第34話 洛陽に凱旋

 俺は、洛陽に帰ることにした。

 司馬昭君に後を任せる。征北将軍だね。部下に羊祜君がいるので大丈夫でしょう。

 だけど、一抹の不安もあった。


「司馬炎が、いるのよね……」


 今河北で、司馬昭君に反乱を起こされたら、俺の優位も覆りそうだな……。

 俺の近くに司馬師君がいるから、大丈夫だとは思うけど、どうしても不安が拭えない。


「歴史の強制力が働いたら、全部パーなのよね~」


 正解というのであれば、司馬炎を誅殺するのが正しい。だけど、現在味方であり、罪も犯していない若者を誅殺して、部下がついて来るかというと、そうは思わない。

 現状、見守るしかなかった。


 まあ、そん時は、そん時だな。

 今までみたいに、奇策で対応すればいい。

 考えていると、洛陽に着いた。


 民衆の大歓迎を受ける。


「皇帝陛下だ~!」「漢の正統後継者!」「漢の中の漢!」「結婚して!」etc


 ちょっと、雑音も入っているけど聞き流そう。

 器の大きい所を見せないとね。


 宮殿に着いた。


「陛下……。お待ち申し上げておりました」


「おお! 費禕君!」


 馬から降りて、駆け寄る。


「長いこと任せきりで、悪かったのね~。後方支援は助かったのよ~」


 魏を倒した時の授賞式依頼だな。

 遷都は、全部任せてしまった。いや、その前からだな。

 内政だけじゃない。援軍も補給も任せてしまっていた。

 蔣琬と董允は、もう亡くなっていたんだし、負担をかけ過ぎていたと思う。


「遷都は、つつがなく終わりました。現在は、洛陽が蜀漢国の首都となっております」


 やっぱ、真面目さんだな~。

 費禕君を丞相の上の相国にした方が、いいかもしんない。

 こんな忠臣を最高職にさせないと、後世でなに言われるか分かんないよ。

 今は、益州牧だけど、時期を見て司馬師君と交代させよう。


「益州は、どうなってんの? 大分離れてしまったのよ。距離も時間もね~」


 現在の費禕君は、益州牧だ。成都一帯を任せている。


「問題なく、治まっております。異民族も陛下の徳を感じてか、反乱すら起こしません」


 そっか~。

 戦争ばっかりしていたけど、陰で支えてくれた費禕君がいてこそだったよね。

 その後、費禕君の手を取って宮殿の奥へ進む。



 玉座に着いて、報告を聞いた。


「内乱は、ほとんど起きなかったのか~」


「はっ! 各地に良将を配置した陛下の采配により、反乱を起こしても即座に鎮圧されています」


 問題だったのは、徐州だった。

 降ったのは、最近だし、徐州牧は楊儀君だ。内政は、任せられるかもしんないけど、武官が少ないみたいだ。

 魏国の降将を再配置して行く。

 反乱を起こされたくないので、分散配置だね。

 戦争ばかりしていたけど、統治は優秀な文官がいたので、安定していたみたいだ。


「残るのは、呉国かな~。なんか、情報ある?」


「……それが、滅茶苦茶です。なんか、孫権が……、滅茶苦茶やっているんです。もう、粛清がいっぱいなんすよ」


 杜預君が襄陽にいるんだけど、毎月連絡を入れてくれていたのか。

 木簡を読んで行く。


「……孫権さん、なにしてんの? 粛清を行ってんの? 国の重臣処してどうするの?」


 戦争で、負け続けているから、武官を処したの?

 そんなことしたら、守る人がいなくなるよ?

 【二宮の変】以上じゃない?


「本格的に、ボケ始めたか……」


「陛下? 他国の皇帝ですが、そのような物言いは……」


 でもさ、かなりの人数を処しているよ?

 これじゃあ、陸抗がいかに有能でも無理じゃない?


『北の幽州攻めを止めて、呉国攻めに切り替えるか?』


「……陛下。無理なお考えは、民を疲弊させるだけです。2つの戦線を持つ意味をお考え下さい」


 考えを読まれてしまった。

 そっか~。そうだよね。

 呉国と蜀漢国は、長い国境で接してる。

 何処も攻め込まれたくないので、兵士を分散配置しているのもある。

 特に、合肥城だ。

 俺の長安攻めから、呉国が統治している。


「そだね~。呉国は、放置にしよう。蜀漢国は、燕国と匈奴・烏桓族に注力しよっか~」


「「「はっ!」」」


 結果ありきの報告だけど、不快感はないかな。

 理に適っているし。

 それと忘れちゃいけない、交州だ。

 東シナ海に接する、忘れられた土地。ベトナムまで国土が広がっている。

 諸葛丞相の南征前に、孟獲をそそのかしたらしい。

 この後は、呉国に怯えて、最後には降伏する。

 交州牧は、長らく士燮ししょうが支配していた地域だ。もう死亡しており、呉国に支配されているはずだ。孫家が統治してると思う。


「交州は、どうしたらいいと思う? 一応、益州からも行けるよね?」


「……交州は、放置しましょう。遠過ぎます。諸葛丞相の南征以上に困難になりかねません」


 う~ん。そうか~。

 特に疫病だよね。軍に広がったらアウトだ。

 北はいいんだけど、南は気をつけないとね~。

 曹操は、赤壁で失敗してるし、交州はそれよりも遥か南だ。

 無策で将兵を送り込んで、全滅もありえるな。疫病が怖い。

 史実だと……、杜預君が荊州南部を攻めとって、その後に攻めたか降伏かだったと思う。


「大体こんなとこか~。問題はなさそうだね~」


「ですが、戦争続きで民衆の不満が高まっているのも事実です。楊儀とか頑張っていますが、そろそろ限界かもしれません」


 う~ん。魏国を滅ぼしてまだ日が浅い。

 反乱分子も多いかもしんない。


「そんじゃさ。恩赦を出そう。凱旋記念ね。今年の年貢は、半分ね~」


「「「えええ!?」」」


「皆の者! 落ち着け! 益州は、それで民衆の不満を抑えた実績がある! 劉禅陛下の判断に、何の疑いを持つというのだ!」


 ――シーン


 費禕君の一喝で、朝廷内が静かになったな。

 費禕君は、やっぱり俺の右腕だね。

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