1章後日談
後日談(大小コンビ)
慌ただしかった学園での一日を終え、俺は文字通り逃げるように帰宅した。
とは言え昨日の話もあるため、関係者を集めて色々と話をしようと思い、今日はうちにみんなを集めて話をするつもりだ。
女性陣は一度帰宅して色々と準備もあるだろうからいったん解散したが、大輝に関しては特に何も予定がないとのことだったので、俺達二人は先に自宅へと向かった。
「まあ上がれよ。テレビのリモコンはそこにあるから、なんならテレビでも見てて待っててくれ」
「あいよーっと」
思い返せば、何故か我が幼馴染様に「彼氏になって!!」と唐突な告白(?)を受け、針の筵のような空気となった時間を乗り越え、それこそ逃げるように帰路についた。
あ、ちなみにナツからの誘いについてはいったん保留しておいた。そりゃそうだろう。あんな公衆の面前でやけくそ気味に「彼氏になって」だなんて言われて、はい分かりました。とはいかない。昔のバラエティ番組じゃないんだから。
ナツの境遇を考えれば"虫除け"としての効果はあるだろう。だが俺の場合は光と亜咲が絶対乱入してくるんだから「なんだこのハーレム野郎○すぞ」と思われても仕方ない。というかもう思われてるまである。
明日からの学園生活を思うとなかなかに辛いものがある。
それとナツが言っていた夕食を一緒に、というのは俺達家族だけではなく、大輝、光、亜咲も交えてとの事だった。
是非昨日のお礼をしたいと要母さんが言っていたそうだ。
俺としてはナツを守る事は当然だと思っているので、今更気を使われる必要はないと思っているが、三人はあくまでも厚意によって協力してくれたわけだし、俺からもちゃんとお礼をしたいとは思っていた。
なので光、亜咲はいったん帰ってから着替えて来るとの事で校門で解散し、俺、ナツ、ヒナ、大輝の四人で帰路に着いた。
大輝は別に着替える必要もないとの事だったので、ナツとヒナを家まで送ってからこうして二人で俺の家へ、というのが現在の状況だ。
その大輝をリビングに放置して俺は自分の部屋に戻り、制服から私服へと着替える。夕食を一緒に、となると外食の可能性もあるが、おそらくその場で話をするのであれば外で話をする可能性は低いと判断したので、Tシャツにカーゴパンツといった服装だ。これなら最悪出かける事になっても特に問題はないだろう。というか外食だったら大輝は制服で行って貰う事になるがまあいいか。大輝だし。
着替えを終えた俺はリビングに戻り、ソファに腰を掛けてテレビに目を向ける。
とは言っても夕方のこの時間だとどのチャンネルもニュースやワイドショーばかりであり、特に目を引かれるような番組はなかったが。
「大輝」
「んあ? なんだ急に?」
「昨日はありがとうな。本当に助かった」
今思えばアレは本当にギリギリのタイミングだったと思う。みんなの助けがなければ、俺は無事ナツを助けられたかどうかすら怪しかったのだから。仮に助ける事は出来たとしても間に合わなかった可能性もある。
「改まって言われると照れるな。まあでもアレくらいなら小吾一人でも問題なかったろ?」
「ただぶちのめすってだけならそうかもしれないけど、ナツを守りながらってなるとちょっと自信はないし、少なくとも余裕はなかったと思う」
光と大輝が上手い事露払いしてくれたから事なきを得たが、俺一人だったら最悪相手の一人か二人くらいは二度と動かない状態にしていた可能性はある。
「ま、今更礼を言われるような間柄でもないだろ。今度困った事があったら助けてもらうさ」
「お前が困るような事態に俺が役に立つとは思えないけどな……」
せいぜい女子生徒達に囲まれているところに乱入して蹴散らすくらいだろうか。それなら俺でも出来る気がする。ただそうなった場合には本格的にクラスでの居場所はなくなりそうだが。
「それはそうと小吾」
「ん?」
少し声のトーンを落として俺に問いかけてくる大輝。どうやら真面目な話のようだ。
「やっぱりお前のその眼は……」
「……ああ、これか」
そう言って左眼へと手を伸ばす。いつ聞かれるのかとは思っていたが、どうやら今の内に聞いておきたいらしい。
「みんなが集まってから話そうとは思ってたんだけどな。今話さないと駄目か?」
「いや、詳しい事は後で構わないんだが。そのなんだ、何か身体に影響とかはないのか?」
大輝は大輝で俺の事を心配してくれているのだろう。もしかしたら俺がこの左眼を手に入れた原因が自分達とでも思っている節まである。
「普段は特に何の問題もない。夜になったら痛む事が多いけど、日によってまちまちだしな。まあ奇跡の代償としては安いもんだろ」
「すまない。俺達がもっと--」
「バカ言うな。それこそ俺なんて最後の最後まで大して役に立てなかったんだぞ? そんな事で謝られたら俺なんて何回謝ったら良いんだよ」
なんだかんだで真面目なんだよなぁコイツも。普段は結構やる気なさげにしてるし、人付き合いは無難にこなすから淡泊な印象を受けるが、きっと根っこのところは暑苦しい奴なんだと思う。
「そうか、なら感謝しておく事にするさ。それにしても--」
「おいおい、あんまり近付くなよ。俺にそんな趣味はないぞ」
大輝が俺の左眼を覗き込むように顔を近付けてくる。
コイツの整った顔でこんなにも近付かれては女子ならたまったもんじゃないだろうな。と思うが、あいにくと俺にはそんな趣味はない。
「今は普通なんだな」
「何もない時はホント普通なんだよ。痛みもないし、赤く光る事もない」
大輝は興味があるのか、まじまじと俺の左眼を見てくる。
「あんま近付くなって、気色悪い」
「まあまあ、どうなってるのか気になるんだよ。おい小吾、逃げるなって――」
思わず後ずさった俺を逃がすまいとして、俺の両肩を掴む大輝。あれ? この構図ってどこかで……
「ちわー!! 小兄来たよー!!」
「お兄ちゃんただい--ま……」
「しょうちゃん鍵開けっ放しだった……よ?」
--ああなるほど、こうなるわけか。これはこの前の事でナツを責めるわけにはいかないな。
「小兄様、大兄様。もしかしたらと思ってはいましたが、本当にそうだったとは……いえ、大丈夫です。私は小兄様がどんな性癖だったとしても受け入れ--」
「待て待て待て待て。とりあえず話を聴け。そんでもって大輝は今すぐ離れろ」
「どういう事だ? 俺としてはもう少し見せて欲しいんだが……まあみんなも来たし、続きは後でも構わないか」
「火に油を注ぐような言い方するんじゃねえ!! お前やっぱバカだろ!! バーカバーカ!!」
「ああ、その台詞久しぶりに聞いたな」
「懐かしがってんじゃねえ!!」
「お兄ちゃんと大輝先輩ってそういう関係だったの……?」
「しょうちゃん……付き合ってくれなかったのはそういう事なの……?」
「やめろやめろ!! お前ら揃いも揃って変な事言いだすな!!」
その後女性陣の誤解が解けるまでの数十分、俺は必死で釈明をする羽目になったのだった。
--なんでこんな食いつくんだよ!?
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