第44話 江陵

 江陵付近で、魏延将軍と合流した。漢中から水軍として来てくれたんだ。


「魏延将軍。水軍をありがとうなのね~」


「はっ。ありがたき幸せ! つうか、陛下! 長いこと待たせておいて、連絡なく開戦せんといてください。先帝からの悲願を儂抜きで行うつもりだったたい?」


「ごめんね~。雑将軍がさ~、戦端を開いちゃったのよ」


 王渾おうこん君は、冷汗が止まらないらしい。

 最悪、魏延君が処しそうだ。都督だもんね。

 しかも、俺も止める気はないし。


「これからさ、長江を下って行って各城を落として行こうよ。まず、江陵城だね~」


 羊祜君と杜預君の作戦だ。

 違うのは、年号と情勢だね。20年以上早い。

 特に、交州だ。ベトナムに近い地域で大規模な反乱が起きて、呉国はそちらに兵士を割いていたはずだ。

 杜預君は、その隙を突いたんだよね。



 江陵城に到着した。船移動って楽ね。

 江陵城は、防衛の構えだ。船すら城に入れているよ。流石に、数で敵わないと判断したのかな?


「陛下! 他の戦場はどうなっちょとるとですか?」


 魏延君を見る。


「司馬炎君が、夏口と武昌を攻めてくれているよ?」


「もっとこう……、他ん都市も同時攻撃しようで!」


 ふむ……。一理あるかな。

 寿春には、司馬昭君がいる。合肥新城を攻めて貰うか。

 手紙を書いたら、すぐに返事が来た。


『OKっす。っと言うか、もう攻め込んでます。建業で合流しましょう。司馬昭より』


 大丈夫そうだ。王凌もいるし、人選に問題はないはずだ。

 襄陽にいる司馬師君にも手紙を書く。


『後方支援が、誰もいません! 襄陽から軍需物資を送ります。つうか、戦端が広すぎます。司馬師より』


 もう総数は、陸軍20万人に水軍20万人くらいだ。補給も大変だよね。

 司馬師君が見てくれるなら、こちらも大丈夫そうだ。

 全体を見てくれているんだね。


 ここで、交州の密偵から返事が来た。遅いよ。


『ちょっと、反乱を煽っています。思ったよりも大規模になりそうです。密偵より』


 口約束になるけど、今はいいだろう。【郭馬の反乱】を疑似的に作った感じになるはずだ。

 流石に俺も、ベトナムまでは行く気ないし。


『とりあえず、杜預君が【破竹の勢い】を行った時の条件は、揃ったかな?』





 開戦したんだけど、江陵城は、抵抗して来た。


「結構、頑強なのね~」


 先帝の劉備の元本拠地でもある。城壁が高いかもしんない。『荊州城』に名称変更してたかもしれない城だ。

 だけど、包囲して外部との連絡は断った。

 こちらは、陸軍5万人と水軍20万人だ。


「そんじゃ、一斉攻撃一日目ね~。GO、GO、GO~!」


「「「うおおおぉ! 突撃じゃ~!」」」


 いいね、いいね。士気が高いね。

 だけど、抵抗も激しい。

 一進一退の攻防が続く……。


「太守は、誰なんかね?」


 なんとなく思い出して来た。史実では、伍延ごえんだった気がする。

 偽の投降して来たんだけど、杜預が見破ったとかなんとか。

 でも、20年以上早いんだ。今の太守は分からないな~。

 考えていると、日が暮れた。

 こうして、攻城戦一日目が終わった。



 幕舎にて報告を聞く。


「被害は、どのくらい?」


「軽微と言って差し支えないかと。とりあえず、矢を撃ち込んで城壁の兵士を削っています。本気の攻勢は、明日以降ですな」


 あれで様子見だったか。

 魏延君は、頼もしいのね~。

 杜預君は、4ヶ月程度で呉国を滅亡に追いやった。電撃作戦だと伝わっている。

 ここであまり、時間を割きたくないのが本音だ。

 この後に、陸抗との対決を控えているんだし。


「でも、焦ったら終わりだよね」





 江陵城は、10日で陥落した。まあ、及第点だな。

 降伏して来た将校もいるけど、処すことにした。無血開城なら、生かしても良かったんだけどね。


「陛下にしては、珍しい処置ですな」


「今回は、失敗が許されないからね~。短期決戦で行くために、今回ばかりは、降将を認めないのよ~」


 背後からの槍は受けたくない。


「それで、荊州南部をとりに行きますか? 南部四郡ですな」


「う~ん、放置で。建業を目指そう!」


「「「えええ? 建業!? 遠くないっすか? どんだけ、大志を抱いているんですか?」」」


 そうだよね~。漢中から来た魏延君は、長江のほとんどを下ることになる。軍船は、戻せないだろうね。作戦を話していなかった。

 だけどね、もう引き返せないのよ。

 次のチャンスは、もしかすると10年後と20年後かもしんないんだ。


「次は、夏口ね~。司馬炎君がいるので合流しよう。その後が本番の武昌と柴桑ね~」


「あ……、はい。本気なんすね」


 江陵城には、負傷兵と1万人の守備兵を残した。

 太守は、羊祜君と杜預君にお願いする。落ち着いたら、軍を率いて柴桑で落ち合う予定だ。2人は綿密な計画を練っていると思うので、この周辺の全権を委任する。


 柳隠りゅういん君と傅僉ふせん君は、先手の大将として手元に欲しい。

 魏延君は、鼻息が荒い。もう、守備は嫌なんだろうな。長いこと待たせてゴメンね。

 王渾おうこん君も、まだ実績ないので、鼻息が荒い。


「そんじゃ進軍ね~。歩兵と騎兵は疲れない速度で夏口に向かってね~。朕は、水軍で移動するので」


「はっ。準備ができ次第向かいます」


 陸軍は、柳隠りゅういん君に任せることにした。5万人から4万人になったけど、大きな戦力には変わりない。

 夏口を落とせる頃には、武昌付近にいるはずだ。


 陸抗戦は、最悪物量攻撃になるかもしんない。

 下策になるかもしんないけど、柴桑さえ落とせれば、後は簡単だ。最悪、進軍を止めてもいいと思っている。


「ふう~。この時代って暗殺者とかいないのよね~。いたら、大抜擢するのにな~」


 忍者とか欲しいよね。でも、中国史なんだ。

 ない物ねだりだよね。


「陛下! 船の準備ができました!」


「そんじゃ、魏延君。出航よろしくね」


「はっ。者ども! 錨を上げろ! 出向だ! 夏口へ向かうぞ!」


「「「おおお!」」」


 こうして、俺は江陵城を後にした。

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