第38話 報告と論功行賞
司馬昭君が帰って来た。
「遅くなりましたが、烏桓族と燕国を征伐して来ました」
「遅すぎる! 陛下の兵を借りておきながら、なんたる体たらくだ!」
司馬兄弟が言い合いを始めた。
こう……、天才同士だからかな、誰も口を挟めないよ。
高度な戦略戦で口論されても、俺も理解できないんだけど。
「孫氏曰く、xxxxでありyyyなのだ!」
「そこは、太公望の述べたzzzであろう!」
……誰か止めてよ!
「ごほん! お二方、続きは屋敷にて行いなされ!」
費禕君が止めてくれたよ。
さて、纏めるか。
「曹操もさ、烏桓族討伐には、半年かけたんだしさ、十分じゃない?」
「陛下! 甘やかしすぎです! 烏桓の本拠地の柳城にまで行ったのではないですよ?」
「柳城は、曹操が破壊したはずだ!」
「確認したのか!」
また、司馬兄弟の口論が始まった……。
とりあえず、論功行賞は後回しにして貰って、別室で話し合わせることにさせた。
「ふう~。天才が二人いるのも考えモノだね」
「……別々に配置するのがよろしいでしょうな。司馬師殿を相国にしているので、司馬昭殿は、対呉国の指揮官とか」
そうなるか……。
まあ、後から考えよう。
論功行賞を再開する。
「鍾会、羊祜、孫礼、王凌、前に」
「「「「はっ!」」」」
褒美として宝物を渡す。
「これからも期待しているのよ~」
「「「「はっ!」」」」
鍾会君には、そのまま薊の太守を任せる。加増として遼東までの守備を任せた。
羊祜君は、荊州の襄陽に移って貰う。対呉国の要だね。杜預君もいるので人選的には、これ以上ないだろう。
王凌君と孫礼君は、寿春だ。まだ反乱が起こらないとは限らない。
「残りは、呉国だけなのね~。でも慌てないでね~。匈奴にも備えながら、内政を頑張ろう!」
「「「はっ!」」」
文武官が、一斉に敬礼してくれた。
司馬炎は、こんな光景を見ていたんかね?
「……そういえば、司馬炎は今なにしてるんだ?」
◇
夜になり、政務は終わりとした。
本当は、後宮で食事の時間だけど、今日は離宮に食事を運ばせた。
そして、人を呼んだ。
「お呼びとのことで、まかり越しました」
「待ってたのよ、司馬炎君。さあ、座ってね~」
今日は晋で皇帝になるはずの、司馬炎君を呼んだんだ。
問答無断で処してもいいかもしんないけど、反乱を起こさないのであれば、重用したい。
「はあ~。父と叔父がご迷惑をおかけしております」
「もぐもぐ。うん? 天才同士だし、あんなもんじゃない?」
「戦略を論じ始めると止まらなくて……。三日三晩議論し合ったこともあったそうです。母も叔母も呆れていて……。従弟(本当は兄弟)の司馬攸も諦めています」
口論が、過激すぎるのか~。
司馬家内でも、問題があるんだな~。
兄弟仲が悪いわけでもないんだろうけど、天才過ぎて誰も止められない。
そう思うと、司馬炎君は普通だ。
その後、司馬攸君も呼んだ。
三人で食事をする。
話していて分かったけど、二人共温厚だ。あの司馬兄弟の子とは思えない。実際は、司馬昭君の子供なんだけどね。
二人共、どちらかというと、文官向きだね。
「もぐもぐ。二人共、司馬昭君について行ったんだ?」
「はっ。烏桓族討伐と燕国征伐に同行しています」
「詳細を教えて」
「烏桓族は、攻め込もうとして集まっていたところを逆に奇襲しました。そうしたら、バラバラに逃げられてしまい、各個撃破するのに時間がかかってしまいました。こちらは、司馬攸が同行しております」
司馬攸君を見る。
「雨期に入る前までは、順調だったのですが、雨期に入ってから進軍が止まりました。司馬昭は、雨期及び冬季は避けたのです。その間に、燕国討伐を行うことになりました」
ふ~ん。曹操の『白狼山の戦い』の資料を取り寄せていたけど、行軍は見合わせたのね~。
あれは、過酷だったと読んだことがある。
郭嘉もその後に死亡してるしね。
「燕国は、どうだった?」
「兵を集めて一大決戦を挑んで来ました。ですが……、司馬昭は、回避しました」
「もぐもぐ。そんで?」
「燕国の兵糧が尽きました。その後に、領内で略奪が始まり、燕王及び公孫氏は、統治ができなくなり、匈奴の土地へ落ち延びたと聞きました。蜀漢軍は、遼東城に入り復興を行って燕国征伐は終わりです」
「戦わなかったの?」
「はい。自滅を待ちました」
ふ~ん。司馬昭君は、情報戦に長けてんだね。
それに『戦わないのが上策』を地で行っているよ。
「次に、春まで待って、再度の烏桓族討伐となります。鍾会は、不要と進言したのですが、司馬昭は、強行しました」
おお……。まだ進軍したんだ。連戦続きじゃない?
「無終という土地まで進軍したのですが、道を閉鎖されておりました」
曹操と同じだね~。
「ですが、冬でもなかったので各砦を撃破して道を通れるようにしました。道の封鎖ですが、正直木材を置く程度でしたので、雨期でもなければ、障害にもなりませんでした。馬が通れるようになると、鳥桓族の街を襲えるようになって、一方的でした」
ごふっ……。
曹操以上だね。
「そうしたら、単于から手紙が届き、和睦が成立しました。雁門方向にも攻め込まないと、約束させました。何処まで信じられるかは疑問ですが、陛下が生きている間の侵攻はないと思います」
そうなるんだ……。
「公孫氏の数名が引き渡されて、斬首して終わりとなっています。もしかしたらですけど、燕王がいたかもしれません。燕王は、戦死したとも噂されています。その……遺体の確認はできませんでした。ですが、子と妻を捉えたので、再起はないと判断しました」
「あんまり戦わなかったんだね~。激戦は無いように聞こえたよ」
「正面からの戦闘は、少なかったですね。斥候と制圧が、主任務でした」
司馬昭君も、大物だね。魏国を乗っ取っただけあるよ。
司馬氏は、俺の死後が怖いな~。
宮殿の方向を見る。
「まだ、議論してんのね……。怒鳴り声が聞こえるよ」
「「あれは、力尽きるまで終わらないでしょう。御迷惑をおかけします」」
司馬氏にも、問題があったか。
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