第47話 柴桑1

 杜預軍と司馬炎軍が合流した。水軍は、魏延君に任せる。

 俺は、大船団で柴桑さいそうへ向かった。

 騎兵は、先行して陸路を進ませる。

 船に乗り切れない歩兵は、陸路を進んで貰う。こればかりは、しょうがない。


 武昌ぶしょうから柴桑さいそうまでは近いんだよね。

 陸抗りくこうは、援軍を送って来なかったのが気になってた。


 そして、柴桑が見えて来た。


「一大要塞と化しているのね……」


 柴桑は、長江の中で、半島の形で突き出した地形だ。

 陸路は、南だけだ。

 北・東・西方面は、長江に面している。地形的に難攻不落と言っていい。中国史だけじゃない。世界史を知っている俺からすると、攻めちゃダメな地形だ。


「陛下……。近づくと船底に穴が空くかもしれません。川底に杭や釘が打ってあるかと」


 そこら中に、罠がありそうだね。


 その後、軍船を柴桑を取り囲むように配置して行く。

 陸に上がって、陣を構えるように指示を出す。

 それと、兵士の一部を南側の陸に上げた。


「包囲は完成したけど、静か過ぎるのね~」


 柴桑城は、まったく動きがない。


「陸抗は、不在かも? 逃げたのかもしれません」


 それはないかな……。

 呉国を最後まで守った守護者だし。あの陸遜りくそんの子供だしね。


 ……ずっと、視線を感じるんだよね。武昌からずっとだよ。


「陛下……。兵士が待っております。御下命ください」


「……陣を作って警戒してね。夜襲が来ると思うのよ。それと、食料を焼かれないようにね。火計に注意ね」


 【赤壁の戦い】の再現は避けたい。

 それと、疫病だな。

 陣内を視察する。

 特に魏延軍だ。漢中から来ているので、水が合わないかもしれない。


「病人はいないと……」


「夏じゃないですから。それにまだ遠征を開始してから日数も経っていませんし」


 油断があるね。一人発病したら一気に広がるぞ。

 まあいいや、疫病は発生の気配がない。それが、確認できた。


 俺は、柴桑への攻撃はせずに陸軍の到着を待った。

 船で往復させて、柴桑の南へ配置させる。

 後数日で、全軍移動できるだろう。



「陛下……。船を降りられて、休まれては? ずっと、船に乗り続けていますよね? 水浴びでもしてください」


 匂ってんかね?

 でもね、油断したくないのよ。


「柴桑からの攻撃はある?」


「伏兵が多数見つかっています。食料を焼こうと狙っていました。ですが、陛下の指示通り、食料を船から降ろさなかったので、被害はありませぬ」


「その伏兵は、その後どうなったの?」


「四散して逃げて行ったと、報告を受けています」


 まずいね。全部集まったら結構な数になんじゃない? 5千人とか集まったら、一つの軍じゃん。

 一点突破なら、将軍一人くらいは、倒されそうだ。

 今回は、地形を把握できていない。不利な条件なんだ。

 何処に隠れているんかね……。





「陛下! 全軍配置が終わりました!」


「そんじゃ、総攻撃開始! MOVE、MOVE、MOVE!」


「「「おおお!」」」


 一気呵成に、柴桑に攻撃を仕掛ける蜀漢軍。

 柴桑は、水軍を出して来たよ。


 北・東・西側の水軍がぶつかる。

 呉軍の方が、船の扱いは上手いけど、数が違うね。被害甚大になりそうだけど、水軍は時間が経てばこちらが有利になるだろう。同数程度の被害なら、数の多いこちらが有利だ。兵法としては、悪手かもしんないけど、潰し合いも時には必要だ。

 次に、南側の陸軍へ移動する。


「投石機かね? 矢も凄いね」


 南側の陸軍は、苦戦してた。兵士が、バタバタと倒れて行く。


「陸軍は、下がらせよう。被害が大きすぎる」


「はっ!」


 撤退の銅鑼が鳴る。

 そうすると、柴桑から騎兵が出て来たよ。

 陣形が崩れた所の背を撃たれる。

 弓矢で迎撃すると、さっさと戻って行った。


 これ、あれね。日露戦争の【旅順二百三高地の戦い】になりそうだ。

 陸路で攻めるとなると、相当の犠牲を覚悟しないと落とせないかもしんない。


「どうすっかな~。柴桑は、包囲だけして先行くか?」


 今回の遠征の目的は、建業なんだ。柴桑は、包囲して遊ばせておくのも手かな。

 建業が落ちれば、陸抗も降伏するだろうし。


 ここで、後方より鬨の声が上がった。


「なにがあったの?」


「呉の陸軍です! 一直線に陛下の旗を目指して進軍しています!」


 やっべぇよ。今は、陣形を崩している。

 背後から奇襲を受ける形になってんじゃん。

 ここで、王渾おうこん軍が動いた。壁になって敵を防いでくれている。護衛を任せていただけあって、警戒してくれていたんだな。

 俺はその間に指示を出して、包囲殲滅に移らせる。


 呉軍の判断は、早かった。

 軍隊の隙間を突いて、柴桑城へ帰ってしまった。包囲できなかったよ。


王渾おうこん君。助かったのね~。ありがとうなのよ~」


「いえいえ。流石にこの数の兵士がいますからね。陛下までは、辿り着けなかったでしょう」


「敵将は見た?」


朱績しゅせき丁奉ていほうの旗が。それと、王濬おうしゅんがいたかもしれません」


 危ねぇ~。全滅覚悟で来られたら、俺死んでたかもしんないな。

 名将との正面対決は、避けたいな。こちらの将軍も討たれそうだ。


「陸路からは、無理かもしんないな~」


 その日は、水軍も引き分けたと連絡が来た。


「過去一で、難攻不落の城攻めになりそうなのね~」

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