第13話 長安攻防戦

 今俺は、雍州涼州の報告書を呼んでいる。

 郭淮は、長期戦に備えて、涼州に兵糧を溜め込んでいた。

 まあ、魏は蜀漢の十倍くらいの収穫があるんだ。兵士を養うのにも、これくらいは必要だったんだろう。


 王平が、天水に残って、姜維と司馬昭が、潼関に向かった。

 食料輸送は、諸葛瞻に任せる。長安と潼関に運ばせた。

 後は、成都に連絡して、兵士をできる限り集めた。

 楊儀が、出陣許可を求めて来たけど、却下する。呉国の備えなのだ。それと、楊儀は、戦争の指揮権を持ったことがないはずだ。


「これで、できることは終わったかな~」


 斥候を放って、各地の戦況を収集する日々が始まった。





 魏軍は、三軍に分かれた。上庸と長安と潼関に攻め込んで来たのだ。

 アホとしか言いようがない。戦力は集中させるべきだろうに。

 でも、こちらも分散して兵力を配置している。空いた軍は、敵の背後を突く予定だったんだけど。

 ナポレオンの戦術って言っても、誰も分からないのが悲しい。

 ハンニバルは、故人だな。だけど、西洋の戦術はまだ聞こえてこないんだよな~。何処で止まっているんかね?


「こうなると長期戦だな~」


 そう思ったんだけど、呉軍が動いた。合肥城を落としてくれたのだ。そのまま、洛陽に攻めかかる。陸遜は、やっぱ優秀だな~。部下に欲しいよ。

 背後を取られた魏軍は、慌てて撤退だ。洛陽は、失えないもんね。

 蜀漢は、その背後を大いに撃った。


 戻って来た将軍たちは、自慢げに手柄を報告する。

 もうね、劉家の宝物を全部吐き出したよ。

 俺の財産は、スッカラカンだよ。嬉しいので、いいんだけどね。


 一年後、呉軍が撤退した。

 呉軍は、洛陽を落とせなかった。流石に兵力差があり過ぎたか。でも合肥城をとったので、魏国としては、戦略上かなり痛いだろう。

 守るべき城が、大量に増えてしまったからだ。


 蜀漢は、涼州を完全に掌握した。

 王平君が纏めてくれていたけど、優秀だったのね。統治能力もあったんだ。知らなかったよ。

 それと、楊儀は襄陽を落とした……。まあ、魏国は洛陽に兵を送って、ほぼ空だったんだけどね。空き巣戦法と言っていい。命令無視だけど、褒美は出そう。

 楊儀を荊州牧に任命すると、忠誠心爆上がりだったよ。宝物はなかったけど、許してね。印綬って無料なので、使いやすいな~。





「う~ん。兵を失い過ぎたね~」


「……攻め時なのですが、こればかりは、どうしようもありませんでした」


 司馬昭君がいなければ、守れなかったのは、誰もが知っている。


「別に、責めてないよ? 魏国も呉国も継戦は無理だろうし。魏延将軍は、徴兵と練兵をお願いね」


「承知っす。お任せを」


 これからは、国力の回復次第だな~。三国の内どの国が一番戦力を整えるのが早いか……。


「朕は、成都に帰るね~。防衛はお願いね~」


「「「はっ!」」」



 まあ、攻めなければ、兵が大幅に減ることもないだろう。唯一の懸念は楊儀かな~。

 でも、そんなに兵士を預けてないし、荊州を統治してくれるのであれば、任せてみよう。諸葛丞相が目をかけていた人物なんだし、隠れた才能があるかもしんない。





 成都に帰って来た。

 何年ぶりかな~。

 民衆の大歓声を受けながら、成都の道を進む。長安奪取は、蜀漢にとって悲願だったからね~。

 そのまま、玉座に座った。


「皆……長い間、留守にしてゴメンね~。それと、救援は助かったのよ~。ありがとうね~」


「「「はっ! ありがたき幸せ!」」」


「これからは、内政に力を入れるから、引き続き協力をお願いね~」


「「「もちろんっす!」」」


 いいね、いいね。蜀漢って人がいなくて、諸葛丞相ワンマン国って思われてたけど、有能な人材がいたんじゃん。


「陛下? どうかなされましたか?」


 にやけてしまっていたか。


「皆が頼もしくてさ~。とても嬉しいのよ~」





 とりあえず、食料からだな。

 開墾は順調だった。曹操の屯田制は、この時代に合っているみたいだ。


「予定より、食料が多いのね?」


「北方の異民族も協力してくれており、不足は起きておりません。飢饉もありません」


 ほうほう……。


「南方は? 交州? え~と、士燮ししょうだっけ? あれ? もう死亡してた?」


 え~と、三国志知識を振り絞る。士燮ししょうは、226年に死亡してんじゃん。今は、孫家が支配してるのか。


「今のところは、反乱などありませぬ。交易も順調です」


 諸葛丞相が、南蛮征伐してから、結構な時間が経っている。

 背くのであれば、そろそろのはずだ。

 誰がいいかな~。


鄧芝とうし君……。ちょっと、見て来てくんない?」


 鄧芝は、呉国との国交回復や、趙雲との北伐が有名な人物だ。


「OKっす。任せてください」


「なんだったら、そのまま統治して来てもいいからね~」


「ありがたき幸せ」


 有能な人材なんだ。俺としては、丞相にしてもいいと思っている。


 鄧芝は、南中に向かってくれた。

 結果論になるけど、子の鄧良が跡を継いで、南中での反乱は、長期間に渡り起きなかった。

 南蛮との貿易も滞らずに、国庫を潤してくれることになる。盗賊を退治してくれたからだ。


「鄧芝は、知勇に優れた人材なのよね~」


 もう少し、若かったら俺の右腕になって貰っていたんだけど。

 後数年で死亡してしまう人材……。


「ちょっと悲しいのよね~」


 俺は、夜空を見上げた。

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