第45話 夏口

 江陵を出発して、夏口へ向かう。船旅って楽なのね~。次から検討しよう。

 途中で、巴丘を通るけど降伏して来た。兵士は解雇して、太守は、襄陽へ送る。処刑はないので、安心してね。

 略奪などは、させないように沙汰を出す。


「武器だけは、接収してね~。食料は、領民に返していいよ~」


「「「はっ!」」」


 施しを与えれば、反乱も起こさないだろう。短期間でもいい。民衆を味方につけたい。


 ここで、町娘に暴行を働いた将兵がいたので、処した。

 皇帝の厳命だったんだけどね……。

 千人将だったけど、こればかりはしょうがない。自分が悪いんだしね。

 俺、腐っても皇帝よ?

 勅命くらい聞こうね。


 元千人将の拷問・打ち首、晒し首を見て、兵士たちがピリリと引き締まった。

 ちょっとは、役に立ってくれたかな? 彼もあの世で喜んでくれているだろう。



「陛下! 武器の接収が終わりました!」


「ご苦労なのね~、魏延将軍。そんじゃ、出発しよっか」


「はっ。それと柳隠りゅういん傅僉ふせんは、陸路で先行させています! 途中で追い抜くでしょうが、索敵させていますので、道中は安全が確保されています!」


「うん、うん。いい兵法だね~。流石歴戦の猛者だよ」


「……てへ。褒めても、なにも出ませんよ?」


 魏延将軍は、嬉しそうだな。

 後でなにか、宝物でも送ろう。


「陛下……。俺っちもなにか仕事が欲しいっす」


 王渾おうこん君を見る。

 そういえば、最近仕事を与えていなかったな。護衛で引き連れているだけだった。


「そんじゃさ、夏口を偵察して来てよ。ただし、戦闘は避けてね」


「ははっ。夏口と武昌を見て来ますね!」


 王渾おうこん君は、1,000人で斥候を買ってくれた。大船での移動だ。


「陛下……。良かったのですか? 噂として、命令違反する奴だとか、聞こえていますが」


 魏延君……。君がそれを言うかね。


「猪突猛進なとこもあるけどさ。そこそこは、優秀なのよ」


 史実で彼は、呉国皇帝の孫晧を捉える一人なんだよね。

 対呉国において、外せない一人かもしれない。


「まあ、斥候くらいなら大丈夫じゃない?」


「……そこそこですか。陛下が、そう言われるのであれば」


「そんじゃ、出発しよう。水軍をよろしくね~」


「はっ! 皆の者! 出航だ~!」


「「「おおお!」」」


 なんか魏延軍は、暑苦しいのね……。士気が高いのは、いいんだけど。





 長江を下って行く。

 陸軍が先行してくれていたので、妨害もないな。

 途中で雨が降ったので、船を岸に寄せる。まあ、全行程は四ヶ月を予定しているんだ。史実の羊祜と杜預の計画を模しているので、遅れることはあっても、早まることはないと思う。

 天候次第で、船を進めない日もあるよね。


 川が大波を立てている。無理に船を進ませて、転覆させるのは避けたい。

 特に兵糧船もあるんだ。10万人以上の水軍なので、消費も馬鹿にならない。

 兵士たちには、上陸させてテントで休ませる。


 俺は、独りで大船の指揮官室にいる。窓から外を見ていた。

 こんな時は、三国志知識を検索するに限る。


「気になるのが、王濬おうしゅんだ。まだ、捕まっていない。何処にいるのかね……。本当に夏口を守っているのであればいいんだけど」


 史実では、水軍を率いるのが、王濬おうしゅんだった。現在は、魏延に変わっているけど。

 確か、7万人の軍勢で長江を下るんだよな。


 それと、総司令になるはずの賈充かじゅう君だ。今だ頭角を現さない。

 杜預君が、登用していたんだけど、下級役人で止まってんのかね? 今回は、間に合わない? 呉国と開戦するのであれば、事前に役職を上げておくんだった。


「24年の差は、大きなズレを生み出してるのね~」


 最後の大物として、陸抗りくこうだ。

 杜預は、陸抗の死と交州の反乱を待った。

 こればかりは、俺も読めないな。


「陸抗が、何処まで優秀かによるよね……。三国志最大の水戦があるかもしんないな。【赤壁の戦い】以上かもしんないな」



「陛下、雨が上がりました! 出航できます!」


 魏延は、出航できると判断したんか。

 まだ、波は高いけど、急ぎたいのもある。


「うん。出航をお願いね~。それと、周囲の警戒も怠らないようにね~」


「「「はっ!」」」


 もうすぐ、夏口だ。

 そういえば、王渾おうこん君は、何処まで行ったのかね? 戻って来ないんだけど。



 王渾おうこん君は、夏口目前で船を止めていた。

 俺……、偵察って言ったよね? 戻って来て、報告してよ。


「あっ。陛下!」


王渾おうこん君……。なにしていたの?」


「夏口は、司馬炎殿が包囲しています。兵を割いて武昌と柴桑の情報を集めていました。ちょっと、情報統制がすごくて、放った密偵が帰って来ないんっす」


 ふむ……。まあいいか。


「夏口の様子は、どう? 落とせそう?」


「司馬炎殿の部下の、賈充殿が凄いらしいです。平地戦で呉軍を打ち破って今は攻城戦に移ったのだとか」


 ここで出て来た、賈充君。歴史に埋もれなかったよ。

 残っているのは、王戎おうじゅう胡奮こふん司馬伷しばちゅうとかだけど、台頭するのを待っている状況じゃない。もしかすると、若すぎるかもしんないしね。

 蜀漢国出身の将軍も残っているし、呉国滅亡戦はトレースできている。

 王戎おうじゅう胡奮こふんの代わりは、司馬炎君になりそうだけど、大丈夫だと思う。武昌に陸軍を派遣してくれているし。

 問題視しているのが、王渾おうこん司馬伷しばちゅうの代わりとなる、楊儀君だ。かなり、怖いな。司馬昭君がフォローしてくれると信じよう。羅憲らけん君のフォローも期待かな。


王濬おうしゅんは、見つかった?」


王濬おうしゅんですか……。柴桑に向かったとの目撃情報があります。なぜ陛下は、あんな小物を気にかけているのですか?」


 まだ頭角を現していないだけなんだ。

 やっぱり、史実と異なり、柴桑で一大決戦になりそうだね。



 数日攻めるけど、夏口の城は抵抗を続けている。しかも、王濬おうしゅんは姿が見えないらしい。逃げたのか、そもそもいなかったのか……。

 徹底抗戦されているね。優秀な敵って嫌なのね~。計略仕掛けて来るし、思い通りに動いてくれない。


「司馬炎君と賈充君、任せてもいい?」


 夏口の城は、もう数日で落ちると思う。敵に思考時間を与えたくない。


「「はっ! お任せください!」」


 夏口にも数万の兵士を残して、俺は移動した。大船団が長江を埋めて移動を開始する。乗せられない歩兵は、対岸を移動している。今のところ順調だ。


 夏口と武昌は近いので、すぐに見えて来た。

 俺は、武昌の城を見つめた。


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