第46話 武昌

「武昌は、もう少しで落ちそうだね~」


 もうね、数の暴力だね。

 水軍も陸軍も、数で囲んで殲滅している。城の外に出て来た軍勢は、蹴散らした。

 残りは、門を閉ざした城だけだ。


 攻城兵器も、司馬昭君が送って来てくれた。それと長江の北の情勢だけど、合肥城は、抵抗を続けているらしい。今だと合肥新城かな?

 支援物資は、司馬師君が継続的に送ってくれる。


「負ける要素は、ないかな~。問題は、時間と兵士の損耗率くらいかな~」


 疫病は、発生する前提で動いている。疫病が発生したら、進軍停止して、落とした城で療養する予定だ。


「陛下! 柴桑が近いです。援軍が来るかもしれません!」


 柴桑か~。長江の上流方向を見る。

 だけど、水軍どころか陸軍も来ない。

 多分、呉国の援軍はないかな。


「柴桑は、兵士をかき集めてると思うよ。一大決戦になりそうだよね」


「援軍は、ないとの判断ですか……。従いますが、警戒の兵は出させてください」


「うん、哨戒をお願いね~」


 王渾おうこん君は、城攻めよりも哨戒任務を優先して行ってしまった。

 武昌の城は、魏延君を先頭に柳隠りゅういん君と傅僉ふせん君が、攻めている。

 攻め続けていれば、落ちると思う。武昌に籠る兵士数が分からないので、日数は計算できない。


「なんだろう、この言い知れぬ不安感は……」


 ちょっと空気がピリピリしている気がする。

 急ごうか……。





 俺は、まず軍を4つに分けた。


「朝、昼、晩で四刻(8時間)ごとに交代ですか……」


「そそ、3日働いて1日休みね」


「戦争中の兵士に休みですか……。怪我していない兵士を休ませるのですか……」


 魏延君は、理解できないようだ。

 休憩は大事よ? 戦時下でもね。


 俺は、『三班四交代制度』を立案した。

 今は理解されないかもしれないけど、実績を挙げればいいよね?


 武昌は、大混乱に陥ったね。

 なんせ、24時間攻撃され続けているんだ。

 休憩は、こちらの交代時のみだ。


 兵士は、何時も陽が昇っている時間は、緊張していた。だけど、今は16時間の休憩がある。

 3日働けば、1日の休みも貰えるんだ。

 動きが格段に良くなったよ。

 比例して、武昌の兵士は、動きが悪くなって来た。



「4日目以降、動きが悪くなりましたな。城壁も残り一つです。明日か明後日には、陥落するでしょう」


 武昌の城は、城壁が三枚の城だった。残りは、宮殿を護る一番内側だけだ。

 武昌は、大きな城だったよ。


 とりあえず、住民には出て行って貰う。戦火に巻き込みたくない。


「戦火を避けるために、柴桑方面以外に逃げてね~」


「「「いえ……。蜀漢国に移住させて貰えないでしょうか?」」」


 んっ?

 話を聞くと、孫権の滅茶苦茶な政治に、嫌気がさしているらしい。

 この際、土地と家を与えてくれるなら、蜀漢国に移住したいんだそうだ。


「襄陽と江夏方向ならいいよ?」


「「「ありっす。流石、皇帝っす!」」」


 こうして、武昌の住民の大移動が始まった。

 司馬師君に応援の手紙を書く。

 すぐに、返事が返って来た。


『大変なことを簡単に言わんといてください。だけど、なんとかします。司馬師より』


 流石、俺の参謀だね。一番の相談者だ。

 そういえば、史実の羊祜君も呉国の住民を晋国へ招いて、国力を上げていたね。

 呉国の混乱は、農民まで被害を出していたみたいだ。

 今は、孫権がボケているけど、その後も酷いしね。

 酷い政治をする丞相が三代続いて、最悪皇帝の孫晧そんこうに繋がって行く。


「でも、この時点でダメだったのね……」


 呉国の民草が、可哀相だよ。





 武昌は、戦法を変えてから5日目で陥落した。

 太守は、討ち取られるまで抵抗して来たよ。


「被害はどう?」


「正直、軽微です。想定の1/10ですね。『三班四交代制度』……。陛下の兵法は、古の孫氏呉氏にも引けをとりませんな。この戦法は、後世に伝えられることでしょう」


 てへへ。褒めてもなにも出ないよ?

 つうか、結局のところ24時間攻撃されて、武昌の兵士が疲れちゃったのが原因だよね。

 人間が寝ないで動けるのは、3日くらいが限界だよね。

 戦争で、ドーパミンというか、脳汁ドバドバでも、限界は来る。

 ディスクワークじゃないんだし。……ディスクワークでもアウトかな?


「食事する時間もなかったと思うし、相手の疲労を蓄積させる戦法だったのね~」


 それと、住民が非協力的だったのもある。

 計算外だったのは、武昌の太守が最後まで抵抗をして来たことかな。孫家の者だったかもしれない。

 将兵の遺体は、丁寧に葬るように指示を出した。


 ここで、司馬昭君から連絡が来た。


『合肥新城を落としました。合流できるように長江沿岸で待っちょります。司馬昭より』


「お……。合肥新城を落としたか」


 寿春からは、羅憲らけん君が建業に攻め込むらしい。それと、楊儀君も軍を興したのだとか。

 細かい進軍ルートが書かれていた。


 それと、杜預君からも連絡が来た。


「ふむ……。羊祜君と杜預君は、柴桑に来るみたいだね」


 襄陽からの援助物資を、持って来てくれるみたいだ。

 江陵方面も落ち着いたらしい。運べなかった軍需物資を、持って合流してくれるみたいだ。

 こうなると、数日待ってから合流した方がいいかもしんない。

 ここで、司馬炎君と賈充君が来た。


「夏口を降しました。後顧の憂いは、取り除いてあります」


「ご苦労だったのね~」


 二人の手を取る。

 司馬炎君……、疑ってゴメンね。君は、信頼できる部下だったよ。処さなくて良かった~。王渾おうこん君の件は、忘れよう。


「杜預軍がもうすぐ来るので、魏延軍、司馬炎軍と合流して、柴桑を攻めよっか」


「「「OKっす!」」」


 遅れて、王渾おうこん君が部屋に入って来た。


「陛下! 柴桑の情報を掴んできました!」


 お!? お手柄かもしんないね。


朱績しゅせき丁奉ていほうが、呉軍を纏めて柴桑で待ち構えているそうです!」


「ごふっ!?」


 やっべえよ、呉国最後の名将の二人じゃん。

 それに、王濬おうしゅん陸抗りくこうの四人か。


「【赤壁の戦い】くらいの規模の戦いになりそうだね……」


 主力同士のぶつかり合いだ。

 絶対に負けない戦い方をしたいけど、今が最大のチャンスともとれる。



 俺は、地図を広げた。

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