第43話 江夏2

 羊祜軍が、戦場に参加すると、呉軍が引き始めた。

 流石に羊祜軍数は、数が多いからね。軍船の数も違う。

 蜀漢軍は、呉軍の数倍になった。あれで、戦争を続けるのであれば、全滅もありえるから、妥当な判断ともいえる。


 俺は、10里離れた場所に陣を敷いた。

 杜預軍は、船で長江を塞いでいる。

 明日には、騎兵も到着するだろうから、本格的に動くのは、明後日からかな。

 歩兵が到着したら、包囲戦術に移る予定でいる。その間に、地形を把握しておこう。



 夜中になって、王渾おうこん君が陣に来た。


王渾おうこん君……。なにしてんの?」


「いや~。王濬おうしゅんが、挑発して来ましてね。矢を撃ったら、ちょっとずつ戦端が広がっちゃって……。気がついたら全軍での戦争になってたっす」


 ……処していいかな?

 部下を処そうと思ったのは、初めてだよ。


 その後、説教した。


「将兵の無駄な損失は、作戦の中でも下の下ね。もう一回やったら将軍職を剥奪ね」


「……はい」


 王渾おうこん君は、自分の陣に帰って行った。


「さて……。どうすっかな~」


 呉国のと戦端が開かれてしまった。同盟も、もう生きていないだろう。

 孫権は、ボケてっしな~。これを機に、全面戦争になりそうだ。


 とりあえず、全国の各城に警戒態勢を伝える使者を出した。

 出陣前に、洛陽の費禕君にも連絡を入れたので、蜀漢国全てに情報が届いていると思う。

 二回の連絡で、各城の太守も警戒してくれるだろう。

 それとここで、反乱を起こされたら……、ちょっと危ないかもしれない。

 だけど、重要都市には、俺の信頼した部下を配置しているし――大丈夫かな?


 久々に、地図を出した。

 今、最も警戒しないといけないのが、合肥がっぴ城だな~。

 長江の北側の重要拠点だ。合肥城を落とせないと、呉国の首都の建業けんぎょうには攻め込めないかもしれない。


 本来の歴史を思い出す………。

 史実の杜預の呉国制圧戦は、寿春と下邳から、建業を攻めている。合肥城は、落としておかないと計画が狂うかもしれない。


 本当は、孫権の崩御を待ちたい。その混乱をついて、攻めたいのが本音だ。

 だけど、後を継ぐ丞相になる諸葛恪が面倒だ。戦に強いのか弱いのか分からない。次の皇帝になるであろう、10歳児の孫亮は、正直どうでもいい。


「【東興の戦い】は、呉国の勝利だったな。疫病で、魏国が大敗するんだよな~」


 敗戦は、できるだけ避けたい。それと、最大の懸念がある。


「河北から長江に出兵すると、兵士は疫病との戦いになんのよね~」


 【赤壁の戦い】が、特に有名だ。

 水があわないのかもしれない。やるなら、短期決戦だな。


 その次の丞相の孫峻は、粛清を行うのだけど、呉国が混乱するのには数年かかる。

 それに、諸葛恪は【合肥新城の戦い】で支持を失うし。

 諸葛恪が台頭して来る前に攻めるか、諸葛恪の支持が落ちた時に攻めるか……。

 もっと後でもいいかもしんない。次とその次の丞相は、もっと滅茶苦茶だし。


「今しかないとも言えるかな~。それか、数年後か……」


 攻め込むタイミングを見誤らないようにしないとね。





 江夏から呉軍は退いた。そして夏口の戦いは、沈静化した。

 王濬おうしゅんが、防衛に徹して来たからだ。流石に、数の不利を悟ったらしい。

 俺は、情報を集めた。


「諸葛恪は、合肥新城にいんのね……。攻めらんないじゃん」


 江夏は、防衛に成功しており、司馬炎君は、攻めあぐねているらしい。

 兵力の逐次投入になっているけど、援軍が到着すれば、そのうち落とせるだろう。

 それと、疫病の発生を注意させた。


「ほとんどの兵士が、襄陽で練兵させたんだし、水に慣れているよね?」


 とりあえず、俺も注意しないとな。

 飲み水は、煮沸させてから飲むようにしている。



「陛下! 歩兵も着きましたし、総攻撃と行きましょう!」


 王渾おうこん君は、やる気なのね。

 でもね……。罠がありそうなんだよ。


「おかしくない? あんな寡兵で防衛ってさ……」


「罠があったら、食い破ればいいだけっす」


 う~ん。猪突猛進タイプだね。

 命令違反しそうだ。

 つうか、前科あるし。


「今さ、呉国に詰問状を送っているから、その返事次第で……」


 王渾おうこん君は、不満なようだ。

 だけど、羊祜君と杜預君が諫めた。


 数日後、呉国から返事が来た。


『攻めて来るなら、相手するばい。孫権より』


 それと、合肥新城から出兵があり、寿春が攻められ出した。急報が来たよ。

 ダメだね。本格的にボケているよ。

 国力差まで分からなくなっているな。


「う~ん。本格的な戦争に突入しちゃったね。羊祜君と杜預君。指揮を頼むね」


「「はっ!」」


 これ以上ない人選だ。対呉国の指揮権を持っていた二人が、同時期にいるんだし。作戦も練ってくれていそうだな。配下に賈充君もいるしね。


 王渾おうこん君は、俺の護衛にした。

 前線には出さない処分だ。


 それと、蜀・漢中からの水軍だね。

 柳隠りゅういん傅僉ふせんが、水軍を率いて来た。魏延君が登用したんだとか。それと水軍の総大将として、魏延君も来たよ。

 まあ、最終決戦かもしれない。魏延君は、大将軍もしくは都督だし、咎めることはできないね。長いこと漢中で練兵してくれていたし、任せてみよう。


「軍船が、長江を埋め尽くしているのね~」


 この10年で、軍船をたくさん作ったんだな。任せきりだったけど、真面目に働いてくれたか。

 水軍は、三軍に分けて、夏口と武昌(柴桑)、江陵へ送る。


「水軍で長江を埋めたら、歩兵で攻めてね~。城を孤立させて、各個撃破ね~」


 まず、俺は江陵城へ向かった。魏延の水軍と合流する予定だ。孤立させてからの、総攻撃がいいかな? 包囲戦術そのものだよね。


 羊祜君と杜預君は、長江を下って武昌へ向かった。

 魏延君には、江陵城に向かって貰う。司馬炎君は、夏口攻めを行っているので、援軍として派遣する。司馬炎君には、夏口を落としたら武昌と柴桑を攻めて貰う算段だ。


 俺は、全軍に指示を出した。


「そんじゃ、丁寧に城を落として行ってね~」


「「「はっ!」」」


 それと、交州に連絡しておくか。

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