二年振りに再会した幼馴染には、どうやら彼氏がいるらしい
エビ仮面RX
1章--再会編--
第1話
夢を見ていた。
幼い頃の自分と、自分に寄り添う女の子。
あの頃の俺は泣いてばかりだった。父と母を亡くし、もう二度と会えない事が信じられなくて。信じたくなくて。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そんな自分を必死で慰めている女の子。まだ幼いながらも整った容姿、肩まで伸びた綺麗な黒髪が印象的だった。
多分彼女に恋をしたのはちょうどこの時だったと思う。女の子に慰められた事が悔しくて、それでも自分を気遣ってくれる事が嬉しくて。
「私がずっと、しょうちゃんの傍にいるから――」
そこでいつも夢は終わる。きっと意識の底でこの先を見たくないと思っているからだろう。
少しずつ意識が覚醒していくのが分かる。ああ、また色のない世界に戻るのか――
「んんっ……」
仰向けのまま背伸びをして意識を現実に戻す。
「ああ、そういえば今日から学校だっけか……」
誰から返事が来るわけでもないのに独り言ちる。ふと時計を見やれば六時を少し過ぎたところだ。
まだ身体にだるさが残っているせいか、緩慢な動きでスウェットを脱ぎ、新しい制服に袖を通す。どうにもまだ着慣れないせいか、制服を着た状態で身体を動かすと若干違和感を感じてしまう。
とはいえ初日から遅刻してしまうわけにもいかないので、顔を洗おうと洗面所に向かう。
歯を磨き、顔を洗い、昨夜の残り物を電子レンジで温めて朝食を摂る。毎朝朝食を作るお母さん方は大変だなぁ。などと考えている内に朝食を終えた。
「ごちそうさまっと」
一人で居ても意外と習慣というのは抜けないものだな、と思った。
一度部屋に戻って学校指定の鞄を背負う。あとは机の上に用意しておいた財布と家の鍵をポケットに突っ込んで準備完了。忘れ物がない事を確認して家を出る。ふと、今日の天気はどうだろうと空を見上げてみた。少し雲が厚いように見えるが、まあどちらかといえば晴れだろう。スマホで天気予報を見れば良いのだろうが、雨は降らないと決めつけて傘は持って行かないことにした。
「いってきます」
言ってから「これも習慣か」と苦笑しながら家の鍵を閉める。
まだ時間は七時少し前。これならのんびり歩いて行っても遅れる事はないだろう。
今日から俺の通う学校――学園というのだったか。は、日本でも有数の進学校らしい。
らしい、というのは単純に興味がないから。別に志望校というわけでもないし。
ただとある事情により今日から通う事になっただけだ。別にやりたい事があるわけでもないし、かといって家で引きこもっていたいわけでもない。身も蓋もない言い方をすれば、ただ流されただけ。まあこのご時世、高校くらいは卒業しておいた方が、というのも分からないでもないので、ありがたいと言えばありがたい。
そんな事をぼんやりと考えながら歩く事三十分ほど、ようやく自分と同じ学園の制服を着た生徒をちらほら見かけるようになってきた。別に初めて通うわけではないが、それでも道を間違えていなかった事に半ばホッとする。
「おっ、
そんな時名前を呼ぶ声に気が付いた。この声は
「ああ、おはよう大輝」
「おうおはよう、相変わらずシケた面してるな」
「ほっとけ」
妙に馴れ馴れしいこの男は
そこまで古い仲ではないが、色々あって今では一番の親友である……というよりも他に友達と呼べる人間がいないという方が正しいかもしれないが。まあ仲は良い。
「今日から新しい学校だな」
「ああ、またよろしく頼む」
それから何気ない会話を楽しみながら学園へと向かった。だがいちいち前髪を切れだの眼鏡が似合わないだの言ってくるのは正直余計なお世話だと思ったが。大体お前は理由を知ってるだろうに。
それから知り合いに会う事もなく学園に着いた俺達は自分のクラスへ……と言いたいところだが、二人とも自分が何組か知らないので職員室へと向かう。
途中すれ違う生徒の視線を感じたが、恐らく大輝を見ているのだろう。
なんせコイツはいわゆるイケメンと呼ばれる人種であり、且つ百八十センチ以上の高身長というハイスペック男子なのだから。
対して俺は百六十センチとちょっとくらいなので、俺が隣に居ると大輝は嫌でも目立つ。まあでも俺だってまだ高二だし? 大器晩成型だし?
ほどなくして職員室へと辿り着いた俺達は引き戸を開けた。そういえばなんで学校の部屋って軒並み引き戸なんだろうね?
「あら、小兄様に大兄様ではありませんか」
「げっ、
思いもよらない人物がそこに居たので、つい口に出してしまった。
「げっ、とはご挨拶ですわね。小兄様」
「おはよう亜咲」
「はい、おはようございます。大兄様」
流石イケメン。俺のような失敗はしないのな。でも何故職員室に亜咲が?
「何故私がここにいるのか、といった顔ですわね」
そして思いっきりバレてました。とりあえず亜咲が睨んでくるので目を逸らしておく。はぁ、というため息が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。
「
恐らくは教師だと思われる女性が亜咲へと問う。まあここ職員室だし、ほぼ間違いなく教師なんだろうが。
「ええ、このお二人が例の」
「なるほど、道理で見覚えがないと思いました。編入生のお二人ですね」
「はい、そちらの背の高い方が天翔大輝様。そちらの小さい方が……」
「小さい言うな! 普通だよ、ふ、つ、う!!」
「失礼しました、そちらの普通の方が
確かに普通って言ったのは俺だけど、なんか悪意を感じる言い方だなこれ。
「ええと、天翔君に地原君ね。九条学園へようこそ。私は
「お? 達ってことは……」
「はい、小兄様と大兄様は同じクラスになるように手配しました」
「今なんかサラッと怖い発言があった気がする」
今手配したって言った!! 亜咲の奴、理事長の孫だからって裏で手回しやがったな!! ありがとうございます!! 正直ぼっち覚悟してました!!
「良かったな。小吾」
「なんだよ、まるで俺だけ喜んでるみたいじゃないか」
「そうじゃないって、俺だって喜んでるさ」
大輝が微笑みを浮かべながらそんな事を言う。やだこのイケメンカッコいい。
「お、おう。なら良いんだけどさ」
「まったく、相変わらず仲の良い事ですこと」
「なんだ? 亜咲も混ざりたいのか?」
「い、いえ。そういう事ではなくですね」
「おはようございまーす!!」
亜咲を弄っていると、ガラッと勢い良く扉を開けて女の子が職員室に飛び込んできた。
「ふーっ、遅刻するかと思っちゃった!! セーフですよね!?」
「ええ、大丈夫ですよ
「およ、
「おはよう光ちゃん。相変わらず元気だね」
「おはよう大兄!! 相変わらずイケメンだね!!」
おお……流石光、普通思ってても面と向かって言うか?
「えへへ……またみんな一緒だね」
「さて、お話の途中すいませんがそろそろ始業の時間ですので……天翔君、地原君は私についてきてください。それからええと、貴女は……」
「はい!!
「元木さんね。貴女は九条さんと同じクラスです。九条さん、元木さんの案内をお願いしても?」
「ええ、任されました」
「じゃあねー!! 小兄、大兄またあとで!!」
光に軽く手を振り、大輝と共に稲垣先生についていく。
しばらく歩くと、稲垣先生が教室の前で足を止めた。
――二年一組
どうやらここが俺達のクラスらしい。一組というのは分かりやすくて良い。
「それじゃあ私が入ってと言ったら入ってきてくださいね」
「「分かりました」」
稲垣先生が教室の扉を開くと、騒がしかった教室が少し静かになった。やっぱり中学だろうが高校だろうが先生が入ってきたくらいでピタリと静かにはならないらしい。
「はい静かに!! 皆さんおはようございます」
おはようございまーす。と生徒達が挨拶を返す。
「もう見た人もいるかもしれませんが、今日は転校生を紹介します。天翔君、地原君。入ってちょうだい」
先生から合図があったので大輝を前に押し出して教室に入る。ざっと見たところ生徒数は四十人ほどだろうか。大体どこの学校も変わらないなぁ、と思った。
「それじゃあ簡単で良いから自己紹介をお願いします。じゃあ天翔君から」
「はい、天翔大輝と言います。訳あってそこにいる小吾……地原と一緒に転校してきました。この辺はあんまり詳しくないので色々教えてくれると助かります。これからよろしくお願いします」
大輝がペコリと頭を下げると教室内に拍手が鳴り響く。男子の中にはやる気がなさそうに手を叩いている奴もいたが、女子はこれでもかというほど手を叩いていた。痛くないのかな、あれ。
「ねえねえ、凄くカッコよくない?」
「だよねだよね! 背も高いし!」
「私早速話しかけちゃお!!」
などと姦しい事この上ない。
「じゃあ次に地原君、自己紹介をお願いします」
「はい、地原小吾です。さっき大輝も言ってましたが、色々あって一緒に転校してくる事になりました。この辺は割かし地元な方なので大輝をよろしくしてやってください」
挨拶を終えると同じように……同じように? 拍手で迎えられる。とは言っても今度は女子も特にやる気はなさそうだが。分かってたけどね!!
「なんだろう……さっきの天翔君と比べるとちょっと……」
「なんであんなに前髪伸ばしてるんだろ? 眼鏡の前にかかって邪魔じゃないのかな?」
「天翔君かっこいい」
うんまあそうだよね。そうなるよね。だが最後の奴、お前絶対俺の自己紹介聞いてなかっただろ?
「はい静かにしてください! じゃあ天翔君と地原君はお互い知り合いみたいだし席は近い方が良いですね。ちょうど通路側の一番後ろの席が隣同士で空いてますので、通路側が地原君、その隣が天翔君にしましょうか」
お、通路側の一番後ろか。なかなか良い場所を確保してくれたもんだ。あそこなら多少寝ててもバレ……な……
「うそ……なんで……?」
堂々としてれば良いものを、ついバッと下を向いてしまう。だけどもう遅い。何故ならもう目が合ってしまったから。というかそれは俺のセリフだよ。
誤魔化すように顔を上げ、次は目を合わせないように自分の席へと向かう。背中に痛いくらいの視線を浴びながら。
ただ一つ言える事は、どうやらこの世界も俺には優しくないらしい。
だってこんなところにあの夢に出てきた幼馴染が居たのだから。
【後書き】
元々は4年ほど前になろうで連載していた作品となります。
行き詰ってエタってしまった作品ですが、これを機に改めて更新したいなと思い環境を変えて再チャレンジしてみました。
以前お読みいただいた方も新規にお読みいただいた方も楽しんでいただければ幸いです!!
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