第37話 郭淮と曹芳

 洛陽に、郭淮と曹芳が護送されて来たよ。

 民衆が石を投げている。それって、朝鮮の風習じゃない?

 でも、民衆の行動なんて、どこの国も同じか。


 まあ、分かるかもしんないな。

 最も悪かったのは、先代の曹叡の時代だもんね~。

 それを引き継いだ、曹芳に恨みがあるよね~。


 宮殿の建造とかで、民は疲弊してたんだよね。浪費が激しかった時代だったんだな。民衆目線だと、こんなんなるのか。

 俺は、そこを突かせて貰ったので、良く知っている。

 そして、戦争で負け続きだった。支持率低下は、避けられないよね~。


「曹叡は、人気なかったのね……」


「そうなります。我々も、罷免されたので……。父の司馬懿を悪く言われたので、見限ったのもあります。先が見えていませんでした。そして……、曹芳は母親が不明なのです。それはすなわち、曹叡の実子かどうかも怪しくなります」


 俺も気をつけよう。戦争で浪費していると言われると、反論できない。

 勝ち続けてはいるけど、将兵を多く死なせている。

 そして、最近は前線を任せているし。


 司馬師君は、悔しそうだな。ぶつぶつと、恨み言を吐いている。

 でもそっか~。蜀漢国の諸葛亮だけじゃなかったんだ。魏国も司馬懿っていう、大黒柱に支えられていたんだな~。



 護送車で、郭淮と曹芳が宮殿まで連れて来られた。

 縛られており、敗軍の将って感じだ。


 郭淮は、もう老人であり、反対に曹芳は、若いんだね。二十歳くらいかな?

 引きずられて、広場に跪く二人……。


「郭淮と曹芳で間違いない?」


「……。はい、両名とも本人ですね」


 司馬師君の確認もとれた。

 俺は、玉座から降りた。


「陛下?」


 そのまま、歩いて二人に近づく。

 近衛兵が、俺の周囲を守ってくれているよ。


『これが、魏国の郭淮か……。目が鋭いね。反対に曹芳は、諦めている感じだ』


「なんか、言いたいことはある? つうか、何処に隠れていたの?」


「……殺せ」「……」


 郭淮からだった。曹芳は、震えているだけだ。

 でもそうだよね。帝位についてからは、蜀漢国に怯えるだけの日々だったはずだ。

 若くして帝位に着いたので、皇帝としての教育は、受けていないかもしれない。


 郭淮も名将だけど、雍州を守護する程度の器でしかない。丞相は無理だと思う。司馬懿の後継者としては、頼りなかったとしか言えない。

 他の逃げた文武官に比べれば、忠誠心があるのは認めるけど。


「うん、興味がなくなった。もういいや。屋敷与えるからさ、まだ生きてよ。軟禁になるけど、生活は保証するね」


 二人が顔を上げた。信じられないといった表情だ。


「「「えええ!? 陛下!? 処さないのですか!? 正気ですか!?」」」


 まあ、皇帝どころか、王を名乗って敵国に捕らえられた時点で終わりだよね。

 でも、生きて貰おう。

 史実の劉禅は、このタイミングしかないって時に降伏して、助命嘆願を受け入れて貰えているしね。


 考えていると、郭淮が泣き出したよ。


「この歳で、まだ屈辱を受けて生き延びろと言うのか!」


 どうやら、戦場で死にたかったらしい。


「曹芳を見捨てられなくて、生き恥を晒したんでしょ? 最後まで、忠誠を尽くしなさいよ。命尽きるまで、主に付き添うのが忠誠じゃない?」


「……」


 郭淮は、崩れ落ちてしまった。

 今後は、軟禁生活だけどゆっくりして貰おう。たまには、酒宴に呼んであげるからさ。


「あの~。玉璽ですか?」


 曹芳を見ると、視線を逸らされた。

 小心者みたいだ。


「玉璽ね~。持っているの?」


「いえ……。売ってしまいました」


 残念以外の言葉がないよ。国宝を売るなよ。聞いたことがないよ。

 話を聞くと、商人を通じて呉国に渡ったのだとか。

 孫権が持っているみたいだ。





 夜になり、一人で夜風に当たる。

 そうすると、費禕君と司馬師君が来たよ。


「曹芳から、話を聞きました。玉璽ですが、生活費を工面するために手放したそうです。買い取ったのは、呉国の将兵みたいですね。今頃は、孫権が持っているのでしょう」


 売るなら、俺に売って欲しかったな~。

 面倒ごとが、また一つ増えたよ。でも、シミュレーションゲームじゃないんだ。あってもなくても一緒かな?


「陛下……。何故、生かされるのですか? まだ、魏国の忠臣が残っていて、奪還に動き出すやもしれませぬ」


 費禕君は、やっぱり気になっていたんだな。

 でもさ、来ないと思う。奪還しても何処で立ち上げを行うの?

 史実の劉禅は、酒宴で恥かいたけどさ、逃げ出すどころか、楽しんでいたんだよ?

 まあいい。話を進めよう。


禅譲ぜんじょうの儀が、必要だと思ったのよ~」


 費禕君と司馬師君が、ハッとする。

 前に行われたのは、献帝と曹丕の間だもんね。知ってるよね~。


「流石です、陛下。承知しました。献帝も洛陽に呼んでおきます」


 漢国の献帝か~。そういや、まだ生きてんだね。


「うん。お願いね~」


 後は、王朝の正統性を保証する演出をしないとね。

 司馬懿が考えたんだけど、簒奪は良くないよね~。


「三国に分かれた、この国の権力を統一したっていう証明か……。朕にできるんかね?」


「「劉禅陛下以外にできる者などおりませぬ!」」


 はっきり言われると、照れるよね。

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