第18話 井陘の山道

 井陘せいけいの山道は、商人が使っていた。

 軍隊は、見られなかったのだ。魏国も匈奴も防衛しないのか?

 しかし狭い。馬2頭で移動するのがやっとの道だ。


「う~ん。誰も史記を読んでないのかな~。韓信が使ったと思うんだけど~?」


 この道を使うと、一気に華北と中原に出ることができる。前漢の韓信かんしんって、細い道が好きよね~。陳倉道もそうだし。

 こそこそと奇襲するのには、いいのかもしんない。


 とりあえず、道の出入り口を封鎖して兵士を置くことにした。


「趙統君。任せていい?」


「了解っす。お任せください」


 うん、うん。いいね~。いいね~。信頼できるね~。

 物資は太原から運ばせる。補給も繋がった。


「そんじゃ、朕は長安に戻るね~」


「はっ! お供します」


 こうして、太原攻略が終わった。司馬師君と共に長安へ帰る。





 長安に戻ると、魏軍はいなかった。

 なんかあったの?


「司馬昭君。どうなったの?」


「匈奴が去り、魏軍は半分が戦死いたしました。そして、襄陽を取られて、華北と中原に蜀漢の旗が見えたのです。魏国は、一時撤退を選択したのでしょう」


「魏軍を追撃したの?」


「はっ。殿しんがりは、全滅させました」


 なんか……、魏軍が、年々弱くなってるな~。

 指揮官がバカだと、こんなもんかな?


「魏国に人なし……とか言ったら、怒られそうだな~」


「なんの故事ですか?」


「独り言なのよ~」


 大丈夫だよね? 40年以上経っているし。





 各地に斥候を放って、情報収集に入る。

 魏国は、南陽と洛陽、そして魏函谷関に兵士を集め出したらしい。

 これは、呉国に対する警戒でもあるな~。

 そうすると……。


「南は厚そうだから、北か、中央からだね~。何処が手薄かな~?」


「陛下、お待ちを! 罠かもしれません! もうちょっと精査しましょうよ」


 そうかな~。今までの魏国の動きから、罠なんてあるとは思えないんだけどな~。

 ここで、ぎょうからの密偵が戻って来た。


「うん? 魏国の中枢が変わったの?」


「はっ。曹爽が更迭されて、魏皇帝の曹芳そうほうが幽閉されました……」


 え……。驚いてしまう。

 無能のTOP2が、いなくなっちゃったの? つうか、曹爽は、まだ中枢にいたんだ?


毌丘倹かんきゅうけん文欽ぶんきん鄧艾とうがい諸葛誕しょかつたんなどが、政治と軍事の実権を握ったそうです」


 ごふっ?

 全員、魏に反乱を起こす人じゃないですか。司馬懿に処される人たちじゃないですか?

 結託して、このタイミングで政変起こしたの?


「さ~て、困ったぞ……」


 曹叡そうえい曹芳そうほうみたいなアホと、無能の佞臣だったから、ここまでの快進撃ができた。

 無駄に出兵してくれてたし。

 だけど、これから防衛に回られると、これまでみたいな快進撃はできなくなるな~。





 俺の予想は的中した。

 魏軍は、出兵を控えて、守りを堅め始めたんだ。


「……予想外でしたな。せめて井陘せいけいの山道から、城の一つでもとっておくべきでした。そうすれば、華北と中原は騒乱状態になっていたでしょうに」


 う~ん。結果論だね~。


「司馬師君。匈奴の方はどう?」


「再侵攻の兆しはありません。兵力の大半を失っているかと。ただし、援軍が来なければ――の話になります」


 北も気が抜けないな~。匈奴の総兵力なんて、誰も分かんないと思うし。

 それに、単于だ。今は、誰かね?

 有能な人物でなければいいんだけど。


「司馬昭君。呉国はどうなってるの?」


「はっ。陸抗りくこうが、陸遜の後を継いで、安定しております」


 孫権がボケるのは、まだ先か~。


「魏国と呉国が手を組む可能性は――ない?」


「……あり得ないとは言い切れませんね。呉国次第ですが、蜀漢国の勢いを恐れて、手を組む可能性も考えられます」


 まいったね。

 快進撃もここまでっぽい。


「防衛に徹せられると、被害が大きくなりそうだね~。迂闊に手を出せなくなっちゃったよ」


「父司馬懿も執った作戦ですので……。陛下の神采配に対抗するのであれば、これしかないかと……」


 暫くは、膠着状態かな~。

 まあ、焦る事もない。重要な拠点は抑えてんだし。


「そんじゃ、襄陽に援軍を送ってね~。楊儀君だけでは不安なのよ~」


杜預とよが、軍事の指揮を執っておりますので、心配無用かと」


 あ……、そうだった。杜預君がいたんだった。

 長いこと、楊儀君を任せきりにしているかもしれない。

 相性として、どうなのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る