第16話 今後の方針

 長安に着いた。

 成都よりも大きな都だな~。高祖劉邦の都だ。

 前漢の時に建てられた都だ。近くに秦国の咸陽があったんだけど、項羽が燃やしちゃったのよね。その後に、洛陽に遷都した。

 俺的には、長安の方が防衛力は高いと思う。黄河と渭水に守られて、秦嶺山脈と太行山脈の天然の要害もある。

 それにここからならば、中原へ向かう場合、進路を好きなようにとれる。戦略の幅が、大きく広がったよね。


 司馬昭君は、屋敷を用意してくれていた。

 それと、会議を行う場所もだ。


 位置の高い椅子に座る。新しい玉座だね。


「そんじゃ、報告をお願い」


「はっ。まず長安ですが、情勢が不安定です。断続的に魏国が攻め込んで来ており、また、匈奴も家畜をかっぱらって行きます。もうね、匈奴は盗人ですよ!」


 ふむ……。ここは、最前線なのね。

 話し合った結果、魏函谷関の奪取が最優先なんだと結論が出た。潼関だけでは、ダメっぽい。魏函谷関を閉ざすと、東西の行き来ができなくなるとか言われてるのよね。関所を奪って、始めて長安の防衛が安定するのか。

 それと、匈奴の領地が近いのよね。


「匈奴は、どうしたら良いと思う?」


「相手は騎馬民族です。そして、太原までは、平地が続いており地形的に不利に当たります。戦うとなると平地戦になるのですが、大きな損害が出そうです」


 万里の長城を抜かれた時点で、止められなかったのね。

 董卓とか献帝、曹操は、戦わなかったんだな~。


「う~ん……。匈奴が邪魔だよね~。撤退させたいね~」


「陛下。魏国のみに戦力を集中した方が良いかと……」


 司馬昭君を見る。

 それほど脅威なんだね~。


「それと、呉国になります。陸遜が死亡したとのこと。ですが、子の陸抗が重用されたとの報告が上がっております」


 ふむ……。【芍陂の役しゃくひのえき】もどきがあったからね~。【二宮の変】も連動している。結局は、処刑されちゃったか。陸抗君は、引き抜きたかったな~。来てくれる要素がないけど。

 曹爽君が大敗して、魏国でクーデター起こされているし、もうそんな時期だよね。

 ここから、孫権が本格的にボケ始める。いや、もうボケ始めている。

 呉国は、もう少し待つと大混乱になるんで、放置だな。


「襄陽方面は?」


「防備を堅められています。攻め込んでも落とせるかどうか……」


「そうすると、皆の意見は、魏函谷関攻略かな?」


「「「そうなります」」」


 結論ありきの軍議だったか。今日の会議は、ここまでとした。





 外に出て、風景を眺める。


「今俺は、諸葛丞相ですら成し遂げられなかった風景を見てるのよね~。でも春秋戦国時代から考えると、中華の地の半分をとった王って結構いるのよね~」


 ここで満足していては、先帝に顔向けできない。諸葛丞相にもだ。

 天下統一して、先帝と諸葛丞相の墓参りに行くのが、俺の役目だ。


「陛下……。何をお考えですか?」


 司馬師君が、質問して来た。


「魏函谷関は、防衛を硬めてそうだよね~。そんなとこに攻め込むのは、時間の無駄かな~って……ね」


「……匈奴に攻め込みますか?」


 皆は、魏国の領土を獲りに行きたいみたいだけど、俺は匈奴方面が気になる。

 司馬昭君は、俺の意図を読んでくれる。いい軍師だな~。

 司馬炎の晋が起こっても、中華の地の半分は、匈奴に取られちゃうんだよね。まあ、晋の皇帝たちが悪いんだけど。

 【八王の乱】はないよね~。司馬懿の子孫とは思えない内乱だと記憶している。

 でも……、先手を打ちたいのもある。


「意見具申を……。古いですが、戦車を作ってみてはいかがでしょうか? 騎兵には強いかと」


「同盟は、結べそうにない?」


「匈奴の気性的に、同盟は無理かと……。過去の遺恨もありますし。太原をとられてもう長いです」


 司馬昭君は、長く長安を守ってくれたんだもんね。理解してるか。


「戦端を広げることになるけど、協力してくれる?」


「「御下命ください。必ずや成し遂げてみせます!」」


 司馬兄弟が、賛成してくれた。方針が決まったな。





 戦車の増産が始まった。チャリオットだね。

 それと、襄陽と魏函谷関には、時々出兵する。一戦だけ交えて帰って来て貰うのだ。

 これだけで、兵士を維持する必要があり、兵糧が減って行く。ここは、春秋戦国時代の、呉国の伍子胥ごししょの兵法だよね~。


 呉国は、新体制になって内政に注力しているんだそうだ。

 まだ優秀な人材を多く抱えているので、手を出すと火傷しそうだな。

 刺激しないのが一番だ。崩れるまで待とう。

 そのうち粛清の嵐が吹くはずだ。


 今は、魏国と呉国は動けないと思う。

 南下して来た匈奴の討伐に、全力を注ごう。

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