第19話 停滞

 情報収集の日々が始まった。

 つうか、これしかすることがない。


「う~ん。後、大物って言ったら、羊祜ようこ鍾会しょうかいかな~。鄧艾とうがいも忘れちゃいけない」


 羊祜ようこは、杜預とよの前任に当たる、対呉の防衛の要だった人物だ。でも、陸抗りくこうに負けて、降格処分を受けているんだよな~。そこまでは、時間が進んでないんだけど。

 鍾会しょうかいは、蜀で独立を企むけど、姜維と共に処刑された。でも、蜀漢を滅亡に追いやった人物でもある。

 鄧艾とうがいは、司馬懿に認められるんだけど、最後はおごりが祟って処刑されるのよね。蜀攻略の最大の功労者なんだけどね。


「人材登用……、いけっかな~」


 とりあえず、3人との接触から計ってみるか。

 密偵を送り込むことから始めた。





「う~ん、羊祜ようこは若すぎるし、鍾会しょうかいは、郭淮の右腕になってんのか~。鄧艾とうがいは、呉国に行ってんじゃん」


 現時点で、内乱を起こさせるのは、無理があるよね。

 登用も難しそうだ。一族連れて来てくんないといけないし。


「陛下……。焦り過ぎかと。それと、どんな人選ですか? 特に鄧艾とうがいは吃音があると書かれていますが?」


「そうよね~。兵士も物資もあるけど、動いたら失いそうなのよね~。こちらも防衛が最適かな~」


 蜀漢国は、長安と襄陽、太原とってんだし。

 攻めることはできるけど、勝てるとは思えない。

 無意味に戦端を広げたら、物資の浪費になってしまう。


「雍州と涼州は~? どんな感じ?」


「良好な関係にあります。隴西地方も安定しております」


「成都は~?」


蒋琬しょうえん董允とういんが、亡くなっています。丞相は、費禕ひいのままです」


 ああ、そうだった。もうそんな時期か……。馬岱ばたいも亡くなってんだよな~。

 国葬を指示したんだけど、全員が辞退の書を残していた。

 葬式は、質素にって……。全員、最後まで国を想ってくれる忠臣だったのね~。


 若い芽も出て来てるけど、人の命数は変えられない。

 ちなみに費禕を殺害する郭循かくじゅんは、ぎょうにいる。こいつの動向からは、目を離さない。


 彼等は、曹操びょうに倣って、俺が天下統一した暁には、二十五功臣にしよう。

 ちなみに、父劉備時代の人物は選ばないよ~。

 後世の歴史家たちが文句言っても聞かない。俺は、諸葛丞相が成し遂げられなかった、長安陥落まで達成したのだ!

 あ……、でも諸葛丞相と五虎大将軍は入れないと、歴史家にアホと言われそうだな。陳寿は、生まれていそうだけど、まだ若いはずだ。

 まあ、その時になったら、考えよう。


 ……話が逸れたので、現状に目を向けよう。


「誰か、反乱でも起こしてくんないかな~」


「それでなのですが、公孫淵が止まっております。渤海郡までは進んだらしいのですが。なんでも物資不足なのだとか」


 ほう?





 俺は、公孫淵に使者を送った。


『冀州を落としてくれれば、資金援助します。劉禅より』


 すぐに返事が返って来た。


『食料が足らんとです。公孫淵より』


 う~ん……。渤海郡までは遠いな~。

 呉国なら、船で送れるけど、公孫淵君って、呉国に不信感を持たれているんだよね~。

 魏国についたり、呉国に尻尾振ったりしてるからね。


「呉国は……、動かないだろうな~」


 呉国は、防衛に徹していれば、まだまだ持つ。

 何度か魏と交戦しているけど、守りきっている。

 賢いとも言える。孫権がボケる前までだけど。


「匈奴との交渉は、嫌だな~」


 歴史的に、良く裏切るし。信用できない。


「しばらくは、北伐を停止させるか~」


「それが賢明かと、今の内に内政の充実と、人材の発掘を行うべきでしょうな」


 今の時代に、在野に誰かいたっけ?

 もう人気ある武将って、皆死亡してんのよね。





 また数年が過ぎた。

 魏国は、危機感を持って、内政を行っているらしい。本来であれば、反乱を起こす4人が中枢を握っているんだし、つけ入るスキがない。

 曹爽みたいなのがいてくれないと、攻め込めないな~。

 呉国は、まだ孫権がボケない。もうちょっと待とう。


 とりあえず、若い羅憲らけん君を見つけた。

 羅憲らけん君は、蜀漢国滅亡後も呉国から永安城を守り続けた人だ。忠誠心の厚い人とも、頭の固い人物ともとれるけど、人材としては、申し分ない。晋に仕えてからも、重用された人だし。



 ここで、匈奴が動いた。

 太原に攻め込むのかなと思ったのだけど……、迂回して魏の西河、晋陽に攻め込んで来た。并州だな。李牧で有名な雁門の南だ。

 そんで、蜀漢国には、貢物として、羊千頭を送って来たよ?


「どうしたら良いと思う? どんな意図があるのかな?」


「受けちゃっていいのでは? 暫く静観してましょうよ。蜀漢国にしてみれば、どちらに転んでも負けはありません」


 司馬師君は、静観か~。


「我らが蜀漢国も攻めるべきばい! 今しかござらんたい!!」


 羅憲らけん君は、攻勢に出たいらしい。


 さ~て、どうすっかな~。

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