第20話 魏国と匈奴

「平地だと、匈奴軍は強いのね~」


 密偵からの報告が来た。

 出陣した魏軍は、敗走していた。だけど、攻城戦になると話は別だ。

 匈奴軍は、包囲するだけで周囲の村を襲うに留まっているみたいだ。


「攻城兵器がないんかな? 井闌車せいらんしゃを貸してみる?」


「お止めください。数年後に、こちらに矛先が向かうとも限りません。知識を与えるべきではないかと」


 もっともだ。

 匈奴からは、援軍の要請も来るけど、静観とした。


「二虎強食の計っすな。匈奴の撤退後に、魏国に攻め込みましょう」


 司馬昭君を見る。


「匈奴が、城を落としちゃったら?」


「それこそ、望むべき未来かと」


 そうだな~。并州の一郡でも落としちゃったら、魏国も南に配置している将兵を北上せざるを得ないだろうし~。

 もうちょっと待つか……。





「ええっ? 公孫淵君と匈奴軍が同盟?」


「はっ。雁門に向かっているそうです」


 地図を広げる。


『匈奴としては、春秋戦国時代の李牧にボコられた地だよな。公孫淵君は……、中山をとれば、雁門まで距離が近い』


 うん。戦略として成っているね。

 城を落とせればだけど。


「魏軍の動きは? 黙って見てはいないんでしょ?」


「袁州の兵を導入して、防衛に当たるみたいです。李豊りほう夏侯玄かこうげん張緝ちょうしゅうの名が上がっております」


 あ~。司馬師君を殺そうとする人達だね~。野望か忠義かは、分かんないけど。

 まあ、妥当かな~。でも、中央に兵がいなくなる。今内乱起きると、魏国は危ないな~。

 でも、内乱を起こす人材が、国を運営してんだし……。

 でもでも、この時期の曹芳そうほうは幽閉されてんだよね。司馬懿がいなくても、幽閉される曹芳そうほう。どんだけ人望がないのよ。まだ若くて、実績も実権もないんだろうけど、傀儡そのままだね。


「曹家に忠誠を誓う人材がいれば、内乱が起きても鎮圧できるんかな?」


「それなのですが、曹芳そうほうに人徳がありません。遊んでいるみたいっす。忠臣はいないでしょうな」


 魏国は、もう終わりかもしんない。





「え~。雁門が落ちたの~?」


「はっ。幽州の攻城兵器を手に入れた公孫淵が、雁門に合流して、落城させたそうです」


 公孫淵君は……、アホなんかな。

 技術者が匈奴に協力なんてしたら、中華の地なんて駆逐されてしまうぞ……。

 攻城兵器を持った匈奴軍……。考えたくもないよ。


「それと、中山と晋陽も侵攻しているとのこと」


 これで、東西の補給線が繋がったね。

 并州と冀州は、かなり危ない。魏国は、北の領土をとられちゃうぞ?


「そんで、魏の李豊りほうたちは? 攻めているんでしょ?」


「20万人の軍勢で、常山を拠点にして防衛しているみたいです。雁門を捨てて、逆襲を狙っているものと思われます」


 常山は、中山と晋陽の間の城だ。

 今の魏国は、隙だらけだね。内乱はないけど、外敵に対応できないのか。


「そんじゃ、北伐を再開しよっか。今なら行けるっしょ」


「「「はっ!」」」





 まず、公孫淵君に手紙を書く。


『ちょっと華北と中原を攻めるので、足止めをお願い。劉禅より』


 数日後、返事が来た。


『OKよ~。つうか兵糧を融通してよ。公孫淵より』


 よし! これで同盟が成った。


 俺はまず、井陘せいけいの山道に向かった。韓信が選んだ作戦だね。

 少しずつ、兵士を送って行く。


「趙統君。ご苦労だったのね」


「ありがたきお言葉」


 ここからは、華北と中原だ。旧趙国の地。并州、冀州、兗州が近い。


「趙統君。何処でもいいから城を落として行って。それと、井陘せいけいの山道を取られたら、北回りに太原に帰ってね」


「了解っす。でも守る兵士もいないだろうし、苦戦はないと思うっす」


「油断大敵だよ?」


「心得ているっす。これでも、趙雲の子ですたい」


 うん。大丈夫そうだ。

 その後、太原経由で、長安に戻る。


「北伐の再開ね。黄河の北側を進もうか。攻撃目標は、魏曹家の首都であるぎょうよ~」


「「「OKっす。待っていたっす!」」」


 特に羅憲らけん君の鼻息が、荒いのね。

 若いのに大抜擢したから、活躍の場を望んでいるのかもしんない。

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