第48話 柴桑2

「う~ん。今日も引き分けか~」


 兵士数は、圧倒的に蜀漢軍が多いけど、呉軍も負けていない。

 とにかく水軍が強い。

 孤立した部隊は、転覆させられている。鎧を着ているから、兵士は泳げないのよね。

 もう、10日目だ。決定打が見つけられないでいた。

 だけど、このまま削って行けば、あるいは柴桑城を落とせるかもしんない。


 そんな時だった。


「うん? 援軍? 益州から援軍が来たの?」


 誰だ? 幕舎の外に出る。

 その人物が、敬礼していた。


「姜維将軍……」


「陛下ぁ~! 酷いっす。俺っち抜きで、呉国攻めないでよ~。忘れられたのかと思ったじゃん!」


 姜維君が、抱きついて来た。

 鼻水つけないでよ……。

 それと、俺にそんな趣味はないのよ。


「どれくらい兵士を連れて来たの?」


「水軍を1万人程度っす」


 う~ん。雍州の兵士か。病気が心配だな~。水が合えばいいんだけど。できれば、分散配置させたい。

 だけど、姜維君は最前線を希望している。

 希望を叶えないとね。


「ちょっとさ、柴桑の先に向かってくんない? この辺は、まだ攻め落とせていない城が多くあるのよ。長江沿いに各都市があるからさ」


「戦端開いていいんすか?」


「独自裁量権を持たせるのね~。都督よ都督。でも建業までは進まないでね」


「了解っす。嬉しいっす。任せてください」


 姜維君には、柴桑の先を攻めて貰うことにした。

 陸抗を焦らせる作戦だ。多分だけど、この一帯の兵士は、今柴桑にいる。空き巣戦法で落とせて行けるだろう。

 この先の大都市というと廬江ろこうかね?

 さて……、陸抗はどう対処するのかね?





 夜になり、今日の戦果の報告を聞く時だった。


「陛下! われに秘策があります!」


 魏延将軍だった。

 鎖を持ってんだけど……。


「あれをやるの? 火攻めされそうじゃない?」


「雨の日を選べば、いいだけっす!」


 確かにそうかもしんない。現状手がない以上、試してみるのもありか。


「そんじゃさ、魏延軍だけで試してみて。羊祜軍と司馬炎軍は、今まで通りに攻めてね」


「「「はっ!」」」


「陛下……。意見具申したいです」


 賈充君からだった。


「うん? そう、畏まらなくていいよ? 周囲の将軍もさ、フレンドリーじゃん?」


「ははっ。このまま凡戦を続けるのがいいと思うっす。兵を分けて建業に差し向けるべきだと思うっす」


 あ~、あれだ。キン○ダムの【函谷関の戦い】だね。

 こちらが大きな手を打たなければ、相手もなにもできない。そのうち、数の少ない呉軍の兵士が尽きる。

 だけど、時間をかけたくないのもある。魏延君が漢中を出発してから、もう一ヶ月が過ぎているし。

 船旅と言っても、移動にはかなりの時間がかかる。

 それに、陸軍だっているんだ。

 この地には、20万人が集まっている。留まっていると、疫病が発生するかもしれない。


「正直、急ぎたいのよね……」


「なら、荊州南部四郡と会稽郡に兵を差し向けるべきかと。柴桑を攻めるのに20万人は必要ないっす」


 う~ん。言いたいことは分かる。姜維君を先行させてもいるんだし。

 史実を思い出す。

 杜預君が、一気に荊州と揚州を制圧したんだよね。指揮を執ったのが、賈充君か。

 史実と違うのは、呉国にまだ名将が残っていることだけだ。


「柴桑を落としたら、その作戦で行こっか……。明日大敗するとも限らないからさ、戦力の集中で。その後は、賈充君の作戦で行こう」


「「「ははっ!」」」





 3日後に、魏延君の作戦が決行された。


「雨降って、波が高いけど大丈夫? 別な日にする?」


 俺の知識だと、源義経くらいだな。こんな無茶な作戦立てたの。


「今日、行くっす!」


 魏延軍の水軍が、船を鎖で繋ぐ。『連環の計』だね。【赤壁の戦い】と違うのは、疫病が発生していないのと、天候が雨ってことだ。今日の火計はないね。

 ちなみに、『兵法三十六計』によると、連環の計とは『強大な敵軍には正面からまともに戦うのではなく、計略をいくつも駆使してその疲弊、弱体化を図って、タイミングを見計らって攻撃をかけること』なんだそうだ。

 三国志演義だけ、鎖で船を繋ぐことを『連環計』と言っているらしい。


「転覆しそうだったら、戻って来てもいいからね? 無理しないでね~」


「転覆を避けるための、連環の計っす。それに、多少の無茶をしないと落とせないっす」


 こうして、魏延軍が出航した。

 俺は、陣から見守る。


「……呉国の水軍は、転覆してんのね」


「これだけ、波が高いと普通の船では無理があるかもしれませんね」


 呉国の水軍は、岸に戻って行った。

 魏延軍が、対岸に辿り着いて、攻防戦が始まったよ。


「対岸に到達できたのは、始めてだね。柴桑に上陸してるよ」


「結構、有効だったかも?」


 後は、数の暴力だ。蝗のように呉軍に襲いかかると、あっという間に柴桑北側の岸を抑えることができた。

 それを見て、杜預軍と司馬炎軍も出航する。

 呉軍は、大混乱だね。

 だけど、すぐに統率をとり始めた? 魏延軍は、孤立しているとも取れる。反撃されると危ないかもしれない。


「混乱する兵士を纏め上げる人物が、いるんだね」


「それが、名将かと……」


 もっと混乱させた方がいいよね。


「柴桑南部に布陣させている陸軍に、出撃命令を出して!」


「はっ!」


 四方向から同時に攻めることによって、情報過多にさせる。

 北側の岸を取れたのが、大きい。

 呉軍は、次第に押し込まれて、最終的に城に籠った。


「ふう~。魏延君の計略が正解だったのね。『連環の計』を成功させるとはね~。呉国にとっては、皮肉だよね~」


 水軍を失って包囲された柴桑城。

 後は、普通の攻城戦だな~。

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