第42話 江夏1

 とりあえず、急いで江夏へ向かうことにした。

 ちょっと任せられないので、俺こと皇帝自ら足を運ぶことにしたんだ。


「陛下! 護衛を! 急ぎなのは理解しますが、近衛兵だけでも連れて行ってください!」


 おっと、そうだった。久々の戦場なのね~。


「今、動員できる兵士は? 襄陽に、どれくらいいるの?」


「20万人となります」


「半分連れて行こっか~。残りは、防衛をお願いね~。内乱にも注意してね~」


「「「はっ!」」」


 護衛には、司馬炎君、羊祜君、杜預君を選んだ。

 張遵ちょうじゅん君、諸葛瞻しょかつせん君は、益州と涼州方面の情報収集を任せた。関統かんとう君、関彝かんい君、趙広ちょうこう君は、荊州の防衛だ。何時でも出陣できるように準備して貰う。

 司馬攸君は、洛陽との連絡係にした。費禕君と連絡を取って貰う。

 

「そんじゃ、司馬師君。留守をお願いね~」


「はっ! お戻りをお待ちしております」


 こうして、襄陽を出発した。

 馬と船を使って、移動する。

 その間にも、続々と報告が来る。

 王渾おうこん君は、マメっぽいな。


 木簡を受け取り、読んで行く……。


「……事の発端は、斥候同士の不意遭遇だったみたいね。それを口実に戦端を開いたのか~」


 頭痛いよ。

 ここまで短気な人物だったとは。


「陛下! 計算ずくかもしれません! 王渾おうこんは、侮れませんよ!」


 司馬炎君からだった。

 君ね~、この事態を予見してたんじゃない?

 計算してたの君じゃない?

 確信犯だよね?

 この後、柴桑を落としても武功として取り上げないよ?


 でも、もう一つの疑問が浮かんで来た。


『俺を殺害する計画だったら、最上とも言えるよね……』


 そう、今隣にいるのは、史実で晋国の皇帝になる司馬炎なんだ。

 【面従腹背】――腹の底では、裏切ることを考えているのかもしれない。

 一応、警戒しておこう。



 船で数日進むと、軍船が見えた。呉国の水軍だね。

 相手もこちらを視認して、向かって来るよ。


「迎撃態勢! 迎え撃つよ~!」


「「「はっ!」」」


 羊祜軍を正面に、司馬炎軍を右軍、杜預軍を左軍に分ける。俺は、中央の後軍だ。

 水戦なので、船での戦闘に突入する。

 俺は、中央軍を指揮した。


「う~ん。数が少ないね……」


 とりあえず、矢が飛んで来るので、近衛兵が盾で防いでくれるけど、ほとんど飛んで来ないので意味ないかもしんない。

 呉国の水軍は、小船が100艘程度だ。多くても2000人かな?

 こちらは、陸軍と水軍に分けているとはいえ、万単位の兵士がいる。

 一方的に船を沈めて行く。

 川の流れも、こちらが上流であり、優位でもあった。

 それと、火計は使わなかった。油と火薬は、まだ消費したくない。


「おかしいのね~。無謀な特攻としか言えないんだけど……」


 呉軍は、なにを考えているのかな?

 江夏でなにが起きてんのかね?





 捕虜にした兵士に話を聞いた。


「呉国は、内乱してんの?」


 俺の密偵ですら、掴んでない情報だぞ?


「内乱というか、呉の四姓と孫家が、喧嘩を始めまして。もう滅茶苦茶なんです。戦争は起きていないのですが、税とか何処に納めればいいか分からなくなっていて……。皇帝の孫権の命令も、意味不明で理解できず……」


 この捕虜は、半農っぽいね。

 表立っては、混乱していないみたいだけど、末端から見れば、もう国の上層部はどうしようもないんだな。

 岸につけて、捕虜を解放してあげる。


「なるべく軍に戻らないでね。家に帰ってね~」


 捕虜たちは、お礼を言って帰って行った。


「よろしかったのですか?」


 司馬炎君を見る。


「農民を切ってもさ、なにも得るモノがないよ? 数百人程度だしさ。見逃してあげようよ」


 司馬炎君は、不満なようだ。

 また軍に戻らなきゃいけないかもしんないけど、それでも俺の徳を感じて欲しいかな。


「それよりもさ、江夏だよ。王渾おうこん君は、なにしてんかね?」


「まあ、想像はできますね。王濬おうしゅん王渾おうこんは仲が悪かったので」


 うん、司馬炎君。君、確信犯だね。予測していたんだね。

 処さないけど、後で左遷しよう。


『まったく、司馬家はどうなってんのかね?』


 頭が良いのは認めるけど、俺の思惑通りに動かして欲しいよ。

 こんな中途半端な時期に、戦争は望んでいなかった。


「陛下! 江夏が見えました!」


 川を挟んで、軍が対峙しているよ。弓矢で応戦しているし、水軍も展開されている。

 そうか、さっきの呉国の水軍は、戦場の端だったんだな。そうなると、蜀漢軍の存在は、知られていると考えよう。奇襲はできない。


 呉国の陣は、小さいな。

 あれでは多くても、2万人くらいかな?


「兵士を連れてきすぎたかな?」


 でも、陸上部隊は、到着までもう少しかかる。

 今は、水軍だけでなんとかしないといけない。


 一度、水軍を止めた。

 このまま乱入するのは、避けたい。

 一度、西側の川辺に集まって軍議を開く。


「とりあえず、羊祜君は一軍を率いて、王渾おうこん君に合流して。場合によっては、兵を引かせてね」


「はっ!」


「杜預君は、ここで水軍を留めて、長江を塞いでね。荊州に攻め込まれるのを防いでね」


「はっ!」


「司馬炎君は、夏口へ向かって。落とせたら落としちゃって。偵察だけでもいいからさ、行って来て」


「はいぃ!? 今からですか?」


 反論は聞かない。

 俺は、どうすっかな~。

 とりあえず、陸上部隊の到着を待つか。騎兵だけなら、明日には到着するだろう。

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