第50話 建業

 魏延軍が対岸に上陸して、三日で柴桑城が落ちた。

 降伏して来たのは、極少数だ。

 敵将は、全員討ち死にしたみたいだ。遺体は、丁寧に葬って貰う。


「投降兵は、解放してね~。暴力厳禁ね~」


 俺がそう言うと、投降兵たちは、お礼を言って各地へ散って行った。

 手当をして、食料を持たせたので大丈夫だと思う。


「よろしかったので? 後から陛下を狙って来るかもしれませんが?」


 司馬炎君からだった。

 刺客か~。孫策とか、それで死亡してるからね。


「それは、朕が警戒していればいいだけだからね~。それよりもさ、陸抗たちの最後を呉国に伝えて欲しいのよ。全員討ち死にだからさ、記録に残らないかもしんないじゃん? 口伝でもいいので、英雄の最後を残したいのよ」


 司馬炎君は、理解できないみたいだ。

 でもね、正史三国志は、三国志平話さんごくしへいわとかを纏めて編成されたのよ。

 誇張でもいいので、記録を残しておきたい。

 勝者側の視点だけだと、陸抗が愚か者に書かれるかもしれないからね。

 俺は、三国志演義の被害者の一人でもあるんだ。

 呉国だと、被害者は周瑜かな? 諸葛丞相の引き立て役として、描かれている。

 『天はなぜ、同時代に~』のくだりは有名だけど、本人が言う訳ないじゃん?

 陸抗は、演義でも立派な将軍として描いて欲しいのが希望なのね。


「さて、建業へ向けて進もっか。もう障害はないっしょ。姜維君が、苦戦しているかもしんないしね」


「「「はっ!」」」


 羊祜君と杜預君、賈充君とは、ここで分かれる。賈充君の戦略を実行して貰うためだ。

 3人は、荊州と揚州の各拠点の攻略に向かったよ。


 司馬炎君には、柴桑の防衛を頼む。司馬炎君曰く、柴桑を中心にして、荊州と揚州を監視したいのだそうだ。

 負傷兵もかなり多い。ここで、半分が離脱かな。大激戦になってしまったね。

 でも、まだ蜀漢軍は、20万人以上の兵士がいる。


 魏延君を先頭として、長江を下って行く。

 廬江ろこうとかあったんだけど、陸抗が兵士を引き抜いたので抵抗なく開城したらしい。

 途中で姜維軍と合流した。

 姜維君は、戦闘らしい戦闘がなく不満を募らせているらしい。来るのが遅かったかもしんない。


 だけど、その後も抵抗する城はなかった。

 陸抗の死が、呉国の心を折ってしまったみたいだ。





 建業に着いた。着いちゃったよ。ついにここまで来た。呉国の首都だよ。

 建業を包囲していた、羅憲らけん君と楊儀ようぎ君が来たよ。それと、最後に司馬昭君だな。こちらに来ていたのか。


「皆、ご苦労だったのね~。柴桑に手こずったけど、合流できたよ」


「「「はっ!」」」


 報告を聞く。

 まず、合肥新城を落として長江を渡ったら、平地戦となったらしい。

 それを、羅憲らけん軍と楊儀ようぎ軍が蹴散らして、建業を包囲してるとのことだ。司馬昭君は、全体の指揮だそうだ。


「孫権は、ボケています。包囲して兵糧が尽きるのを待ちましょう! 建業の民が騒ぎ出したら終わりです」


 司馬昭君の策を採用する。

 もうこれ以上、兵士を死なせたくない。将軍の中にも負傷者が出ているしね。

 李厳君みたいな無謀な特攻は、もう嫌だし。


「もう急ぐ必要もないしね~。包囲をよろしくね~」


 姜維君が、建業以外の地を平定したいと言って来た。それならば、賈充君に合流すればいいと言ったんだけど、独自裁量権を与えたので、従えないのだそうだ。

 虐殺をしないことを条件に、揚州の平定に向かわせる。特に海岸地域だ。春秋戦国時代の呉の地に向かわせた。会稽郡だね。孫権が逃げるとしたら、呉の地しかないと思いたい。

 後は、長江を下って海に出るのもありかな? 燕の地はもう降っているし、朝鮮半島で旗揚げもないと思う。

 考えられる限りの、包囲を行ったと思う。これで逃げられて、再起を図られたら、俺の手腕を疑われそうだ。





 建業を包囲して、一ヶ月が過ぎた頃だった。

 王渾おうこん君が、突撃して城壁を登ったよ。皇帝の命令って知ってる?

 帝が言うから、『諦める』んだよ?

 何度目の命令違反だよ。

 だけど、これは王濬おうしゅんの役目でもあったんだよな。

 王渾おうこん君は、弾劾する役目だったはずだ。結局は同類だった?

 それと、姜維軍が突撃してる。呉の地は、簡単に平定してしまったので、戻って来たのか? それと、君たち話し合っていたね?


 一番外側の城壁を開けられただけで、建業は大騒ぎだよ。


「守る武将もいないんかね……」


 混乱した兵士が、襲いかかってくるけど、各個撃破する。

 もうここまで来たら、蜀漢国の兵士は、精鋭になってるよね。

 将軍たちも歴戦の猛者だけだ。

 負ける要素がなかった。


 次々に敵兵を屠って行き、建業の宮殿を目指す。

 ここで、孫権が出て来た?


「なにをしている~! 蜀漢軍を追い返せ~! 下がるな~! 戦え~!」


 本当にボケているのね……。

 サクッと孫権を捕獲した。監獄車に押し込んでも騒いでいるらしい。

 ダメだね、ボケ老人だよ。



 建業の文武官と領民は、降伏して来た。

 虐殺とかしないように沙汰を出す。もう、戦乱の世は終わったことを伝えないとね。

 後は、元呉国各地の平定かな~。羊祜君と杜預君、賈充君が走り回っていそうだ。信頼しているし、任せよう。


「そんじゃ、帰ろうか。皆、所領に帰ってね~。今小さい反乱でも見逃すと、消すのに苦労すると思うんで」


「「「陛下、打ち上げしましょうよ!!」」」


「洛陽に帰ってからね~。どうせだから羊祜君と杜預君、賈充君の手伝いをしてさ、皆で帰ろうよ。打ち上げは、その時にね。禅譲の儀が終わってからかな~」


 全員が笑った。

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