続いて正義さんも頭を下げる。確かに急な事でしたが、よく予定も含めて調整出来たものです。きっとそれだけこの話を重要視しているのでしょうね。
「頭を上げてください。この話が纏まれば家族になるも同然なのですから」
当事者同士ほとんど会話すらしていないというのに、母様がそんな事を言う。それは当人同士が決める事では? と思ったが、今はまだ思うに留めておきましょう。
「そうですな。それでは改めまして、私は現四條家当主の四條俊也と申します」
「息子の四條正義です。僭越ながら次期当主として日々勉強させて頂いています」
「今代九条家当主の妻。九条京子です」
「九条家次女。九条亜咲です」
改めてそれぞれが自己紹介をする。いちいち肩書きを付けて名乗らなくてはならないのは面倒ですね。加えてあちらは次期当主の身ではありますが、こちらの次期当主は美咲姉さんと既に決まっていますので、私には特に肩書きのようなものはありません。
「月並みな質問で恐縮ですが、亜咲さんは何かご趣味などは?」
何か話題を作ろうとしたのか、俊也さんから私に向けて質問が飛んできました。趣味ですか……
「そうですね。特に何か特定の稽古などはしていませんが、学友との会話が趣味と言えば趣味でしょうか」
小兄様や大兄様の困ったような表情や、光さんや日向さん、夏姉様の顔が脳裏に浮かぶ。
よくよく考えればもう三日以上もあの顔が見れないのだから、物足りなくもあり、少し寂しい気持ちにもなるというもの。やはり早く終わらせて帰りたくなってきました。
「亜咲さんは社交的なんですね。普段はどのような会話を?」
「私がわがままを言って困らせる事が多いかもしれませんね。後は女性陣と年相応の会話を、といったところでしょうか」
特に光さんとは今日の小兄様は物足りないというような駄目出しや、大兄様が今日も空気のようだったと感想を出し合う事が多い。
日向さんや夏姉様とも小兄様の話をする事が多いですが、やはり光さんとの話題が一番合うのではないでしょうか。
「そうですか、良い友人をお持ちなのですね」
「ええ、私にはもったいないくらいの人達です」
実際のところ、こんな皮肉ばかりの女は扱い難いだろうな。と思う事は多々ありますが、なかなかそれを堪える事は難しいです。
ただでさえ私のように、望まずとも家柄もあり、打算に塗れた性格の人間が、正直に胸の内を告げられる相手などそうはいません。
家柄、容姿、性格。一つだけでも相手に気後れさせてしまう要因となってしまうにも係らず、幸か不幸かすべて普通とは言い難いものであると自覚はあります。
事実、今もこうして家柄というものを意識せざるを得ない場面が繰り広げられているわけですしね。
「亜咲さんにそこまで言わせる人達なら、僕も一度会ってみたいものです」
「興味がありますか? でもそうですね。もしかしたらすぐに会えるかもしれません」
「はは、その時は亜咲さんに恥をかかせないように気を付けますよ」
私の返事をどう受け取ったのかは今の返事で大体察する事が出来ました。ただ、どうしてこうも前向きなのだろうかとも疑問が湧く。
恐らくは母様が何かしら根回しでもしているのでしょうね。
「おっと、女性にばかり質問するのはよくありませんね。少し自分の事を。僕は亜咲さんのように友人との会話はどうしても必要最低限となってしまうのですが、最近投資に興味を持ち始めまして……やってみると面白いんですよね。例えば株式なんかは家の影響もあって動向を見るのがクセになってしまいまして……」
特に聞いたわけでもないのに、正義さんは自分の趣味を語り始める。恐らく私から話しかける事はないと判断してのことでしょう。その通りではありますが。
「あ……すいません。亜咲さんはまだ高校生ですし、投資の話なんてつまらないですよね。すいません一人で盛り上がっちゃって」
「いえ、私もまったく興味がないわけではありませんので」
「息子はこう見えてなかなか勤勉でしてな。もし亜咲さんが株式の運用にお困りの際は息子にお任せ頂くのも良いかもしれません」
何故か俊也さんまで話に加わってくるのを見て、私の中にあった疑念が少しずつ氷解していく。
恐らく話のきっかけはなんでも良く、彼ら二人は--いや、三人はこの話に持って行きたかったのではないでしょうか。
確かに私はお爺様よりいくつかの会社の株式を贈与されています。これは九条家の人間として、経営や投資について学べという意図がひとつ。そして将来家を継がない私が困らないため、いつでも手放せる資産としての二つの側面がある。
どこで嗅ぎ付けたのかはわかりませんが、本題はその私が保有している株式についてでしょう。確かに贈与された株式の中に、四條グループの株式もありました。
当然この話があるだろう可能性も考慮して、既に手は打ってあります。
つまりはこういう事ですね。
どこから情報を入手したのか……は、恐らくは母様でしょう。
彼らはこのお見合いを通じて、九条家との縁を持つと同時に、私の保有している四條グループの株式も手にしたい。
というのも四條グループの業績が一時期低迷し、保有している自社株式を少なくない割合で放出した事は調査済みです。ようやく持ち直した今だからこそ可能な限り手元に戻したい、といったところでしょうか。
「そうですね。考えておきます」
「将来夫婦ともなれば資産も共有すべきですからな。亜咲さんが生活に困る事がないように正義にはしっかり投資について学ばせておくとしましょう」
夫婦とはまた具体的な話を持ってきたものです。あえてこういった表現を用いる事でいやでも意識せざるを得ないようにする手法なのでしょうが……
ここであの話をすればどういう反応が返ってくるか興味をもった私は、ある爆弾を投下する事にしました。
「そういえば私も先日、株式の売買をしてみたんです」
「おおそうですか。して、どうでしたかな?」
「残念ながら収支としてはマイナスとなりましたが……今後どうなるか分かりませんしね」
「それはそれは……まあ投資というのは水物ですからな。いやまだお若いのに今後の事も考えておられるとは、容姿端麗な上に聡明でいらっしゃるようで、九条さんが羨ましい」
よくもまあ次から次へと美辞麗句が飛び出してくるものだと思いましたが、それを意に介さず話を続けます。
「そうですね、なかなか難しいものです。もしかしたら上手くプラスになるかも、と思って四條グループの株式を全て売却し、天野家傘下の企業株式を購入してみたのですが……」
「なるほど、四條グループの株式を……は? い、今なんと?」
この流れは予想外だったのか、俊也さんが狼狽したように私に問いかけてきます。
「ええ、ですから四條グループの株式を全て売却して--」
「ど、どういう事ですかな九条さん?」
「いえ、私は存じ上げ……亜咲、流石に冗談よね? お義父様の許しも無く、勝手に売買なんて……」
母様までもが慌てて私の言葉を訂正させようとしてくる。正義さんはどういう反応をしているか伺えば、先ほどまでこちらに向けていた微笑みは消え、呆然とした表情になっていました。まあ無理もないでしょう。
「当然ですが、お爺様の了承なら既に得ています。私に贈与した株式については私が自由にすれば良いと言ってくださいました」
この話には裏があります。
先日の天野家が起こした不祥事に対し、公にしない代わりに、天野が保有している企業をいくつか買収する事が内々で決定しました。
法的にも倫理的にも、黒か白かで言えば限りなく黒に近い灰色ではありますが、公にされている九条家と天野家との繋がりは血縁、取引共に断絶している状況ですし、先日の事件も公表される予定はありません。
買収に関しても、実際にはまだ数年先の話ですので、現時点で即利益が伴うものでもありませんし、将来的に利益が出る事は確約されたわけでもありません。まあ黒とは結論付けるのは尚早でしょうね。
--そして私の発言によって起こったこの状況でほぼ確信出来ました。
結局のところ、私の容姿がどうだと言ったところで、相手が求めていたのは家同士の繋がりと、自分達の利益のみ。株式の処遇一つで荒れるような話でしかなかったというわけです。未成年だと思って甘く見たのが間違いですよ。
「で、お互いの趣味については話し終わったと思いますが、他に何かご質問はありますか?」
このまま話を進めようとするのなら大したものだと思いますが、目の前で焦りの表情を隠そうともしない三人を見る限り、それどころではないのでしょう。
私はおもむろにスマートフォンを取り出し、画面に表示された通知を確認する。
--流石姉さん、予定通りですね。
「質問はないようですので、お話はここまででしょうか」
「そ、そうですな。亜咲さんは先にお戻りください。九条さん、この件は後程改めて……正義も、良いな?」
「え、ええそうですわね。ひとまず今日はこの辺で……」
「--あ、そういえば」
と、解散の言葉を引き出した私は、ちょうど頃合いと判断して声を上げた。
まだ何かあるのかと私に三人からの注目が集まる。
——そしてそれは、私の目論見通りに訪れました。
防音のためか、少し重厚に作られた扉をバタン、と音がするような勢いで一人の男性が入ってきます。よっぽど慌ててたのでしょうね。少し息が乱れている事が伺えます。
「亜咲!!」
|ずいぶんと慌てて飛び込んで来たようですが、大方美咲姉さんが何か吹き込んだのでしょう。私はその様子を見てついおかしくなってしまい、思わず頬が緩むのを感じました。
「紹介しますね。先ほど話していた私のわがままを聞いてくれる人で--」
「え? あ、あれ? 亜咲?」
予想していた事態と違っていたためか、勢いよく飛び込んで来たクセに混乱し始めた彼を見て、私は自分が更に笑みを深めた事を自覚しました。
「--私の伴侶となる人です」
私は堂々とそう告げました。
突然の乱入と私の言葉に三人は唖然とし、勢いよく飛び込んできた小兄様はと言えば、私を見て驚いた表情をした後、状況を把握しようと辺りをキョロキョロしています。その挙動がおかしくて、そして愛おしくて。思わず私はいつものように、彼の腕に抱き着いたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます